黒子のバスケ

もしも離れてしまっても
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「これよりインターバルに入ります。」

場内を流れるアナウンスに真っ先に戻ってきた赤司が
「桃井!」
と声をかける。

「はい、お疲れ様!」
さつきは笑顔で赤司にタオルを渡し、続いて戻ってきた緑間、黄瀬、青峰と黒子にもタオルを渡した。

そしてすぐにさつきはボードを赤司に見せる。
「12番、3Pを2本入れてるぞ。
桃井は13番が3Pを身につけてるとはずだと言っていたよな?
なのに13番は3Pを一本も打たず、12番が打ってるのはどうしてだ?」
赤司の言葉に
「多分、13番は今はまだ見せないようにしてるだけだと思う。
後半、打ってくるはずだよ。
うちが13番に3Pがないと思ってることを想定してて、効果的な場面で使おうと今は隠してるだけ。
それに12番の3Pは確率がよくないの。
10本も打ってて2本しか入ってないんだよ?
12番の3Pは、こっちにムッくんがいないからリバウンドがいつもより弱いのを分かっててのはったり。
それよりも、3Pを10本も打たれてる方が問題だと思う。」
さつきはスコアブックとデータを示す。

「12番とのマッチアップは青峰なのだよ。」
緑間もスコアとデータを覗き込みながら言う。
その緑間にスポーツドリンクを渡すとさつきは頷いた。

「打ってもはいんねーんならいいじゃん。」
さらっと流す青峰を
「大輝、交代するか?」
赤司が睨む。

「桃っちー」
そんな主将の様子は知らん顔でさつきを呼ぶ黄瀬に、さつきはレモンのはちみつ漬けのタッパーを渡し、
「ムッくんに入ってもらったらどうかな?」
と言いながら黒子にはゼリー飲料を、青峰にはタッパーを渡す。

「ムッくんが入ったらインサイドが強化されるから…」
「入るかどうか分からないシュートは打てないというわけか。」
赤司が顎をなでる。

「そう。
その分、13番にボールが…」
「集まるのだな?」
緑間に向ってさつきが微笑む。
「そうなの。
だから今のまま頑張ってね、ミドリン。」

「さつきー」
自分を呼ぶ青峰にドリンクのボトルをもう一本渡し、さつきはどうかなと赤司の顔を見る。

「ちょうどミスディレクションも切れて来る頃だし、テツヤ、後半は敦と交代。」
「分かりました。」
「ムッくん、アップよろしくね!」


インターバルに入ってすぐ選手にタオルを渡しながら主将と副主将にデータを示し、助言をしながら選手にドリンクやタッパーなどを配るさつきにいつものことながらみんな驚く。
どうすればいっぺんにあんなに色々とこなすことができるのだろう。

「テツくん、体冷さないようにね。」
さらに黒子にジャージを渡し、変わりに紫原に向って手を出す。
その手に紫原は脱いだ自分のTシャツを渡して立ち上がった。

「ムッくん、ストレッチ手伝おうか?」
「うん、お願いー。」

赤司にドリンクを渡すとさつきは立ち上がった。

紫原のストレッチを手伝い始めるさつきを見ながら緑間が感心したように言う。
「しかし桃井は本当にすごいのだよ。」
「ああ、本当だな。」
赤司も頷く。

「桃っちにストレッチ手伝ってもらえるとかいいなぁ…。」
主将・副主将とはまったく違う観点で黄瀬は羨ましがっている。
「ありゃ、紫原だから手伝ってやってんだろ?
お前じゃ無理だって。」
けらけらと笑う青峰に
「ええ、恋人の紫原君だけへの特別ですから、幼馴染の青峰君でもしてもらえないですね。」
黒子が無表情に告げる。


今日は帝光の一軍の練習試合の日だった。
相手校は中高一貫の私立の男子校で、バスケを始め、運動部に力を入れている学校だったけど、この分なら余裕で勝てそうだ。
敦もやる気だし。

赤司は口元に笑みを浮かべてストレッチをしている紫原と、それを手伝っているさつきを見た。


ダブルスコアで勝ち、相手校を見送り、体育館の片付けは一年生に任せてミーティングをした後、帰るために学校を出た所で青峰が紫原とさつきがいないことに気が付いて首をかしげた。

「さつきと紫原は?」
「部室に残っている。
今頃、敦がクールダウンするのをさつきが手伝っている頃だろう。」
赤司の答えに
「クールダウンって…さっき一緒にやったじゃないっスか?」
黄瀬が首を傾げる。

「野暮ですね…。
まぁ、あまり気にしないことです。」
黒子がため息をつく。

「野暮?
なぜ野暮なのだよ。
気にはしていないが。」
緑間がめがねを上げる。

「ぐずぐずするな。
コンビニに行くんだろう?」
赤司はそんな4人を見渡して笑みを深めた。



「ふぁっ…ふっ…」
バスケ部一軍の部室に荒い息遣いが響く。

椅子に座ってる紫原の膝の上に座った状態で、さつきは紫原のキスを受け入れている。
紫原の肩の上に手を乗せているさつきの後頭部を紫原は押さえ込み、その口の中に舌を差し入れて深く口付けている。
酸素が足りなくなってきてさつきは紫原の肩を叩くけど、紫原はさつきの舌をからめとって、離さない。

「ふぅんっ…はぁ…」

自分の口内で混ざり合った唾液を飲み込んで、さつきはもう一度紫原の肩を叩く。
それでようやく紫原はさつきを放した。

「さっちん、可愛いー」
真っ赤になって息を弾ませているさつきを紫原は抱きしめる。

「ムッくん、苦しい…」
さつきは紫原の腕の中で呟く。

好戦的な性格の紫原は、試合の後でよくこうしてさつきを抱きしめる。
試合で昂ぶった感情をおさめるのに、こうするのが一番いいと紫原本人が言うのだから、きっとそうなのだろう。

「さっちんが可愛いからいけないんだよー。」
紫原はさつきの首筋に顔を埋めて、舌で舐め上げる。

「んぁっ…!
ムッくんっ!」
今度は甘い声が上がり、紫原はそれに機嫌をよくして、もう一度さつきの首筋を舐め上げる。

「やぁっ…ムッくん…」
「なんでさっちんそんな可愛いのー?
やっぱ無理だったー。」

紫原はさつきを机の上に押し倒した。
パーカーのファスナーを下ろして、リボンタイを解いてブラウスのボタンに手をかける。

「ムッくん、ここ部室っ!」
さつきはブラウスの第一ボタンを外した紫原の大きな手を自分の手で抑えるが、
「大丈夫だよー。
鍵は五時までに返せばいいって、赤ちん言ってたし。」
紫原がさつきの顔を覗き込むので、それ以上は何も言えなかった。

だけど紫原の思うままになるのはなんだか腹が立つから
「ムッくん、私がいなかったらどうするんだろうね?」
精一杯の嫌味を言ってみる。

「さっちんがいなくなることなんかないよー。」
紫原はへらっと笑った。

「いなくなることもあるかもよー。
高校とか…ムッくんたちと違って、私は選手じゃないから推薦来るとは思えないし。
だから同じ学校にいけるかどうかなんて分からないよ?」

どこか得意げに話すさつきを見下ろして紫原はもう一度へらっと笑った。
「大丈夫だよー。
さっちんが一緒じゃなきゃ、オレ、高校行かねーし。
さっちんいないとか、ありえねーし。
さっちんはちがうの?」

「ううん、そんなことないよ。
ずっとムッくんと一緒にいたいもん。
でも、もしどうしようもない事情で離れなきゃならなくなったとしても、それでも私はムッくん大好きだよ。」

自分を見下ろす紫原の首に腕を回して、さつきも笑う。

「オレも大好きー。
うん。
離れたくないけど、もし離れちゃったとしても、オレもさっちん好きでいるー。」

大きな手で起用にさつきのブラウスのボタンをはずしていく紫原の首に回した腕に力を力を込めてその顔を引き寄せ、さつきはその唇に自分から口付けた。

END


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