黒子のバスケ

今吉翔一・諦めの悪い男
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「ごめんなさい、待ったよね?」
目の前の彼にさつきは謝る。

(やっぱり告白やな。)
二人の様子を伺いつつ、今吉はひっそりとそう思う。

案の定、
「桃井さん、入学式で一目見たときからずっと君を想っています!
付き合ってください!」
と男の方はさつきにむかって頭を下げた。

うん、なんとなく、告白なんじゃないかなって予感はしてた。
さつきは中学のときから何度も告白はされていたから、今朝、彼に声をかけられていた時からなんとなく、分かっていた。

でも、今は誰とも付き合う気はない。
「ごめんなさい、今は、誰とも付き合う気はないので、無理です。
私、バスケ部のマネージャーなんです。
知ってますよね、うちのバスケ部は強豪だって。
それにIHも近い今、部活に本腰を入れてて、そっちに集中したいのでお付き合いはできません。」
さつきも深く、頭を下げる。

目の前の相手が息を呑むのが分かった。
その後、ふっと、笑った気配がしてさつきは顔を上げる。

彼は、確かに淡い笑みを浮かべていた。
「そうだよね、うん。
なんとなく、分かってた。
だって、桃井さん、授業終わって掃除したらさっさと部活行っちゃうもんね。
手はきれいなのにつめも短くしてるし。
きっと、部活に支障があるからつめ、短くしてるんだろうなって思ってたんだ。
桃井さんの優先順位はいつだって部活だもんね。
休み時間もいつも、データまとめてたりするし。
この人は、本気で真剣に部活に打ち込んでるんだな、そのための努力なら惜しまない人なんだなって見てて思ったんだ。
だから、振られるんだろうなって思ってた。
けど、どうしても気持ちだけは伝えたかったんだ。」

目の前の彼の笑顔にさつきは顔を緩める。
「ありがとう。
そんな風に言われたことないから、うれしい。」

「ううん、桃井さんがオレが告白したことでうれしいと思ってくれたなら、それだけでオレ、よかったと思う。」
そういうと、彼はポケットから小さい紙袋を取り出した。
「これ、つめを保護してつやを与えてくれる、ベースコートなんだって。
色もつかない、透明やつなんだ。
マネージャーの仕事って手を酷使するでしょう?
だから、使って。
それじゃ。
呼び出しにちゃんと応じてくれてありがとう。」

「ありがとう、安田くん。」
微笑んでくれる彼にさつきはお礼を言う。

「オレの名前…」

「知ってるよ、だって、吹奏楽部で外周してる時、一番真剣に走ってるから、いつもえらいなぁって見てたの。」
さつきも彼に微笑みを返す。

「オレ、桃井さんを好きになって、本当によかった。」
「こちらこそ、私なんかを好きになってありがとう。
やさしい言葉をありがとう。
ベースコート、ありがとう。」
二人はどちらからともなく握手を交わすと、男の方は校舎に向かって歩いていく。

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