黒子のバスケ

賽は投げられた
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「部室においてあるあのグラビア雑誌、どうにかしねぇと全部捨てるからな!!」

前日の部活の時、新・主将になった若松からそう告げられ、昼休み、青峰は仕方なく部室においてあるグラビア写真集を持ち帰るために紙袋を持って部室に向っていた。

今吉は自分に寛大だったし、個人技を重視し、部活外での生活にうるさく言わなかった。

しかし若松は個人技重視というプレイスタイルは変わらないものの、それ以外ではうるさい。

根本的なところでチームに信頼があれば、プレイスタイルが個人技重視でも今よりもっと強くなれるはずだ。
それが若松の考えで、原澤は
「若松君が主将ですから若松君のやりたいようにやってかまいません。」
と言い、さつきは若松に
「私もそう思います!
だから全面的にサポートします、若松主将!」
と賛成している。

そんな若松が主将になって一番最初にやったことが、全員で部室の掃除だった。
それで今吉が何も言わなかった部室に置きっぱなしのグラビアについて文句をいわれたのだ。

それと、今まで青峰は大目に見てもらえていた部活後の体育館掃除やボールの掃除も若松は青峰に参加するように言った。

文句を言って殴ろうとしたら、さつきが若松の前に立ちはだかって、
「私も前から気になってたの!
同じレギュラーの桜井くんだってちゃんとやってるのに、大ちゃんがやらないのはおかしいよ!」
と言われてしまい、渋々参加するはめになっている。


あの青峰にあそこまで言えるなんてすごいと、若松は部員から尊敬され始めていて、個人技重視のはずの桐皇において、部員達は少しづつだがチームプレーに目覚め始めている。

今吉とはまた別に、若松は若松の主将をしようとしている。
それはまぁ我慢できる。

だけどなにが面白くないって、そんな若松をさつきが尊敬し、いつも傍らにいることだった。
まぁあの筋肉バカっぽい男が、さつきを好きとかそんなことはないだろうけど。

なんせ、あの男、smokingを大横綱とか訳したらしいからな。
smokingはタバコを吸うって意味だっつーの!
青峰は自分もsmokingを横綱と訳したことは棚に上げて若松のことをそう思いながら部室のドアを開けた。

ドアを開けて、青峰は目を見開く。

部室の机で若松とさつきが頬が触れ合いそうなほど近くでノートを覗き込んでいたからだ。

「おい、なにやってんだよ。」

青峰が部室の扉を開けたことにも気がつかないほどに話し込んでいる二人に、青峰は最高に不機嫌な声で聞いていた。

「青峰。」
「大ちゃん。」
それで青峰に気がついた二人は顔を上げて、自分達の顔がものすごく近いことに気がつき、さっと頬を染めて離れた。
何赤くなってんだよ、むかつくな!

「何やってんだよ。」
むかついてもう一度聞いたら、さつきが青峰を見て
「大ちゃんこそ、部室に何しに来たの?」
と聞く。

「あ?
主将様がグラビアどうにかしろっつーから、取りにきたんだよ!」

「当たり前だろうが!
部室はてめーの部屋じゃねーんだよ!!」
嫌みったらしい青峰の言い方に若松が怒鳴る。

「主将の言う通りだよ、大ちゃん。
ここは大ちゃんの部屋じゃないんだからね。
それで、PGなんですけどやっぱり、桜井くんが補助していくしかないと思うんです。
今吉先輩は心理戦に長けてましたけど、なかなかああは行かないと思うので。
桜井くんは一年分、多く試合の経験を積んでるから、判断ができるはずですし。」
さつきはちらっと青峰を見ると、すぐに若松に視線を移した。
「そうか。
監督はなんて?」
「若松先輩が主将になって始めての練習試合だから、主将に任せるって言ってました。」
「そうか、それじゃ桃井の言う通りにやってみよう。
戦略面はオレより桃井の方が分かってるだろうから、任せる。」

青峰がいるのにそんなことどうでもいいかのように振舞われ、むかついた青峰はさつきに近づいてその髪を引っ張る。

「いたっ!
もう、なにするの、大ちゃん!」

「なにしてるんだって聞いてんだろ、シカトすんな!」

頬を膨らませて青峰を睨むさつきに代わって若松が眉間に皺を寄せて答える。
「次の練習試合についての話し合いだ!
てめーはさっさとグラビア持って教室帰れ、邪魔すんな、オレの視界から消えろ!」

「あ?!」
青峰が凄んだ時だった。

「バスケ部の桃井さん、桃井さん、職員室の原澤のところまで来てください。」
原澤の声で放送が入り、さつきが立ち上がる。

「監督に呼ばれてるのでちょっと行ってきます、主将。
大ちゃん、グラビアちゃんと持ち帰ってね。
4月になったら、二年生になるんだよ?
後輩が部室に私物置いてもいいと思うようになったら困るでしょ?
それじゃ主将、行ってきます。」
さつきはそう言って部室を出て行く。
なびいたさつきの髪からふんわりと漂った甘い香りがまだ部室に残っている。

さつきが出て行ったのを見てから、青峰は黙って自身のロッカーからグラビア写真集を取り出して紙袋に入れていく。
そんなにないと思っていたが、紙袋はずっしりと重い。
これだけあったらさすがに怒られても仕方ねぇかな、そうは思ってもさつきが若松と二人きりと言うのは面白くない。

例え、smokingを大横綱と訳すようなバカで、女に興味はなさそうに見えても、いちおー釘はさしとくか。

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