黒子のバスケ

□親愛なる君へ
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「さつき。」
「なぁに?」
赤司に呼ばれ、笑顔でふりかえるさつきの顔を見ていたら、青峰の隣にいた黒子が
「本当に美男美女ですねぇ、あの二人。
帝光の天帝と姫と呼ばれるのも分かります。」
と呟いた。

それは本当に本人も意識しないでの呟きだったらしい。
黒子は言ってから青峰の視線に気が付いてハッとした後、
「いや…あの…」
とワケの分からないことを言っている。

「別に、ホントの事だからいいんじゃねーの。」
青峰は誰にともなくそう言って汗を拭った。


帝光の天帝と姫…それは無敗を誇る帝光バスケ部の主将の赤司と、その赤司の傍らで常に彼をサポートするさつきに付けられたあだ名だった。

無敗を誇るバスケ部の頂点に君臨する、絶対的な主将。
そしていつも笑顔で『部活中』は彼の隣にいるマネージャー。

赤司が天帝なら桃井は后妃かなんて笑う人もいたけれど、あくまで彼女は『部活中』のみ彼の隣にいて、普段の学生生活ではいつも幼馴染の青峰の隣にいた。
だからその容姿と、一年から二年連続でミス帝光になった事で姫とあだなされていた。

だけど、今は徐々に帝光の姫を帝光の后妃と呼びだす人もいる。
三ヶ月前から、二人は付き合い始めたからだ。

それからは、普段の学校生活でも徐々にさつきは青峰の隣ではなく、赤司の隣にいる事が増えている。

青峰はボードを覗き込みながら何かを真剣に話し込んでいる二人をそっと見てから、視線を自身のバッシュに落とした。



四ヶ月前、青峰は部活が終わった後、赤司に
「青峰、話があるから残ってくれ。」
と言われ、何か赤司の逆鱗に触れる事をしただろうかと真剣に考えた。

他のやつらからも何をしたのか分からないけど赤司に呼び出されるなんて可哀想みたいな目で見られた。

いつも一緒に帰ってたさつきには先に帰るように言った。
なんだかんだ言いつつ、律儀でちゃんとさつきを送ってくれてかつ、帰る方向の同じ緑間にさつきを送ってくれるように頼み、部活のあと部室で青峰は赤司と向き合っていた。

何を言われるんだろう、怒られるんだろうか、そんなことを考えていた青峰に赤司が言った言葉は意外な言葉だった。

「大輝、お前はさつきをどう思っている?」

中学に入ってから何度も何度も周囲から聞かれた事だった。
だけど赤司がそんな俗な質問をするとは思わなくて、青峰は驚いていた。

「どうって幼馴染だろ。
っつか、お前でもそんなこと気にするのな。
なんか以外だったわ。」

青峰の答えに赤司はふっと笑った。
「他のやつらの様に興味本位で気にしてるわけじゃない。
僕は本当にさつきを好きだ。
だから、お前の気持ちを聞いておきたかった。
本当にただの幼馴染なんだな?」

赤司がじっと青峰を見ている。
本当にもなにもないだろう、だってさつきと自分は幼い頃からずっと一緒にいる、ただの、幼馴染だ。
それ以上でも、それ以下でもない。

「ああ。
ただの幼馴染だ。」
青峰の答えに赤司は
「そうか、ありがとう。
残して悪かったな。」
と言って笑った。

その日の夜、自室でぼーっとしていたら、窓をこつんと叩かれた。
顔を上げたら窓の外にさつきの顔が見えた。

青峰とさつきの家は隣同士で、お互いの部屋は窓が向かい合っている。
孫の手みたいな長いもので窓を叩ける程度にしか離れていないし、お互いに窓を開けていれば話が出来る距離だ。
青峰は窓を開ける。

「赤司くんの話ってなんだった?
大ちゃん、何かしちゃってたの?
心配してたんだよ、ミドリンが明日の青峰は練習5倍になるんじゃないのかとか言うし。
そうしたら青峰はきっと屍になるのだよとか言うんだもん、思わず笑っちゃった。」
カチャッとめがねを上げる仕草をしながら緑間のまねをしたさつきに、普段ならきっと大笑いしながら似てねーと言ってたと思う。
だけど今はそんな気分じゃなかった。

「たいしたことじゃねーから、練習も5倍になんかなんねーよ。」
青峰はそういうしかなかった。
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