黒子のバスケ

君だけのヒーローVer.黒子
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「桃井どうした?!」
部室のドアを開けながら叫んだら、涙目になったさつきが
「主将!」
と言いながら若松に抱きついてきた。

抱きつくというよりは、しがみつくといった感じで、さつきは若松の背中に腕を回してTシャツを強く握り締めている。

「桃井、どうした?!
何があった、大丈夫だ、落ち着け!!」
そう言いながらさつきの背中をさするけど、
「いやっ、かえ…かえっ…かえっ!!」
さつきはそれしか言わない。

「かえ?」
若松はさつきにしがみつかれながら部室内を見回す。
そして床に転がってるものに気がついた。

青峰のグラビア雑誌と、かえるのおもちゃだ。
いや、おもちゃと言っても精巧にできていて、一見すると本物のかえるに見える。
だけど床に転がったままピクリとも動かないのでそれがおもちゃだと若松には分かった。

そういえば、梅雨の時期にさつきが
「私、かえるがすごく苦手なんです。」
とか言ってた気がする。

それで取り乱してるのか…若松はさつきを強く抱きしめた。

「大丈夫だ、桃井、落ち着け。」
何度も何度も声をかけながらさつきを抱きしめるうちに、さつきも落ち着いてきたようだった。

それを見計らって
「桃井、あのかえるはおもちゃだ。
大丈夫。」
と告げたら、
「はひっ?」
さつきはなんだか変な声を上げたので、若松は思わず笑ってしまった。
普段のさつきは非の打ち所がないくらいあまりにも有能なだけに、こういう一面を見ると素直に可愛いと思ってしまう。

「あのかえるはおもちゃだから大丈夫だ。」
若松はもう一度さつきに告げる。

「すっすっ…すみませんっ!!」
数秒の後、さつきは真っ赤になって慌てて若松に謝った。

「あのっ、あのっ、私、あの、部室の掃除してたんです。
それで、あの、大ちゃんのロッカーの中、絶対にグラビアがいっぱい入ってると思って…それで部室に置かないように注意しようと思って…家が隣だから持って帰ってあげようと思って…それでロッカー開けたら、かえるが出てきたからびっくりしてっ!」

さつきは慌ててこうなった経緯を説明し、若松に謝った。

それと同時に、青峰に対する怒りがこみ上げてくる。

きっとさつきがグラビアを持ち帰ろうとすることを予想してあんなおもちゃを仕掛けたんだろう、それにまんまとはまってしまった。
そしてよりにもよって、若松の前で取り乱してしまった。
憧れの先輩の前であんなにみっともないところを…本当に大ちゃん許せない!
さつきは心の中でそう思う。


さつきは若松に憧れている。
バスケ部の誰もが何も言わない青峰に対しても、若松は練習に出ろ、自己中は辞めろ、試合には遅刻するなと言い続けた。
青峰の能力が開花した後は赤司でさえ青峰に何も言わなかったのに、若松は青峰に向き合ってくれた。

そんな若松にさつきが好意を抱くのに時間はかからなかった。
その若松が主将になった時、全力でサポートしよう、さつきはそう決めたのに、若松の前で醜態をさらしてしまった。

取り乱して叫んで…こんなところを見られて、若松に嫌われてしまうかもしれない…。
そう思ったら自分でも信じられないことに涙がぼろぼろとこぼれてきて、さつきは自分で自分に驚く。
だけど涙は止まらない。

嗚咽まで漏れてしまい、若松はぎょっとする。
さつきが泣いてることに気が付いたからだ。

取り乱してはいたけど、泣いてはいなかったはずのさつきがいきなり泣き出したので、若松はおろおろし始める。

そういや桃井を抱きしめたままだった。
オレが抱きしめてるからいやで泣いてるんじゃねーか、そう思って若松はさつきを離した。

だけどさつきは若松の背中に回した腕を離すことはなかった。

「桃井、どうした?!
なんかオレ、お前を泣かすようなことしたか?」

考えても分からない、なんでさつきが泣いてるのか。
だから本人に聞くしかなかった。

「……ないで…」
さつきのか細い声が聞こえる。

「え?」

「……ならないで…」

「桃井?」

「嫌いにならないで…」

さつきの声が聞こえた瞬間、若松はさつきを再び強く抱きしめた。

「なるわけないだろ!
オレは桃井が好きなんだから、嫌いになんかなるわけないだろ?」

「え?!」
若松に抱きしめられて、若松に好きだからと言われてさつきは驚く。

驚いて涙も引っ込んださつきに若松は言葉を重ねる。

「オレは桃井を嫌いになんかなったりしない。
好きだから、嫌いになんかなったりしない。」

「主将…私も主将が好きです。」

さっきと同じか細い声。
だけど、その声はしっかりと若松に届いた。
若松の顔に笑みが浮かんで、さつきを抱きしめる腕に力がこもる。
それに比例するように、若松の背中に回されたさつきの手にも力が入っていった。

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