黒子のバスケ

あの夏へと
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8月29日。
夏休みが終わる三日前。

帝光バスケ部のマネージャーの桃井さつきの家に、帝光バスケ部のレギュラー・緑間真太郎と幻のシックスマン・黒子テツヤはお泊りセットを持って集まっていた。
理由は目の前の帝光バスケ部レギュラー・青峰大輝、紫原敦、黄瀬涼太のほぼ手付かずの宿題を主将の赤司に悟られないうちに終わらせるために…だ。

それは昨日のことだった。
一軍はもちろん、二軍・三軍も集めたミーティングで赤司が言った。
「まさかとは思うが、宿題が終わってないものはいないよね?
新学期までに宿題を終えることができないものは…どうなるか分かるよね?
もちろん、選手だけじゃない、マネージャーも含まれるよ。」
赤司の言葉に真っ青になったものは多数いたが、さつきはすでに宿題を全て終えているので問題はない。
緑間と黒子も同じ。
だけど、青峰と黄瀬と紫原は終わってない宿題のことを思い出し、さつきに泣きついた。
三人の面倒を一人で見切れないと判断したさつきは副主将の緑間に相談。
緑間はため息をつきながら黒子に声をかけ、すでに宿題を終えている三人が、赤司に分からないように宿題を終えていない三人に付きっ切りで宿題を終わらせることにしたのだった。
ちなみになぜ赤司にばれないようにするかというと、赤司のスパルタは見てる方も青ざめるほど厳しいので、宿題を終わらせていないのは自業自得とはいえ、三人に同情したためだ。
去年もこの三人は宿題をギリギリまで溜め込み、赤司がスパルタで宿題を終わらせさせた。
青峰も黄瀬も紫原も最後は半泣きで、さつきと緑間と黒子はあまりのスパルタぶりに見ないふりをしたくらいだ。
なのに、今年も同じことを繰り返すこの三人には学習能力というものはないらしい。
そして、本気で宿題を終わらせる気はないのか、携帯を弄ったり、お菓子を食べたり、グラビアをみたりもしている。
「黄瀬君、いい加減にしないと僕も怒りますよ。」
「ふざけるんじゃないのだよ、紫原!
なんで自分の宿題を終えたオレが手伝ってやってるというのに、お前は菓子ばかり食べているのだよ?!」
「青峰くん、グラビアばっかり見ていい加減にしてよね!
何のためにみんなが集まってると思ってるの?!
もう赤司くんに連絡するわよ!」
普段は怒りを露にすることなどない黒子の表情、緑間の怒りの形相、そしてさつきの赤司召還の言葉に三人は固まる。
それぞれは宿題を終えていなく、桃井家は青峰の存在のせいか、年頃の娘の年頃の部活仲間が泊まることに寛容なので桃井家に集まり、泊り込み宿題合宿をするはずなのに、なぜか宿題以外にグラビアだの、携帯だの、お菓子だのを持ち込んでいた。
終えている方が余計なものを持ち込んでおらず、終えていない方が余計なものを持ち込んでいるという状況。
終えている方が怒るのも当然といえば当然だ。
「赤司っち呼ぶのはやめて欲しいっス。」
「赤ちん怒るよねー?」
「やめろ、そんなのラスボス召還みてぇなもんじゃねーか!」
「だったらいい加減に集中するのだよ!
明日は一日練習がないと言うのに、なぜオレまでお前らのために明日一日勉強しなければならないのだよ?!」
「本当です。
せっかく、この間買った本が読めると思っていたのに。」
「本当よ!
明日は友達と一緒にスイーツ食べ放題に行こうと思ってたのに!」
「やめとけ、スイーツなんか食って太ったら今以上にブスになんぞ!」
ケケケと笑う青峰をさつきは無表情に見た後、携帯を取り出した。
「ぎゃー!!
赤司っち召還の準備?!」
「峰ちん何言ってんの?!
捻り潰すよ!」
「黒子、早く桃井を止めるのだよ!
赤司に黙って何とかしようとしていたオレたちも巻き添えを食うのだよ!」
「桃井さん、落ち着いてください!
赤司君を呼ぶのは最終手段にしましょう!」
「桃井、桃井は全然ブスなんかじゃないと思うのだよ!」
「そうだよ、さっちんブスじゃないよー!
だから赤ちん呼ぶのやめてー。」
「緑間っち、紫っち、そんな遠まわしじゃ伝わらないっスよ!
桃っち、桃っちは可愛いっスよ!
桃っちを可愛いと思えない青峰っちは目が腐ってんっスよ、目が腐ってる人の発言は気にしちゃだめっス!」
最終的に緑間の今日のラッキーアイテムのゴムボールを黒子がすごい勢いで青峰の顔面に叩き込んだことで、さつきの怒りは収まったらしく、携帯を手放した。
「次に余計なことを言ったら、次の練習の時、お前のその残念すぎる頭にオレのスリーポイントを近距離で叩き込んでやるのだよ!」
緑間が絶対零度の声をだす。
「僕も青峰君の顔面にパスを叩き込んでやります。」
「オレも捻り潰すよ。」
「オレもダンク叩き込むッス。」
緑間以外の三人にも絶対零度の声を出され、青峰は大人しくなった。
それからは大人しく淡々と宿題がこなされていく。
「少し休憩したらどうかしら?
ケーキ焼いたから持ってきたわよー。」
六人は桃井家で一番広い和室に座卓を出してもらってそこで宿題をこなしていた。
その和室に桃井ママが現れた。
ケーキを焼いた、その言葉を聞いて緑間と黒子と黄瀬と紫原の顔色が白くなる。
桃井さつきの料理の腕を知っていれば、桃井さつきママの料理の腕を疑いたくもなるものだ。
だけど青峰が
「サンキュー、おばちゃん。
おばちゃんのケーキ、久しぶりだ、美味いんだぜ、おばちゃんのケーキ。」
と言うので、全員が桃井ママのお手製シフォンケーキを食べることにした。
確かに桃井ママのケーキはおいしく、母親の料理は美味いのに、なんで娘の料理はああなんだろうと全員がひっそりと思う。
「食べ終わったら、少し休憩しようか?
もう、私疲れちゃった。」
さつきは伸びをした。
確かに疲れてるだろう。
彼女が付きっ切りで教えてるのは帝光バスケ部勉強できない軍団のラスボス・青峰大輝なのだから。
「あ、でも青峰くんは私が休んでる間にここまで進めといてね。」
「は?!
てめえだけ休むのかよ?!」
青峰はさつきを睨むが
「そもそもお前が宿題を溜め込むからいけないのだよ!
オレと黒子と桃井は宿題を終わらせているのだよ!
なのになんで折角の休日にこんな目に…本当に頭にくるのだよ!」
「そうです。
ぶっちゃけいい迷惑です。
桃井さんと緑間君のお願いでなかったら断ってるところです。」
緑間と黒子に責められて黙るしかなかった。
さつきは全員が食べ終わったお皿をまとめて下げると、戻ってきた時には手に大量の紙の束とノートパソコンを抱えていた。
「私、これまとめちゃうから青峰くんはそれやっといてよね!
わからないところがあったら聞いてね。」
さつきはノートパソコンを立ちあげ、青峰に告げると紙を見ながら何かを打ち込んでいく。
「桃井、それはなんなのだよ?」
「全中の時のデータ。
うちの分と、予選リーグの上位2校の分の。」
さつきはパソコンとメモから目を離さずに緑間に答える。
「桃井さんは偉いですね。」
「本当なのだよ、お前ら三人、桃井の爪の垢をせんじて飲むといいのだよ、毎日百杯くらい。」
青峰は不満げな顔をしていたが、それでもさつきが自分たちを勝利に導くためのデータを作成しつつ、自分たちの勉強も見てくれることが分かったので、それ以上は何も言わなかった。
 
青峰と黄瀬と紫原が黙ったことによって、宿題はスムーズに進み、全員3分1のほどは終了した。
その日はその後、桃井ママの作った夕食をご馳走になり、お風呂にはいらせてもらった後、さつきは自分の部屋に、他のメンバー達はそのまま和室に布団をしいて寝ることになった。
「いいか、31日は朝から夜まで練習があるのだよ。
ということは、明日一日で宿題を全部終わらせないといけないのだよ!」
「今日の様にグダグダしていたら、明日は赤司君を召還します。」
「大体桃井を見るのだよ。
自分の宿題は終えて、データをまとめながら青峰に宿題を教えるなんてなかなかできることじゃないのだよ。
お前ら、それに比べたら宿題だけでいいのだから簡単だろう。」
「本当です。」
緑間と黒子の言葉に三人は頷いて、次の日は何とか宿題を終わらせたという。

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