銀魂

□私立・万事屋学院高校 恋の始まりと終わり
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「失礼します。
坂田先生、柳生です。」
九兵衛は準備室の扉をノックして声をかける。

「入っていいよー」
銀時の間延びしたような声が聞こえたので九兵衛はドアを開けて準備室に入る。

「言われたプリント集めてきました。」
九兵衛がプリントを差し出すと銀時は大して興味もなさそうにそれを受け取った。

「失礼しました。」
そう言って準備室を出ようとした九兵衛の腕を銀時が掴む。

九兵衛は男にさわられると投げる癖がある。
入学当初は何人もの男を投げ、苦労したものだった。
今は回りも知っているから九兵衛にさわるものはいない、この坂田銀時以外には。
そしてこの坂田銀時は唯一、九兵衛がさわられても投げない相手だった。
それでも意味もなくさわられるのは気分のいいものではない。

「先生…?」
九兵衛は自分の腕を掴んだままの銀時を見る。
銀時の目はいつもの死んだ魚の目ではなかった。
じっと九兵衛を見つめている。

「先生、離してくれませんか?」

「九兵衛、お前大学には女として通えるのか?」

九兵衛と銀時の言葉ほぼ同時だった。

九兵衛は驚いて目を見張る。

「いろんな事情があるだろ、柳生財閥くらいにもなると。
それでも、お前は女なんだ。
無理をさせられてるお前を見てるのは、あんま気分いいもんじゃねぇんだな。
腕だってこんなに細くてよ。
女に男として生きろってのが無理あんだよな。
だからさ、あんま無理すんな。」

「なぜ、僕が女だとわかった?」
九兵衛の声が低くなる。

「そりゃお前、俺のセンサーがお前に反応したからだよ。」
銀時がにやりと笑った。

「センサー?」
「あんま詳しくは聞きなさんな。
とにかく、俺はお前の味方だ。
腕だってこんなに細い、手だってこんなに綺麗じゃねぇか。
ただの女の綺麗な手だ。
気負うな。
無理すんな。
苦しくなったらいつでも…」
言いかけた銀時が言葉を飲み込む。

九兵衛が大きな目から大粒の涙をこぼしていたからだ。

まずい、九兵衛はそう思った。
でも、涙は止まらなかった。

そんなこと言われたのは初めてだった。
誰もが九兵衛に頑張れといった。
強くなれ、お前は男なんだと。

でも九兵衛は女だ。
スカートにも、フリルにも、ピンクにもメイクにも興味も未練もある。
それを全て押し込めていた九兵衛にとって、銀時の言葉は、誰かに一番かけて欲しい言葉だったのだ。

涙は止まらなかった。

銀時はしばらく困ったような顔をしていたが、立ち上がるとこわごわと九兵衛の頭をなでた。
「あんま泣かないで欲しいかな…。
でもまぁ、いいや。
こーなったら泣きたいだけ泣け。
先生の胸をかしてやっから。」

頭に触れた銀時の手が優しくて、思った以上に温かくて。

抱きついたらもっと温かいのかなと思った九兵衛は銀時にすがりつくようにして泣いた。

銀時は戸惑っていたが、しばらくして九兵衛の肩にそっと手をかけた。
その手が少しづつ移動していって、やがて背中に回って優しく九兵衛を抱きしめた。

男の腕はがっしりとしていて逞しく、胸は広くて温かいということを、男として育ってきた九兵衛は知らなかった。

銀時に抱きしめられて、九兵衛は始めてそのことを知った。
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