黒子のバスケ

帰る場所
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とある日曜日。
海常高校の森山由孝は体育館の設備点検で部活が午前中で終わりになったため、東京にある大きなスポーツショップまで来ていた。

やっぱり、大きなスポーツショップは品揃えが違う。
森山は欲しかったバッシュ以外にも色々見て回って、思っていた以上にショップで時間を潰してしまった。

そろそろ帰ろうと店を出たところで、いつの間にか雨が降っていることに気が付く。
今朝の天気予報では午後から雨が降るといっていたが、練習は午前中だけだし、こんなに時間を潰す予定じゃなかったので傘は持ってきていなかった。

「まいったな…。」
と呟くが、しばらく待つうちに雨の降りが弱くなってきたので、森山は思い切って駅まで走ろうと一歩を踏み出した途端、制服のワイシャツをギュッと掴まれ、振り返る。

そこには女の子がいた。
ピンクの髪をした、胸が大きくて、容姿端麗な…
「桐皇のマネージャーの子?!」
森山は思わず声を上げていた。

そこにいたのは、黄瀬の帝光中時代、現在は桐皇のマネージャーである桃井さつきだった。
彼女は人目をひく容姿だし、公式戦や観戦にいった試合会場で彼女を見かけるたびに、黄瀬が嬉しそうに声をかけるから覚えている。

「えと、すみません、初対面なのに…」
さつきは森山のワイシャツを離す。

「いや、えっとそれより何か用?」
可愛いとは思っていたけど近くで見るとすっげぇ綺麗な子だ、森山はそう思いながらさつきに聞いていた。

「すみません、私、桐皇学園バスケ部マネージャーの桃井さつきと言います。
海常の森山由孝さん…ですよね?
SGで独特のフォームでディフェンスしづらい、3Pシューターの。
あの3Pは脅威です。」

「どうもありがとう。」
とりあえず褒めてもらってるようだ、そう思った森山はお礼を言うと、

「黄瀬の中学時代のマネージャーの桃井さんだよね?
うわさは黄瀬からよく聞いてるよ。」
と今度はさつきに話しかける。

「はい、そうです。
きーちゃんは元気ですか?
……じゃなかった、森山さん、今、傘も持ってないのに、この雨の中を走り出そうとしてましたよね?」
さつきは森山をじっと見ている。

まぁ確かにそうだけど…っつーか、マジこの子、可愛いな。
自分を見つめるさつきはすごく可愛かった。
次の試合はこの子のためにオレ、戦う!
これは運命だ!

森山がさつきにそう言おうとした時、さつきが森山に傘を差し出した。
水色の地に白い小花柄の可愛らしい傘だった。

「これ、使って下さい。
だめですよ、選手がこんな雨の中、傘もささずに歩くなんて!
風邪をひいたらどうするんです?」

しかも優しい!
この子、優しいよ!
初対面のオレの体を心配してくれるなんて、もしかしてオレのこと好きなのか?!

森山が驚いて目を見開いているうちに、さつきは森山に傘を押し付け、
「ちゃんと使ってくださいね!
お気をつけて!」
と胸にかばんを抱え、走っていった。
短いスカートが翻って、ぱしゃぱしゃと水をはねさせながら、彼女は走っていく。

「可愛いなぁ、桃井さつきちゃんか…。」

さつきの後姿を見送っていた森山ははっと気が付く。
あの子、オレに傘を押し付けて、自分はこの雨のなか傘もささずに走っていった!
慌てて傘を広げ、さつきを追いかけた森山だったが、もうすでにさつきの姿はどこにも見えなかった。

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