黒子のバスケ

アテナの恋人
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赤司はバスケ部のメンバーには言ってないが、実はさつきと付き合っている。

知的で、バスケに対する姿勢は自分とまったく変わらない。
自分をたちを勝利に導くあのデータを作成するためには相当の努力をしているはずなのに、マネージャーとしての雑務もこなし、試合の時は笑顔でベンチを守って自分達を全力でサポートしてくれる。

そんなさつきを好きだと自覚した赤司は、すぐに行動を起こした。
主将であることを利用して、二人で過ごす時間を増やし、駆け引きをするのではなく、赤司にしては珍しいが純粋に彼女に対する好意をまっすぐに伝え続けた。

その結果、さつきも赤司を受け入れてくれた。
が、部員への影響が出ないとも限らないからという理由でさつきは自分達の関係は隠しておきたいと言った。

赤司としては黙っている必要性をまったく感じない。
自覚がないだけでもてる彼女に他の男が言い寄らないように、そしてこちらは自覚しているが、うるさく自分に言い寄る女性避けのためにも付き合ってることを公にしたかったが、さつきの言うことを大人しく聞いたのは惚れた弱みだったと思う。

だから表面上『さつき』『赤司くん』と呼び合っていたが、二人きりの時だけは、さつきは自分を『征くん』と呼ぶようになった。
その呼び方を、二週間ほど前に、練習試合のために赤司と緑間とさつきでミーティングをした時にさつきは赤司に対してしてしまったのだ。
その瞬間、さつきは顔を赤らめて俯いた。

その顔はとても綺麗だったが、その顔で緑間は自分とさつきの関係に気がついたのだろう。


赤司は緑間の気持ちは知っていた。
赤司自身もまぁ相当変わっていると思うし、他人からしたら扱いづらいだろうと自覚しているが、緑間の扱いづらさと変人ぶりはその上を行く。
そして体育館に見学にくる自身のファンにも
「うるさいのだよ、邪魔をするだけなら消えてくれ。」
などと平然と言えてしまう男だ。

その男がさつきにだけは優しい視線を向ける。
さつきが部活中に何か重いものを持っていれば、シューティングの練習中でもそれを中断して手伝いに行く。
さつきに暴言を吐いた青峰にスリーポイントを打ったこともあった。
さつきがしつこい男子に迫られた時も、女子の嫉妬から嫌がらせをされた時も、あの緑間が怒りを露にしてさつきに迫った男子や、嫌がらせをした女子に怒鳴った。

これで緑間のさつきに対する想いが恋愛感情じゃないと思えるのは、鈍感なさつきと、お子様で男女の機微には疎い紫原くらいだろう。

だけどそこまで彼女を想いながら、さつきに対して緑間は何の行動も起こさなかった。
赤司は行動を起こした、それだけのことだ。
責められる筋合いのことじゃない。

「真太郎。
僕が真太郎の気持ちを知っていたように、真太郎だって僕の気持ちを知っていたはずだだ。
真太郎にとってさつきはアテナだったんだな。
だけど僕にとっては、さつきは生身の女でしかなかった。
女神じゃない、だから僕は自分の気持ちをさつきに伝えただけだ。」

緑間が赤司の顔を凝視する。

「さつきは女神なんかじゃない。
ただの女だ。
処女神でも、勝利をもたらす女神でもない。
だけど、それでもさつきを女神だというのなら、アテナよりはアフロディーテの方だと僕は思っている。
美と愛と恋の女神。
まぁ、アフロディーテは美と愛と恋を司るだけあって節操がなかったようだが、さつきには節操はあるな。
僕以外の男のことはさつきは拒むだろう。
だけど、真太郎。
さつきは僕を拒むことはしない。」

パチッと赤司は将棋盤に駒を置く。

「投了なのだよ。」

緑間は立ち上がった。

「真太郎、どこに行くんだ?」

「もう昼休みが終わる。
教室に戻るだけだ。」

赤司は部室の時計を見上げた。
確かに、時計はもうすぐ昼休みが終わることを示していた。
余計な話で、本当にしたい話ができなかった。

「僕は今日は監督やコーチたちと泉真館高校のバスケ部見学に行く。
だから今日の部活は真太郎に任せる。
今日は一切の自主練はさせずに、全員5時に帰らせてくれ。」

「分かったのだよ。」

緑間は赤司をみることなく、部室を出て行った。
赤司は少しだけ笑うと将棋盤を片付け始めた。

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