銀魂

□誰にもお前を渡さない
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俺の母親が死んだのは俺が5才の時だった。

母親が死んで泣く俺を父親は抱きしめて
「大丈夫だ、晋助には俺がいる。
俺が晋助を護っていくから安心しろ。」
と言ってくれた。


そんな俺に新しい母親と2才の妹ができたのは、俺が10才の時だった。

綺麗でやさしい母親と、可愛い妹ができた事が嬉しかった俺に父親が言った。
「今までは俺が晋助を護ってきた。
これから、晋助が妹を、九兵衛を護れ。」

その日から、妹の九兵衛は俺の何よりも大切な、護るべき存在になった。


俺が15歳の時、九兵衛が実は有名な財閥の家の娘だったということを聞かされた。

俺の義理の母親はその財閥の当主と結婚し、妊娠したが難産で、九兵衛を生んだ後、もう子供は生めなくなったということだった。

生まれたのは女児だったので、九兵衛の本当の父親は九兵衛を男として育てることにしたらしい。
けど、母親はそんな重荷を九兵衛に背負わせることができず、離婚して一人で九兵衛を育てることに決めた。

そして、俺の父親と出会い、結婚することになったそうだ。

九兵衛の本当の父親が九兵衛を男として育てようとしなければ俺は九兵衛と出会えなかった。
俺は九兵衛の本当の父親に感謝した。


俺が20歳の時、家族四人で出かけた帰りにもらい事故にあった。
俺と九兵衛は左目と、父母を失った。

九兵衛はまだ12才。
12才の娘が父と母と左目を失ったのだ。

初めて会ったその日からずっとずっと大切に護ってきた妹。
大事な妹。
俺の、一番の宝物。

泣きじゃくる九兵衛を抱きしめながら、俺は誓った。
絶対にこれから先、こいつを泣かせない。
こいつを泣かせるものを許さない。
こいつは俺が幸せにするんだと。


「お兄ちゃん、お弁当忘れないでね。
あとネクタイ曲がってるよ?」

高校にいくために俺より先に家をでる九兵衛は食べ終わった朝食の皿を流しに下げると俺の顔を覗き込む。
そして俺のネクタイを直した。
「うん、これで大丈夫、それじゃ行ってくるね。
お兄ちゃんも気をつけてね。」

「ああ、お前も気をつけてな。
行って来い。」
そういうと、九兵衛は笑みを浮かべ、俺に手を振ってリビングを出て行った。


九兵衛は今、17才。
高校二年生だ。

12才で両親を失ってからは九兵衛は俺が育ててきた。
残された貯金と、父と母の保険金、事故相手から賠償なんかで俺は九兵衛を育てながら大学を出た後、世間では一流といわれる会社に就職することができた。

九兵衛は兄の俺が言うのもなんだが、綺麗に成長した。
長い黒髪は艶やかで、透き通るように白い肌、小柄で細い体、眼帯をつけていてもなお美しいと人に言われる、端正な顔だち。
中学から始めた剣道の腕も高校一年で剣道部のレギュラーに入るほどの腕前で、家事も料理もできて、成績も素行も何も問題ない。
両親がおらず、血のつながらない兄しかいないというのに素直でちょっと世間知らずなところもあるがしっかりした子に育ってくれたと思う。

もともと、家はそこそこに裕福だったし、俺の給料は同年代に比べても高い方で生活には困っていない。

家は九兵衛がしっかり守ってくれている。

俺は九兵衛がいればそれでいい。

望むものなんか何もなかった。

今の九兵衛と二人だけの生活がずっと続くものと俺は思っていた。
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