黒子のバスケ

あなたの手
2ページ/2ページ

体育館に行ったら、灰崎はいなかった。

さつきは赤司に断って、部室に灰崎がいないか見に行った。

部室のドアを開ける。
そこには灰崎がふてくされたような顔をして座っていた。

「いた。
もう、ショウゴくん、何してるの?
練習始まってるよ。」

さつきは部室のドアを閉めると灰崎に近寄っていく。
普段、灰崎に見上げてもらうことなど絶対にないが、今は灰崎は椅子に座っていて、さつきは立っているので、灰崎がさつきを見上げている格好になる。

柄の悪いと思われている灰崎だが、さつきには優しい。
やり方は間違ってると思うけど、さつきを守るために一生懸命なのはさつきも分かっている。
それに、こうしてふてくされている顔は、年相応に見えて可愛いとすら思う。


「何怒ってるの、ショウゴくん。」
さつきは灰崎の前にたつと、その髪をそっと撫でた。

「ガキ扱いすんな!
お前、また職員室に頭下げに行ったんだろ?
テツヤに言われた。
暴力以外の方法で桃井さんを守れないんですかって。
好きな子が自分ためにあちこちに頭を下げる姿を見てなんとも思わないんですかってな。」

灰崎はさつきの手を払ったあと、仏頂面でさつきを見上げた。

さつきは灰崎のこういう顔も好きだ。
付き合う前まではふてぶてしい印象のあった灰崎だったけど、こうやって拗ねるところは子供みたいで、同じ年なのに母性本能をくすぐられる。
灰崎のためなら、別に頭くらいいくらだって下げていい。

だけど、男の頭は軽くない。
赤司と緑間にも頭を下げさせるのは申し訳ないと思うけれど。

それに、灰崎の手は、さつきを守るために誰かを殴るための手じゃない。
バスケをするためにあるのだ。
その手を自分のために他の人を殴るのに使うのはやめて欲しい。
大事な、大事な手なんだから。

さつきは灰崎の手をそっと取った。
大きな手だ。
自分の手と全然違う。
骨ばってて大きい。
この手で灰崎には未来をきちんと掴んで欲しい。
そう思う。

「ショウゴくん。
別に、ショウゴくんのために誰かに頭を下げることは苦じゃないよ。
それでショウゴくんやバスケ部が守られるなら、私、何度だって誰にだって頭を下げるよ。
だけど、赤司くんやミドリンを巻き込むのだけは心苦しいかな。
だって、男の人の頭ってそんなに簡単に下げるものじゃないでしょ、本来は。
特にあの二人はプライドが高いし。
だけどあの赤司くんやミドリンがそれでも頭をさげてるの、大事なもののために。
それが、誰のためでもない、ショウゴくんのためだってことだけは忘れないで。
それとね、ショウゴくんの手はやっぱり、バスケをするためにあるの。
誰かを殴るためにあるんじゃないんだよ。
それが私のためだったとしても、それでも私はショウゴくんの手で誰かを殴ったりして欲しくないの。
バスケだけをしてて欲しいの。
ショウゴくんの手はバスケをするためにあるんだから。
そうやって、明るい未来を掴んで欲しいの。
だって、そんなに大きな手をしてるんだから。
自分で望めば、なんでも掴めそうじゃない?」

さつきは灰崎の手を自分の手とあわせてみる。
さつきの手は灰崎の指の第二関節をちょっといったところまでしかない。

「ね?」
さつきは灰崎に笑いかけた。

その笑みに灰崎はぐっと詰まる。
そして、自分でも顔に血が上っていくのが分かった。

最初は全然本気じゃなかった。
ただ、青峰の幼馴染で、他のレギュラーメンバーも大切にしてるさつきを盗りたかっただけだ。

愛情なんてなかった。

だけど、こんな笑顔でショウゴくんのために誰かに頭を下げることは苦じゃない、それでショウゴくんやバスケ部が守られるなら、私、何度だって誰にだって頭を下げる何て言われて、愛情が沸いて来ないわけがない。

今はもう、さつきは灰崎の、何よりも大切なものだ。
だから、この手で守れるなら守りたい。
心からそう思う。

「バカ、オレの手はお前を抱きしめるためにあんだよ。
オレの手はお前守るためにあんだよ。」

灰崎は立ち上がるとさつきを抱きしめた。

この腕の中の小さなぬくもりを、何をしても守りたい。
そう思う。

本当に掴みたいのは、バスケのある未来じゃなくてお前のいる未来だ。

END

前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ