黒子のバスケ

海常の合コントレーニング
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さつきのことはできれば大事に大事にどこかに閉じ込めて、誰にも見せたくないくらい、自分もキセキも大切に思っているのだけど、体育会系の部活は縦社会。
先輩の言うことを聞かないわけに行かない。

仕方なく、黄瀬はさつきに電話した。
心優しいさつきは、体育会系の部活が縦社会だということも充分理解しているのだろう。
黄瀬のお願いをあっさりと受け入れてくれた。


というわけで、海常も桐皇も練習のないある日の日曜日の午後。
海常のスタメン、笠松、森山、小堀、早川、黄瀬はファミレスにいた。

さすがに彼女を呼びつけるのは悪いと思い、海常のメンバーは東京まで来ていた。
そして待ち合わせ場所のファミレスでさつきを待っていた。

約束の時間の5分前、ファミレスに入ってきたさつきを見て、笠松の緊張は極限に達し、グラスを倒した。
中に入ってた水がテーブルの上にこぼれる。

「ちょ!
笠松先輩!
緊張しすぎっスよ!」

「いや、でもオ(レ)も緊張してきた!
桐皇のマネ、めちゃ美人っす!!」

さつきは白いパフスリーブのTシャツの上から黒地に花柄のキャミワンピを着ていた。
ミニ丈のワンピースに、ヒールの高いサンダル。
夏なので、髪は結い上げてクリップでルーズにまとめてある。
そのルーズさが妙に色っぽい。

その辺のモデル顔負けの美貌とスタイルに、入ってきた瞬間から、ファミレスにいる全ての男性の視線を集めているが、それに本人は気が付かず、ファミレス内を見回した後、
「きーちゃん!」
と笑顔で手を振った。

周囲の男からの羨望のまなざしにちょっと優越感を感じつつ、黄瀬は
「桃っち!
こっちス!」
と手を振り返す。

「お待たせしました。
こんにちは、笠松さん、森山さん、小堀さん、早川さん。」
黄瀬たちのテーブルに来るとさつきは笑顔で軽く頭を下げた。

その瞬間、折角黄瀬がこぼれた水を紙ナプキンで拭いたのに、笠松は今度は隣に座っていた森山のコップを倒した。
森山のコップに入っていたのは水でなく、コーラだった。
コーラが再びテーブルに広がる。
さつきが立ったまま、さっと紙ナプキンを取ってテーブルを拭く。
そのままさつきは無言でテーブルを離れた。

「おい、彼女どっか行っちゃったぞ?」
小堀が慌てたような顔をする。

「あ、大丈夫っスよ。
怒ってどっかにいったとか、そんなんじゃないっすから。
桃っちは本当に気のきく子なんで、多分、おしぼりかなんか取りにいったんっスよ。」

黄瀬の言葉に一同がホッとした時、さつきがおしぼりと新しいコーラと店員をつれて戻ってきた。

「森山さん、新しいコーラどうぞ。」
さつきは森山に新しいコーラを渡し、紙ナプキンで水分をふき取った後のテーブルをおしぼりで拭く。
そのおしぼりでコーラをふき取った紙ナプキンとさっき黄瀬が水を拭いた紙ナプキンを包み、笠松が倒して空になったグラスと共に店員に渡し
「下げていただいてもいいですか?」
と微笑む。
男の店員は顔を赤くして頷いた。

店員が去った後、さつきは
「ここいいですか?」
と早川に聞く。

黙って頷いた早川の横にさつきが座る時、ふんわりと花みたいな甘い香りが漂って、黄瀬以外の全員が赤面した。

女の子が目の前にいる、そう思ったら一日の大半をバスケの練習と睡眠で終わらせてしまう少年達には緊張することこの上ない。
とくに笠松など、再びコップを持つ手が震えだしている。

だけどそんな笠松にさつきはにっこりと笑いかけた。

「初めまして、桐皇学園バスケ部マネージャーの桃井さつきです。
笠松さん、神奈川地区予選での決勝、第3クォーターの残り5分できーちゃんに出したパス、すごかったです。
あんなロングパス、始めて見ました。
すごいですね。
さすが全国区のPGは違うなって思いました。」

緊張してた笠松も、バスケの話題となると、その緊張もほぐれる。

「そんなことねぇよ。
全国にはあの程度のパスだすやつ、ごろごろいるし。」

「だけど笠松さんほどチームを精神的に支えられるキャプテンはそうはいないですよ?
それに森山さん、神奈川の準決勝、第2クォーターでのブザービーターの3P、すごかったです。
あれで相手校の士気が一気に下がって、海常の士気は上がって3点以上の価値がありました!
あの場面で決められるってすごいですよ!」

「桐皇の主将もPGなのにブザービーターすごいじゃん。」
と言いつつ、森山は嬉しそうだ。

「小堀さんのディフェンスは硬いし、早川さんのリバウンドへの執念はすごいと思います。
そんな海常の皆さんとこうしてお話できるなんて本当に嬉しいです。」
さつきの言葉に小堀と早川も笑っている。

本当は桃っちを先輩とはいえ、他の男の人と引きあわせるのは好きじゃないけど、たまにはこういうのもいいかな、黄瀬は心の中でそう思った。

その時、
「でもきーちゃんはね、準決勝の第4クォーターでしたパス、あれ、ちゃんと森山さんの場所把握してないで、感覚でだしたでしょ?
あれ、森山さんがとってくれたからいいけど、もし森山さんがとれないで相手に取られてカウンターされたら、ちょっとまずかったかもね。」
とさつきは黄瀬にはダメだしをする。

「あれは…」

「うん、知ってる。
目線のフェイク入れて、ディフェンスの注意を笠松さんに向けてからパスしたんでしょ?
でも森山さんにちゃんとパスが通らなかったら、フェイクの意味ないでしょ?」

全てお見通しらしいさつきの言葉に黄瀬は両手をあげた。
「っつたく、桃っちにはかなわないっス。
さすがっスね。」

「ふふふ。」

笑うさつきに笠松がスポーツバッグから取り出したメモ用紙にフォーメーションを書いたものを見せた。

「じゃあ君なら、この場合、どうするのが一番だと思う?」
「そうですね、多分、私なら…」

女の子が苦手なはずの笠松が普通にさつきと話をしている。
そしてその話を森山も小堀も早川も聞いている。

もうこれで十分に女の子には慣れたんじゃないっスかね?
黄瀬はそんなことを思いながら、自分の先輩たちとバスケについて真剣に話し合うさつきを見つめていた。

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