黒子のバスケ

いつも君と
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それからしばらく笠松は携帯を弄りながらマキアートを飲んでいたが、マキアートのカップが空になったので立ち上がる。

そろそろ学校に戻ろう。
その前に、笠松はトイレに入ることにした。

そこにはさつきと共にいたはずの男二人がいた。
「それにしてもマジ、桃井さんってすげぇな。
あれで高校一年とか、マジありえねぇ。」
「上手くやれよ、家にさえ連れ込んじまえば、なんとかなんだからよ!」
「マジ、お前って鬼畜だな。
まぁオレだって、あんな子とできるならしてぇけどよ。」
「いや、一番の鬼畜はオレらの思惑分かってても彼氏に振られたくないからって桃井さん呼び出した、あの女っしょ。」

いくら笠松が女の子が苦手とは言え、この男達二人が何を話しているかは分かる。

そして友達のためにわざわざこんなとこまで来たさつきに、その友達と、友達の彼氏の連れが何をしようとしているかも。

笠松はいいようのない怒りがこみ上げてきてそのままトイレを出ると店内に戻る。
さつきは、友達や、その彼氏とその彼氏の連れと同じ席にいた。
話しかけられても、明らかに愛想笑いと言った感じで適当な返事をしているだけだった。


黄瀬の言葉が頭をぐるぐる回る。

『あんなにバスケが好きでバスケに選手と同等の姿勢で向き合って、なのに選手をサポートしてくれるマネージャー、他にいるわけないっス。』

自分と同じくらいバスケを好きなこの子が、ひどい目に合うのを分かってて、見過ごせるわけがない。

笠松はさつきの後ろに立って、その腕を掴んでいた。
後になってすごいことをしたと思うが、この時は怒りでいっぱいで、さつきを助けたくて、そんなことまで気がまわっていなかった。

「帰るぞ。」
笠松はさつきの細い腕を掴み、そう声をかけていた。

いきなり知らない男に腕を掴まれ、帰るといわれてさつきは驚くだろう、それに気が付いた笠松は慌てて
「オレは海常の…」
と言いかけたが、それよりさつきが先に
「え、うそ…海常の笠松さん?!」
と自分の名前を呼んだので、笠松の方が驚いた。

「え?」
「知ってますよぉ、海常のPGでキャプテンでもある笠松幸男さん。
全国でも笠松さんほどキャプテンシーのある人、そうはいないです。
それにIH常連の海常にとっての、絶対的な精神的支柱。
きーちゃんの、大事な先輩でチームメイトでもあるわけですから。」
先ほどまでの愛想笑いが嘘のようにさつきは嬉しそうにしている。

「こんなところで会えるなんて信じられない!
すごい!
きーちゃんは元気ですか?
メールはしょっちゅうするんだけど、最近はなかなか会えなくなっちゃったから。」

「あいつはうぜぇくらい元気だから大丈夫。
それより帰るぞ。
家までちゃんと送っていくから。」
笠松はさつきが自分を知っててくれたのを幸いとばかりに、さつきに言っていた。

「おい、あんたいきなり現れてなんだよ?!」
男の一人が笠松に文句を言うが、
「あ?!」
笠松が睨むと、男は黙った。

IH常連チームのキャプテンだ、風格はある。
男達はそれに飲まれた。

その間に笠松はさつきのかばんを引っつかみ、腕を掴んで店を出ていた。


「あの…笠松さん?
どうしたんですか?
どうしてここに?
というか、なんで帰るぞなんて?」
外に出てようやく、さつきは笠松に質問をした。

店を出るまでの笠松は険しい顔をしていて、そんなこと聞けるような雰囲気じゃなかった。

「トイレで男達があんたのことを話してるの聞いて、このままじゃいけないと思って連れ出したんだ。
あの女は本当にあんたの友達なのか?」
笠松はさつきに聞いていた。

自分が聞いた全てを話したらきっとこの子はショックを受けるだろうと思ったから、曖昧に言葉を濁したけど。

そこでようやく、笠松はさつきの腕を掴んだままなのを思い出し、手を離す。
だけど普段なら緊張してるだろう笠松も、あの男達への怒りの方が大きくて、さつきと二人でいても普段のように挙動不審にはならなかった。

さつきは笠松の質問に目を泳がせたけど、やがてため息をついた。

「そう思ってたのは、私だけだったんですよね。
あっちはそうは思ってなかったんですよね。」

寂しげなその呟きに笠松はさつきの顔を見た。
さつきは自嘲的な笑みを浮かべていた。

「昔から、こんなことはよくあったんで。
それでも私は友達だと思ってたんだけどな…。」

笠松は思わず拳を握っていた。
なんでだろう、分からない。
けど彼女のこんな顔をみると胸が痛む。
こんな顔を彼女にさせたあの男達と、友達だというあの女に対して改めて怒りがこみ上げてくる。

どうしてだかは分からない、だけどこの子にこんな顔はして欲しくない。
傷ついて欲しくない。

「あー、なんだ、その。
どっかでケーキでも食ってかないか?」

色々考えたけど、女子が苦手な笠松には、さつきにこんな顔をして欲しくないと思っても、何もしてあげられない。
どうしていいかも分からない。
けど、以前、黄瀬が
『甘いものが嫌いな女の子はなかなかいないっスよ!』
と言ってたのを思い出して、笠松はさつきにそう言った。

自嘲的な笑みを浮かべていたさつきの顔が笑顔になる。
「ケーキですか?
食べたい!
好きなんです、チェリータルトとか!」

「やっと笑った。」
さつきの笑顔を見て、笠松の顔も緩む。

「え?」
「あんた、笑ってるほうがいい。
なんでかは分かんないけど、あんたが悲しそうな顔してるところはオレ、見たくないんだ。
だからあんたは笑ってるほうがいい。」

笠松の言葉に、さつきはふんわりと笑みを浮かべた。

「どうもありがとうございます、笠松さん。」
「やっぱり、あんた笑ってる方がいい。」
笠松もその笑みにつられて笑顔を浮かべた。

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