銀魂

□一番好きじゃない人
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柳生九兵衛を初めて見た時、銀時は九兵衛をすぐ女だと分かった。
センサーが反応したからだ。

名門柳生家を継がせるために、女を男として育ててきた九兵衛の父と祖父、四天王には嫌悪感がないわけじゃなかったが、
『強くて優しい女の子になりたかった』
と、九兵衛が自分の気持ちを吐露できたのはよかったと思った。

なにかあれば女ものの着物を着たりもするが、普段の格好は相変わらずでも、その表情や仕草が柔らかく、女性らしいものになっていくのを、銀時は最初は微笑ましい気持ちで見ていた。

だけど、そんな九兵衛との接点が増えて行くにつれ、九兵衛に惹かれている事に気がついた。
九兵衛の方も、合コンの時に銀時の手は握れたからか、銀時にはきさくに接してくれたし、笑顔も見せてくれる。

普段クールな九兵衛が、たまに見せる笑顔は可愛らしくて、ますます気持ちが惹かれていく。
年齢の差とか、九兵衛が名家柳生家の次期当主であるとか、気にかかる事は多かったけれども、なんとなく九兵衛も自分に好意を持ってくれているのは銀時も感じたので、ある時
「九兵衛は銀さんのこと好きだよなー。」
と言ったら、九兵衛が
「ああ、好きだよ。」
と銀時をじっと見つめて頷いたので、思わず九兵衛を抱きしめていた。

それから、おつきあいが始まった。
付き合い初めて、セレブなのに気取ったところがない性格とか、自分より男前なところがあるのに、合間に見せる女らしさが、銀時の心を強烈につかんだ。

九兵衛の方も、普段はだらしなくても、きっちり仕事をこなすし、二人きりの時に囁いてくれる愛の言葉に、ますます銀時を好きになって言った。

だけど、銀時を好きになればなるほど、九兵衛は怖くなった。

人間の気持ちは変わる。
女同士は結婚できないのが分かっていて、それでも結婚したいと思っていた妙への気持ちは友情に変わり、今、自分が結婚したいと思うほど惚れ込んでるのは銀時だ。

結婚するなら妙以外いない、そう思っていたのに。
人の気持ちは変わる。

銀時も、今は自分を愛していると言ってくれても、そのうちに他の人を好きになるかもしれない。
第一、銀時はなんだかんだいいつつも、女性にもてる。

自分みたいに、男として育てられた女よりも、女性らしい人を九兵衛よりも好きになって、そうして九兵衛に別れを切り出すかもしれない、そう思うと怖くなる。
こんなに銀時を好きになって銀時なしでは生きられなくなってから、銀時を失ってしまったら、自分はもう、この世にいられないと思う。



「若、結婚するなら1番好きじゃない人とするのがよいそうです。」
東城がそう言ったのは、祖父と四天王、九兵衛を自室に呼んだ輿矩が
『九兵衛、お前が20になったら、家督を譲る。
柳生家始まって以来の、女性当主の誕生だ。
それを周りに認めてもらうためにも、これからは一層、清廉潔白な生き方を心がけよ。』
と宣言した日の夜だった。

いつかは、自分が柳生家を継ぐ事になるのは分かっていたけれど、まだ輿矩が元気だし、自分は結婚もしていない。

まさか、20で家督を譲られるとは思わず、自室で呆然としていた九兵衛を訪ねてきた東城は、九兵衛の前に正座をし、深く頭を下げた。

「若が、銀時殿を愛しているのは分かっております。
銀時殿が、若を愛しているのも。
ですが、柳生家初の女性当主の結婚相手が街の便利屋では、周囲は納得しませぬ。
よくよくお考えになってくださいませ。」

「そんな事言われても……銀時が好きなんだ……」
涙声になった九兵衛を、顔を上げてじっと見つめて、東城は言ったのだ。

「若、結婚するなら1番好きじゃない人とするのがよいそうです。
一番好きな人と結婚して、生活をしていくうちに、一番好きな人の嫌なところをみることになって、嫌いになってしまうより、1番好きな人とは最初から結婚などせず、1番好きじゃない人と結婚した方がよいと。
若と銀時殿では、育ってきた環境も、生きてきた環境も違い過ぎます。
若、結婚とは生活です。
愛情があればこそ、乗り越えられる事もあるでしょう。
けれど、愛情だけでは乗り越えられないこともあるのが生活です。
一番好きな銀時殿を、嫌いにはなりたくないでしょう?」

東城の言葉に、ついに我慢できずに九兵衛は涙をこぼした。
その涙を、普段から九兵衛に変態的なストーカー行為をしている男とは思えないような優しい手つきで拭った東城は
「我ら四天王は、私は、これからもずっと若のおそばにおります。
それでは、だめですか?」
と言った。

「銀時は、銀時だ。
銀時の代わりになんて誰もなれないんだ。」
そう答えた九兵衛が、銀時に
「話があるから、会いたい。」
と言ったのは、一週間後だった。
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