銀魂

□商社・真選組2
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「総悟は知ってるの?」

近藤の猪口に日本酒を注ぐ九兵衛の手元を土方は黙ってみていた。
近藤の口調はいつもよりきつい。

「…知りません。
総悟くんには居酒屋でのバイトだって言ってあります。」
九兵衛が目を伏せる。

睫毛なげーななんて九兵衛を見て土方は思っていた。

「なんでこんなところで働いてるの?!
しかも総悟に内緒で?!
総悟が知ったらどう思うか考えないの?」
九兵衛は黙って土方の焼酎を作っている。
手慣れたものだった。

「ここ最近はじめたバイトじゃねぇな?」
土方は九兵衛に聞く。

九兵衛は黙って頷いた。

「なんでこんなバイトしてるんだ?
しかもナンバー2ってどういうこと…?」

近藤は相変わらず厳しい顔をしていた。
だから代わりに土方はつとめて優しく聞く。

「総悟くんは高校卒業したら僕と結婚するために高校時代からたくさんバイトしてました。
だから…総悟くんだけに苦労させたくなかったんです。
キャバクラならお給料いいし、総悟くんが一生懸命バイトしなくても稼げるかなって思って。
それに、ここのナンバー1の妙ちゃんは僕の幼馴染で、妙ちゃんがいるから安心だったし…。
ナンバー2っていっても今は週に2回、三時間しか働いてないです。
お願いです、総悟くんには黙っててください。
総悟くんに心配かけたくないんです。」
九兵衛はそう言って頭を下げた。

「いずれやめるの?」
近藤が九兵衛に聞く。

「もう結婚したし、夕方もバイトもしているし、やっぱり総悟くんが家に帰ってくるときにおかえりと迎えてあげたいからやめたいんですけど、妙ちゃんからも少しでもいいからお店に出て欲しいって頼まれてるし。
妙ちゃんにはお世話になってるから断れなくて。
でも、今年中にはやめる予定です。
だから言わないでください、お願いします。」

九兵衛の必死で頼む様子に近藤も土方もそれ以上は何もいえなかった。

総悟を思ってこんな仕事をしているということは伝わったからだ。


それに、ゆっくりと話してる暇は無かった。
ナンバー2と言うのは本当らしく、来る客来る客がみな九兵衛を指名している。

ボーイに呼ばれて九兵衛は立ち上がった。
「本当にお願いします。
総悟くんには言わないでください。
総悟くんは何も悪くないんです。
今日だって、仕事で疲れて帰ってきてるのに、僕が作っておいたご飯をレンジであっためて一人でたべてるんです。」
本当に悲しそうに九兵衛が言ったので、二人は
「分かった。」
と言うしかなかった。
九兵衛はもう一度頭を下げると別のテーブルにいく。

「待ってたよ!
九ちゃんは週に二回、三時間しか来ないからね!
九ちゃんの出勤日を指折り待ってるんだよ。」
そういう中年の男に
「いつもありがとうございます。」
と笑顔を振りまきながらその男の隣に座る九兵衛を見ていたら、別の女の子が二人のテーブルに着いた。

「あの子、九ちゃんっていつ出勤してるの?」
近藤は席に着いた子に聞く。

「お客さんたちも九ちゃん気に入ったの?
九ちゃんはね、火曜と木曜の七時から十時までの三時間しかいないんですよぉ。
それでもあの人気なの。
すごいでしょ?
本人はやめたいって言ってるんだけど、そんなだからやめさせてもらえないの。」

「ナンバー1の子は?」
近藤の質問に
「今日は休み。
お妙さんの休みは火曜と木曜なの。
だから、変わりにナンバー2の九ちゃんが出てるの。
ビール飲んでもいい?」
などとそのキャバ嬢は逆に聞く。

「いいよ。」
近藤は苦笑いでそう言った。

土方はこっそりと九兵衛を見る。
酒の作り方もしっかりしてるし、さっきタオルを差し出してくれたときのようにさりげない気遣いもきちんとしている。

フルーツ盛りを頼んだお客さんの席ではあらかじめフルーツに楊枝をさしている。
他のテーブルにも気を配っていて、自分の指名客がトイレに立つと自分が付いてる席の客に断っておしぼりを渡しにいくとか、出勤日数が少なくても指名をしたくなるのが分かるような接客の仕方だった。

「近藤さん、俺、総悟の嫁を指名していいか?」
思わずそう言ってしまった土方の言葉に近藤が唖然としている。

「いや、だって総悟の嫁だぞ?
できるだけ、他の客のところに行かせたくないっていうか…。
そう思わないか?」

キャバ嬢に分からないように小声でいうと、近藤も納得して
「まぁ、確かにそうだよな。
俺も九ちゃんのことは高校生の頃から知ってるからなぁ。
あんまりああいうところは見たくない。」
と言う。
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