銀魂

□クリスマスの夜に咲く花 Ver.総悟
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マンションのロビーのソファに座って、俺は九ちゃんが帰ってくるのを待つ。

家に帰ったあと、狂四郎が寝たら九ちゃんは土方に会いに行くんじゃねェかとなんとなく思ったから、出かけるところを見かけたらくっついていこうと思って自分の部屋の窓辺に座ってたのに、ついうとうと眠っちまった。

はっと目が覚めて、部屋をでて駐車場見てみたら、九ちゃんの愛車であるスカイラインは駐車場になくて、だから九ちゃんが帰ってくるのをロビーで待つことにした。


九ちゃんが土方と急接近したのは、あいつが俺に九ちゃんが木戸ってェ自分のヘルプホストと付き合ってるって言ってきた時だった。
桂に似てた木戸の中に九ちゃんは桂を見て、こっそり付き合ってたみてェだった。

木戸が既婚者だったのをその時に知った九ちゃんは、それでも木戸に未練があったみてェだけど、土方が
『自分を騙した死人に似てる男のことばっかで、生きて目の前にいて、自分を愛して心配してる人たちのことはどーでもいいのかよ?!』
って言って、たぶん、それが九ちゃんに刺さったんだと思う。

それから、九ちゃんは少しずつ、変わったように思いまさァ。
そういう面では、土方に感謝しなきゃなんねェのかもしんねェ。

けど、それから二人の関係が接近していったのはむかつくぜィ。
土方の方は完全に九ちゃんが好きだしなァ。
九ちゃんの方は、今はまだ、土方を異性として好きだと思ってるようには見えねェけど、男と女なんて、何があってどう関係が変わるのかなんて、分かりゃしねェ。

それはなんとしても阻止してェ、俺の方が土方の野郎よりずっと前から九ちゃんを好きだったんでィ。
まだ桂の事を思い出にできねェ九ちゃんが、他の男を見ることはねェって分かってるから今はまだ、気持ちを伝える気はねェけど。

九ちゃんが桂を思い出にできたら、その時はきちんと自分の気持ちを伝えて、俺を見て欲しいと思ってる。
だから、土方に渡す訳にいかねェんだよ。
それで、くっついていこうとしてたのに、寝ちまうとは……

俺は自分の腕時計で時間を確認する。
三時半を過ぎている。
もしかして、帰ってこないつもりだったりしねェだろうな……?

俺の腕時計は、ブルガリのものだ。
九ちゃんが仕事用にブルガリの腕時計を買った時、一緒にいた俺は、九ちゃんが購入したモデルの色違いを買ったんだ。
九ちゃんが買ったやつ、かっこいいなァ、俺も色違いの買うと言って買ったが、本当はそろいのものを持ちたかったから買った、俺に取っちゃ、大事な時計だ。

客から、オメガだの、カルティエだのの高級な時計をいくらもらっても、この時計の大事さには及ばない。
それを贈ってくれた客が来店する時は、贈られた時計を付けるけど、このブルガリの時計は俺には別格だ。

もう一度時計を見てため息をついた時、エントランスの自動ドアが開く音がして俺は顔を上げた。
ベージュのふわふわしたミニ丈のニットワンピースの上に、キャメルのダッフルコート、黒のロングブーツ姿の九ちゃんが入ってきた所だった。

あんなかぁいい格好で、土方に逢いに行ったなんて……
そう思いながら、俺は立ち上がる。

すると、九ちゃんはロビーのソファから立ち上がった俺に気がついて、
「総悟!
どうしたの、こんな時間に?」
と俺に近寄って来た。

ふんわりと、九ちゃんが仕事用に付けてるトム・フォードのネロリポルトフィーノの香りがただよってくるから、化粧しててもおしゃれしても、風呂入ってから逢いにいったんじゃねェことは分かった。
そこに安堵する。

九ちゃんが女の格好してる時に付けてる香水は、トム・フォードのバニラファタールか、ロストチェリーだ。

風呂入って、わざわざ香水を付けかえて行ってたら、土方を男として意識してんじゃねェかと思っちまうが、そこまでしてないんだ、まだあいつを男としては意識してねェんだろう。

俺ァ、しっかり風呂入って、仕事の時に付けてるブルガリ・ブルーからプライベート用のトム・フォードのノワールデノワールに付けかえている。

「いや、眠れなくて散歩でも行こうとしたから、九ちゃんの車がないことに気がついて、どっか行ったのかって帰り待ってたんでさァ。」

「土方に、クリスマスプレゼント渡しに行ってきたんだ。
明日は、お兄ちゃんと出かけちゃうし、仕事中に土方にだけプレゼント渡す訳にいかないから。
今、行ってきたんだよ。
総悟、眠れないなら、一緒に散歩でも行く?」

九ちゃんが笑顔でそう答える。
屈託のない笑顔。
そうして、土方に逢いに行ってたことを隠そうともしてねェ。
後ろめたいことなんて、何もないんだろう。
だから、俺にそう言えるんだろう。

そう思い、俺はほっとして、九ちゃんの頬に触れる。
「車だったんだろうィ?
その割にゃほっぺ、冷てぇなァ。
外、寒いんでしょう?
散歩して風邪ひいたらバカらしい。
うちで一緒に落語のDVDでも見やしょう。」
俺はそう言って九ちゃんに笑いかける。

「こないだも眠れない総悟に付き合って、総悟の部屋で一緒に落語のDVDみてるうちに二人して寝落ちしちゃって、朝起きたお兄ちゃんが僕がいないって大騒ぎしたでしょう?」
九ちゃんが肩をすくめる。

「だから、最初から狂四郎に、眠れねェから俺んちでDVD見てるって連絡しときゃいいでしょう。
そしたら朝、俺らが寝てても、その連絡を見た狂四郎が起こしにきてくれまさァ。」

そう言ったら、九ちゃんが笑顔になって、
「そっか!
総悟、頭いい!
それじゃ、そうしようか!」
と言ってくれた。

「じゃあ、行きやしょうか、お姫様。」
おどけた感じで言って手を出すと、
「はい、王子様。」
九ちゃんもおどけた感じで俺の手に自分の手を乗せる。

俺にとっちゃァ、九ちゃんは本当にこの世にたった一人しかいねェお姫様なんだけどねェ。
いつか、それが伝わりゃいい、そう思いながら、白くて細いその手を握りしめ、俺はこの世にたった一人しかいねェ、大事な大事なお姫様を自分の部屋に連れて行くべく、エスコートし始めた。

END

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