黒子のバスケ

□My Sweet Honey
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NBAのオフシーズンで日本に帰ってきてる青峰が、モデルから俳優に転向した黄瀬の紹介でトーク番組に出ると言うので、今日はオフの黄瀬の家に、赤司・緑間・紫原・黒子は集まっていた。
あの青峰がどんな話をするんだろう、興味は尽きない。


青峰は大学には行かず、高校を卒業したらアメリカの大学に留学した。

さつきはそれには付いて行かなかった。
日本でスポーツトレーナーになるために学ぶ、それが終わったらアメリカに行く。
青峰とそういう約束をしていたらしい。

幼馴染達は四年間、離れ離れになる事を選んだ。
四年後から始まる、長い未来のために。

そしてさつきが大学を卒業した年、青峰はさつきにプロポーズをし、さつきはそれをOKして二人は入籍だけをしてさつきアメリカに経った。
大学時代から注目されていた青峰はNBAのチームに入り、さつきはスポーツトレーナーとして青峰を支えながらアメリカで暮らしていた。

NBAでルーキーオブザイヤーを受賞し、日本でも有名になった青峰はさつきと結婚式を挙げるためにシーズンオフに帰国。
そこを黄瀬の紹介でテレビに出ることになったということで、キセキの世代と呼ばれたメンバーはそれを見るために仕事を休んで黄瀬のマンションに集まっている。

帰国したての青峰とさつきには、まだメンバーも会っていない。
黄瀬だけは電話越しに話したが、他のメンバーはメールでやりとりをしただけだ。

ちなみにさつきは青峰のチームで日本人女性初のスポーツトレーナーとして働いている。
その容姿と青峰の妻だということ、他のチームメイトたちも青峰の妻としてではなく、スポーツトレーナーとしての彼女を絶賛したため、それなりに知名度がある。
黄瀬としては夫婦で出演して欲しかったが、青峰がそれを拒否したため、青峰一人での出演となった。


「よく大輝が出演をOKしたな。」
赤司がフローリングに無造作に置かれたビーズクッションの一つに座って黄瀬を見た。

「後で殴るって言われたっス。」
黄瀬はへらっと笑った。

「お前のお陰で大迷惑なのだよ。」
緑間はため息をつく。

「本当です。」
黒子もめんどくさそうにしている。

紫原も
「峰ちんの前にオレが捻り潰したい感じ。」
といって、黄瀬は
「何でっスかぁ〜!」
と涙目だ。


キセキの世代と呼ばれたメンバーは、今もそれなりに自分の選んだ道で有名だ。
赤司は史上最速最年少で名人になった天才棋士として。
緑間は新薬を開発した秀才研究者として。
黒子はベストセラー作家として。
紫原は海外でも高い評価を受けるパティシエとして。
その全員が、黄瀬つながりで青峰を筆頭に順番でこのトーク番組に出演することになっているからだ。

「あ、ほら峰ちん出てきた。
すっごい機嫌悪そう…」
紫原がテレビ画面を指差す。

「うぁぁ…こわっ!
青峰っちこわっ!」

「大輝の女性ファンは減ったな、確実に。」

「青峰に女性のファンなどいるのか?
こんな強面の男がいいとか…女子の考えることは分からんのだよ。」

「それは桃井さんに失礼ですよ。」

「いや、さっちんがなんで峰ちんと結婚したか、オレ、いまだにわかんねーし。
さっちん、いっぱいもてたのにさー。」

ここに本人達がいたら怒ること確実な会話をしながら、五人はテレビに釘付けになる。
青峰はめちゃくちゃ不機嫌そうで、百戦錬磨の司会者もちょっと怯んだ様子だったが、
「青峰選手、ルーキーオブザイヤーおめでとうございます!」
と青峰に笑いかけた。

会場から拍手が起こる。
青峰はそれに少しだけ顔を緩めた。
「ドウモアリガトゴザイマス。」

「うっわ、青峰っち、超棒読みっス!」
「涼太、うるさい。」
赤司に睨まれ、黄瀬は仕方なく黙った。

「今回こっちに帰ってきたのは結婚式挙げるためだって昨日、黄瀬君が言ってたけどどうなの?」
司会者はいきなりその話題を切り出す。
会場がわぁっという歓声に包まれた。

「そうっす。
嫁とは四年間、アメリカと日本で離れてて、嫁大学卒業してすぐに入籍だけしてあっち連れて行ったんで。
式とかしてねーから。
でも女だし、さすがに式くらいしてーかなって。
ウェディングドレスもきてーだろうし。」
「黄瀬君情報だと、奥さん幼馴染なんだよね?
桃井さつきさんだっけ、フリップでてるけど、すっごい美人だよねぇ。
これだけ美人じゃ、ウェディングドレスとか着せたくなるよねぇ。」
司会者の言葉とともに、画面にさつきのフリップが出る。

「一年会ってないだけなのに、こんなにキレイになってるものなんですね…。」
「本当に桃っちキレイっスね…。」
「峰ちんにはもったいなくない?」
「もったいないのだよ。
あんな暴君じゃなく、もっといい男と結婚できただろうに…。」
「ああ、本当にもったいないな。」
画面に映し出された最近のものと思われるさつきの写真をみて、全員が頷きあう。

会場からも
「キレイ!」
「美人!」
などの声が上がる。

しかし、その歓声が収まった後の青峰の言葉に五人は固まった。

「よく言われるっス。
嫁、キレイとか、美人とか。
チームメイトなんか嫁のこと、Beautiful goddess of victoryなんて言ってるし。
でもオレにとってはキレイってより、可愛いんだけど。
あれで案外甘えたがりだったりとかな。」

司会者も会場も
「ラブラブだねー。」
なんて茶化しているが、青峰大輝という男のことを知っている五人にとっては、あの青峰がこんなこと言うなんてと驚きでいっぱいだった。

「どんな感じで甘えてくるの?」
「あ?
ケンカしてても夜になると大ちゃん一緒に寝ようよ、今日はごめんねとか言ってだきついてくるとことか、マジ可愛いっすよ。
料理はすっげぇ下手だったんだけど、スポーツ選手の奥さんになるからって猛特訓して人並みになったとこも可愛いし。」

青峰は淡々と語る。
顔がまったく綻んでいなくて、普通の顔をしている。
とてものろけ話をする顔ではない。

「幸せなんだねぇ。」
「そうっすね。
まぁ、仕事中は怒ってても家に帰ると別人みたいな顔で『お帰りなさい、お疲れ様』とか言われると疲れもふっとぶし。
本当はオレの専属トレーナーにしてぇんだけど、チームメイトもさつきのトレーニングは効率的でいいって言うから仕方なく…チームには恩があるし。
でもマジ、オレの嫁は世界一だな。
それだけは自信持って言い切れるわ。」
「青峰選手、本当に幸せなんだねぇ。」
「ああ。」

普通の顔で頷く青峰をテレビ越しに凝視してた赤司が
「大輝、随分と変わったな…。」
と呟く。

その間にも青峰は
「オレがテリヤキバーガー好きだから、テリヤキチキン作ったりとか。
あと、毎晩マッサージとかしてくれるし、ホントいい嫁で。」
とさつきとのことを淡々と話す。

「これ、ノロケじゃないですね。」
「ああ、ノロケじゃないのだよ。
本気でそう思っているのだよ、青峰の顔は普通の顔なのだよ。
本人にはノロケ話のつもりはまったくないだろうな。」
「ノロケじゃないねー。
峰ちん変わったねー。」
「結婚するとこんなに変わるもんなんスか?!」
「結婚相手がさつきだからだろう。
さつき以外と結婚する大輝なんて想像もできないが。」


その時、赤司の携帯がなった。
画面に目を移すと、お友達紹介の時間になっていた。
青峰が電話を耳に当てている。

「赤司だ。」
赤司が携帯の通話ボタンを押した。

「おー、赤司?」

「ああ、久しぶりだな、大輝。
明後日あたり集まらないか?
一年ぶりにさつきの顔も見たいし。」

「あ?!
さつきは行かせねぇよ?
例えお前らでも、さつきがオレ以外の男と会うとかないわー。」

「大輝…これ、全国放送だってこと分かってるか?」
赤司は呆れ、他の四人はテレビから聞こえる音声と青峰の当たり前だろといいたげな顔に唖然としている。

「分かってるけど?」

平然と答えた青峰から慌てて司会者が電話をとりあげ、赤司に初めましてとか、史上最年少名人すごいねとか言ったあと
「明日きてくれるかなー?」
とお決まりのせりふを言う。
赤司は携帯を持ってない方の手でこめかみをおさえ、
「いくともー。」
と答え、電話を切った。

「人間って変わるものなんですね……。
っつか、桃井さん、この放送見てるんでしょうか?」
「見てたら恥ずかしいっスよね。」
「聞いていたオレ達がこんなに恥ずかしいのだからな。」
「恥ずかしいよねー。
オレ、もう峰ちんの顔、まともに見れなそう…」
「僕もだ。」

出演時間中、ひたすら自覚なしに惚気ていた青峰と、結婚式場の情報を集めていて放送を見ていなかったさつきは五人がそんな会話をしていることなど知らなかった。

END

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