黒子のバスケ
□うんざりするほど、愛してる
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高尾は隣を歩く緑間の顔をそっと見る。
(マジ、こんなに機嫌悪い真ちゃんとか見たことねーわ。)
と心の中でだけ思い
「とりあえず真ちゃん、輪投げかなんかしに行こうぜ。」
と話しかけたら
「行きたければ勝手に行け。」
と言われ、高尾はため息を付いた。
秀徳のエース様、自身の相棒でもある緑間真太郎は帝光時代から付き合っている恋人の桃井さつきと一緒に二人で夏祭りに行くはずだった。
高尾としては、ぶっちゃけこんな変人に恋人がいるってどういうこと?!
という感じだ。
しかも、その彼女が可愛い。
帝光と試合をした時、ゲームが始まる前に、
「帝光はマネも可愛いんだど!」
「っつかさ、中学最強でマネも超可愛いとか帝光ってなんなわけ?!」
「帝光さまじゃね?」
とか先輩たちが話していたのを聞いて、帝光のベンチをみたら確かに可愛いマネージャーが赤司と話していた。
そのあと帝光にボロ負けしてそんなことはすっかり忘れていたけれど、高校で緑間と再会してクラスも同じで、接点が増えて、彼に恋人がいることを知った。
それがあの時のマネージャーだと知って、さらに緑間と付き合っていながら幼馴染の青峰を放っておけず、桐皇に進学したと聞いてびっくりした。
恋人が他の男と同じ学校選んだってそれでいいのとか色々思ったけど、近くで見ている限り、二人は仲が良さそうだった。
あの緑間が昼休みに優しげな顔で携帯で電話していたり、メールを打っていたり、たまに自主練をしないで早く帰る時は嬉しそうだったり…。
そんな顔を緑間にさせる真ちゃんの彼女…桃井さつきすげぇと高尾は思っていた。
その真ちゃんが、彼女と二人きりで夏祭りに行くはずが、夏休みで京都の赤司と秋田の紫原もこっちに帰って来ることになって、結局、キセキのみんなで夏祭りに行こうという話になったらしく…黒子は火神を連れてくるそうだしお前もくるか、桃井もお前に会いたがってるのだよと言われ、高尾も同行することになった。
祭り会場で待ち合わせをすることになっていたのだが、そこに現れた桃井さつきは確かに可愛かった。
濃紺の地に朝顔の柄の浴衣、髪を結い上げてかんざしをさし、白くて細いうなじは妙に色っぽい。
だけど、彼女は待ち合わせ場所まで青峰と一緒に来たのだ。
(ちょ、普通、恋人と待ち合わせしてんのに他の男と来るか?!)
と高尾は思ったが、まぁでもそれはいい。
周囲の男どもの視線はさつきに集まっているし、もし青峰が居なかったらそれこそナンパされまくりだったと思う。
…いや、なら真ちゃんが迎えに行けばいいんじゃね?
という疑問には気付かないふりをする。
だけど、その後待ち合わせ場所に現れた黒子に
「テツくーん!」
と抱きつき、
「私、テツくんと一緒に見たいお店があるの。」
と緑間ではなく、黒子と一緒に楽しげに歩いていってしまったのだ。
そりゃ真ちゃんじゃなくても、機嫌も悪くなるって。
挙句に、青峰に
「お前、さつきと別れたの?」
と聞かれて
「別れてないのだよ。」
と答えたら
「結構粘るっスね、緑間っち。
でもそろそろオレに桃っち譲って欲しいっス!」
と冗談めかした口調で目がマジな黄瀬が現れて、
「いや、涼太じゃなくて僕に譲ってくれ。」
「オレだってさっちん好きだよー。」
と赤司と紫原までいきなり現れて緑間にさつきを譲れといい、黒子に置いていかれた火神が
「桃井さん、ホントいいよなぁ…。」
と呟いたのも聞いてしまった。
「それはオレじゃなくて桃井が決めることなのだよ。」
緑間は憮然とした顔をして、こいつらとは一緒に居たくないとばかりに一人ですたすたと歩き出したので、高尾は慌ててそれを追っていった。
そしてその顔をそっと見て、見なかったことにしたいと思った。