黒子のバスケ


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海常高校はバスケットの強豪高校だ。
春休みも夏休みも冬休みも関係なく練習がある。

四月に入り、春休み中ではあるものの、学年としては三年生になった森山由孝はその日、体育館に一番乗りだった。

体育館の鍵を開けたとき、
「あの、バスケ部の体育館はここでいいんですよね?」
と背後から声をかけられた。
高くて甘い感じのする声。

「そうです!」
森山は答えながら振り向いて、息をするのも忘れた。
色白で、ふっくらした赤い色の唇と、パッチリとした大きな瞳、ピンクのつややかでさらさらした髪に、大きな胸をしてるかわいらしい女の子が立っていたからだ。

「よかった、ここだろうとは思っていたんですけど、思ったより体育館がいっぱいあって、違ってたらどうしようって不安だったんです。
あ、私、桃井さつきと申します。
この四月からバスケ部のマネージャーとして海常高校に進学します。
それで武内監督に見学にくるように言われてて。」

息をするのも忘れるほど女の子に見とれていた森山だけれど、その言葉で我に返る。

「この四月からバスケ部のマネージャーとして海常に進学?!
君みたいなかわいい子が?!」

海常のマネージャーは基本的に女子を採用していない。
なぜなら、笠松が女子が苦手だからだ。
笠松や森山たちの代が入学する前からいた先輩の中には女子マネージャーもいたが、その人たちとすらうまくコミュニケーションが取れなかった笠松のために、武内はそれ以降の女子マネージャーは断っていた。

笠松は女子は苦手だったけど、一年のころから、同学年の中ではずば抜けていた。
バスケの実力も、キャプテンシーも。
一年の中心は自然と笠松になっていたし、それを誰も不満に思わなかった。
監督も二年後は笠松を中心にしたチーム作りをするつもりだったのだろう。
だから、マネージャーの女子を断っていたのだと思う。

その、海常バスケ部に!!
女子マネージャー!!
しかも、主将が笠松なのに!!

森山の驚きぶりにさつきも驚く。

「はい、聞いてないですか?」

さつきの海常入学は、武内の熱心なスカウトによるものだ。
武内は最初から黄瀬とさつきをスカウトに来ていた。
さつきはかなり悩んだけれど、あっさりと海常に進路を決めた黄瀬からも、一緒に海常に行って青峰っちを倒そうと何度も言われ、黄瀬が入学を決めたあともさつきのためだけにスカウトに来てくれる武内の誠実な対応に心を動かされたのもある。

しかし、言い方はよくないがそこまで望まれての進学だったのに、それを部員が知らないなんてことあるのかと思う。

森山をじっと見つめていたら、森山がいきなりさつきの手を握ってきた。

「ええ…どうしたんですか?」
さつきは森山由孝をよく知っているけれど、それは一方的なもので、森山はさつきとは初対面だ。
なのにいきなり手を握られ、さつきはそう聞くしかなかった。

「こんなにかわいい女の子がバスケ部に入部してくれるなんて、オレは幸せだ!!
ありがとう!!」

しかし、さつきの戸惑いには気がつきもせず、森山は微笑んだ。
森山は『残念なイケメン』だ。
やっていることは残念だけれど、イケメンだ。
イケメンに手を握られ、微笑まれ、さつきは顔を赤くした。

「いえ…そんなこと…こちらこそ、そこまで喜んでもらえてうれしいです。」
森山の手を握り返すさつきは笑顔を浮かべていて、その笑顔に森山も見とれていた。

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