銀魂

□花魁道中・玖
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河上万斉が昼見世に登楼したあと、
「お母さん。
次の紋日、河上様が総仕舞をしたいと言ってるんですが、大丈夫ですか。」
と九兵衛がお登勢に言ってきて、お登勢は仰天した。
紋日は花代は二倍になる。
そんな日に総仕舞いだなんて、いくらかかると思っているのか…
河上万斎は高杉や坂本なんかより酔狂な男だ、お登勢はそう思うが、九兵衛にそんなこと言えないから、
「遣手に確認してみるから、ちょっと待ってな。」
と答え、九兵衛は頷いた。


確認したらあんたに言いに行くよといったら、わかったと答え、自分の座敷に戻っていく九兵衛の後ろ姿を見ながら、お登勢はため息をついた。

紋日は花代が二倍になるから、登楼する客はどうしたって少なくなる。
ただ、自分の気に入った遊女に男っぷりを見せつけることが出来る日でもあるので九兵衛の客たちは紋日でも競うように登楼したりするが、紋日に総仕舞いなんてそうできることじゃない。
ほんと、あの子は大した客を掴んでるもんだよ。

お登勢はそう思うと同時に、九兵衛と土方に憐憫を感じてもいた。
なんとか結ばれて欲しいと思うが、周りの状況がそれを許さない。
どうにかならないかね。
お登勢はこめかみを押さえながら遣手の部屋に向かった。



「総仕舞いだが、拙者、柳殿以外の遊女は好かんでござる。
他の遊女は自分の部屋で好きなことをしていてもらって結構でござる。」
総仕舞が決まったら万斉から直接遣手の方にそう連絡があったそうで、遣手と辰五郎、お登勢は3人で茶を飲みながらその話をしていた。

「河上様なら、今すぐぽんと柳の身請け金の千両箱45箱出してくるんじゃないかね?」
遣手が辰五郎とお登勢を見る。

「出してくんだろな。
ただ、河上様は堅気の仕事してる人じゃねぇぞ、多分。」
遊郭の楼主である辰五郎は色んな人を見てきた。
それは妻のお登勢も同じだけれど、だからこそ何となくだが、その人がどんな人なのか、分かることもある。

辰五郎は河上万斉を、堅気の仕事をしている人だとは思っていない。
同じく、神威も堅気の仕事をしている人だとは思っていない。
あの二人は同じ匂いがする、2人とも何か良くないことを生業にしてると辰五郎は思っている。

けれど、九兵衛や池田屋には今のところ特に何の害もないから登楼を断らないだけだ。
何かあったらすぐ、どんな金に落としてくれようとも切り捨てようとお登勢と話し合っている。
仮にもし、九兵衛があの2人に身請けをしてもらいたいといってきたら、全力で止める気だ。
九兵衛はそんなことは言わないだろうけど。

「そうなの?!」
驚く遣手に頷いて辰五郎は煎餅に手を伸ばした。

「ああ、河上様と神威様は堅気の仕事をしてる人だとは思えないね。」
お登勢が煎餅をバリッと齧る。

「そうなんだ…」
「あんた、それくらいの事はわかるようになってもらわないと困るよ、客はある程度選ばないと、あの子らの人生にかかってくるんだからね。
変な男に入れあげちまって、身を滅ぼした遊女なんてごまんといるんだ。
けど、うちの子たちをそんな風にはさせたくないんだから。」

遣手に対するお登勢のお小言を聴きながら、辰五郎はまったくだと思っていた。
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