黒子のバスケ

薄羽蜉蝣・肆
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養育するしないは別、とは聞いていたが、青峰は良く、文貴に
「武家の子なんだから、強くなきゃな。」
と剣術や弓を教えている。

「緑間、お前も次期将軍実父なんだから、ついでに弓や剣くらい身につけとけよ。」
と青峰が言ったことで、緑間も文貴とともに青峰に剣や弓を習い始め、それにさつきが喜んでいると聞いた。
そのせいか、摂家で今まで剣や弓などしたことも無いだろう、藤乃を養育している赤司が
「僕も、剣や弓をやってみたい。」
と一緒に青峰に習い始め、青峰の部屋には昼間は緑間と文貴、赤司と藤乃が居るようになった。

我が娘がいるから、黄瀬も藤也を連れて青峰の部屋に行くようになり、赤司と仲良くなった紫原、青峰と仲良くなった黒子も集まり、大奥は正室も側室もその子達も一緒に過ごすことが多くなった。

平和、そのものだ。
お互いに思うところはあるだろう、と花宮はその様子を見ていて思う。
だけど、同じ女性を愛する者同士、それらを飲み込んで、その女性のために生きている。
あの、赤司征十郎が、剣や弓を青峰にならってるのだから。
御典医だった緑間真太郎が、剣や弓を青峰にならってるのだから。
そして青峰の方は、赤司に和歌や楽器を教わり、緑間から怪我をした際の応急手当などを教わっている。
子のいない紫原や黒子が、文貴や藤也、藤乃を抱き上げ、あやし、我が子を赤司にあずけなければいけなくなった黄瀬がそれを笑顔で見てる。
大奥は平和だ。
さつきの望む、兄弟仲良くは実現されつつある。

しかし、表の世界では、日照りによる飢饉で民が飢え、その為にさつきは城の米を飢饉で飢えてる地域に分配するように言った。
将軍自ら、芋を混ぜた米と葉物が少し入っただけの味噌汁を食し、質素倹約に励んでいる。
自分の夫たちにはそれを悟らせず、充分な食事を取れるように心を砕きながら民を思い、7日後には東北に自ら視察に行くという。

なんの助けにもなれてない、自分は。
さつきを誰より助けたかったのに。
東北への視察は福井と氷室が伴うそうなので、自分も一緒に行きたいと申し出たら、
「まこちゃんには、私の可愛い子供たちを守ってもらわないと」
と断られた。

中臈の瀬戸たちに任せるんでも大丈夫だと告げても、さつきの考えは変わらなかった。
氷室がいるとはいえ、福井がさつきと共に視察に行くのがいやなのに、そこでもし二人の関係がなにか変わったら…それが嫌なのに、そんなことは花宮はさつきに言えなかった。


そして、さつきが東北に出発する日がやってきた。
前日には大奥で青峰たちと子供たちと過し、楽しそうにしていたさつきは、馬上で見送りに来た大奥の人達に手を振ってる。
しかしその腰には刀がさしてある。

「ご武運を心よりお祈り申し上げております。」
城にいるよりずっと危険が伴う旅に、それでも花宮はそういう事しか出来ない。
それが歯がゆい。

「ありがと、いってきまーす」
そんな、花宮の悲壮な思いとは反対にさつきは笑顔で手を振る。
文貴は母に手を振ってもらえ、キャッキャッと笑っているが、文貴を抱いた緑間は複雑そうな顔をしていた。
緑間だけではない、御台所である青峰を初め、みんなが複雑そうな顔をしている。
将軍である以上、国のために動くのは当たり前のことだと頭ではわかっていても、心配をする気持ちは止められないのだろう。
あんな華奢な女性に、過酷な旅だ。
本当は行かないで欲しい、そう全員が思ってる。

そんな大奥の面々を見ながら、福井はさつきの後ろに控えていた。
さつきの後ろにいるから、さつきの細い肩、小さな背中がみえている。
この国を治める将軍ながら、華奢な女性でしかない。
あの華奢な体で、彼女は重いものをかかえている。
その助けに、少しでもなれたら…
そう思い、筆頭老中を務めている。

好きな女が自分のことを思ってくれているのを知りながら、他の男の間に子供を産んだ時はおめでとうと言わなければいけない。
それでも、彼女のそばにいたい。
愛してるから。
だから、守り通すと決めている。
そして、自分の気持ちを伝えることはしないということも。

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