銀魂

□つないだ手
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九兵衛は橙色に染まっていく道を一人で歩いていた。

今日は父の命令で断りきれなかった見合いに行った日だった。


九兵衛が女だとわかってから、見合いの申し込みが殺到していた。
九兵衛自身はまだ18才だが、『政略結婚』をするには決して早すぎる年齢ではない。
それでも輿矩や敏木斎はできるだけ九兵衛の見合いを断っていた。

が、同じ断るにしても、会いもしないで断ることができない相手もいるのだ。
今日の相手がまさにそうだった。


九兵衛は着飾ってその相手に会いに行った。

失礼のないように、精一杯女らしく振舞ったつもりだ。

でも本当は九兵衛はしとやかに振舞うよりは、剣を振っていた方が気が楽なのだ。

そういう風に育てられたのに、今更しとやかに振舞うのは大変だ。

それでも一日だけ、そう自分に言い聞かせ何とか乗り切ったものの、見合いが終わった頃にはぐったりと疲れていた。

どうせ断るつもりだったから、相手が車を呼ぶといってくれたのを断り、九兵衛は歩いて帰っていた。

家に電話をすれば迎えが来るのだろうが、見合いはどうだったなどと聞かれながら帰るのも嫌だった。

だから一人で歩いて帰ることにしたのだ。



日も暮れかけた町は橙色に染まり、綺麗だなと素直に九兵衛は思う。

こんな格好で女らしく振舞うのは疲れるが、剣の稽古に打ち込んでいたときは、こんな綺麗な景色に気が付くこともなかった。

実はものすごく美しいのに見逃しているものがあるのかもしれない。


「おーい、お前、九兵衛だろ?
何してんの?」

そんなことを考えていたら声を掛けられ、九兵衛は振り返る。

そこにはカフェオレを片手にやる気なさそうな顔をしている銀時がいた。

「銀時か。」

銀時は頭をかいてから九兵衛の隣に並ぶ。

「どうしたの、そんな格好して。」
銀時の言葉に
「似合わないのは分かっているんだ。」
と九兵衛は呟いた。

「いや、別に俺はそんなこと言ってるわけじゃねぇよ。」

そう返しながら銀時は内心でまだこいつは女としての自分に自信が持てねぇのかと思う。
とても綺麗なのにもったいねぇな、と。

「見合いだったんだ。」

二人はしばらく無言で歩いていたが、銀時がカフェオレを飲み終わって近くのゴミ箱に缶を捨てたとき九兵衛がぼそりと言った。

「へぇ、だからそんなにめかしこんでたのか。
で、どうだった?」

銀時は九兵衛に聞く。

「疲れた。
もとより断ることが前提の見合いだ。
ただ、家同士の付き合いもあるから、仕方ないんだ。」

「そっか、名門のお嬢さんも大変なんだな。」

「僕はいずれ柳生流を継ぐ。
継いだら次に望まれるのは婿を取ることだ。
婿をとったら次は男子を産むことが求められる。
そういう家に生まれたんだ。
仕方ないことだ。」

九兵衛の声からは何の感情も見えなかった。

自然に任せろと爺と親父は言ったらしいが、幼い頃から柳生家を継ぐために、強くなるために育てられた九兵衛に今更、他の生き方をしろといっても難しい話だろう。

それでも、銀時はもったいないと思った。

九兵衛はただ綺麗なだけじゃない、綺麗で強い女なのに、妙への憧れを恋と勘違いして本当の恋をしないまま、好きでもない男と結婚するのかと思うと、すごくもったいないと銀時は思った。

そんなのは許せないと思った。

九兵衛が女だという事に誰より先に気が付いたのは自分だ。

九兵衛の手がただの女の綺麗な手だと気がついたのも自分なのだ。

「お前、急いで家に帰らなきゃなんねぇーの?」

銀時は九兵衛に聞いた。

「急いではいない。」

「それなら、どっか行かねぇか?
デートだ、デート。」

銀時の言葉に九兵衛は最初はぽかんとしていたがだんだんその顔がほころんでくる。

「どこに連れて行ってくれるんだ?」

「とりあえず、恋人同士が行きそうなところに行くか。」

「僕と銀時は恋人ではないぞ?」

首を傾げる九兵衛の手を銀時は握る。

「ああ、そうだな。
なら、これからなればいいんじゃね?」

「そうか、そうだな。」

つないだ手を強く握りあって、二人は歩き出す。

ただの女の綺麗な手は、銀時の大きな手に包まれていた。

これが幸せっていうのかななんて九兵衛は思いながら銀時と一緒に夕日の中を歩く。

泣きたくなるほど幸せだと思った。

END

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