黒子のバスケ

部活対抗リレー
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「で、桃井が負けたわけだな?」

目の前の赤司にさつきは不満げな顔で頷いた。
じゃんけんに勝つたび、マネージャー仲間は歓喜の声をあげていく。
そんな中、このじゃんけんの意味を分からないまま、さつきは負けた。
「ご愁傷様!」
「頑張って!」
「ありがと!」
負けた自分に口々にかけられる声。

「えと、これは何のためのじゃんけんですか?」
訝しげに聞くさつき。

「あ、体育祭の部活対抗リレー、バスケ部は女子を一人入れなきゃならなくなったの。
それを決めるためのじゃんけん。
あんた、部活対抗リレーにでるのよ。」
「えええ?!」
チーフマネージャーの笑顔にさつきは驚愕に叫んでいた。

今年の帝光中の体育祭には、キセキの世代を見に教育委員会かなんかのお偉いさんがくることになったらしい。
そのため、部活対抗リレー、バスケ部はキセキの世代&シックスマンの黒子が出場することが確定した。
だけど、それだとおそらくはバスケ部がぶっちぎりの1位になってしまうだろう。
やる前から分かっていたら、他の部活の生徒のやる気が削がれる、それで通常なら5人で行われるはずの部活対抗リレーを特別に今年は七人にし、バスケ部だけはハンデとして女子マネを一人、リレーのメンバーに入れるように、そう体育科主任から話があったらしい。

赤司はその指示を受け、チーフマネージャーに
「マネージャーからリレーに参加する誰か一人を選出するように。
選出方法は任せる。」
と伝え、チーフマネージャーの先輩は一番簡単なじゃんけんでメンバーを決めることにした。

結果、さつきが出場することになったのだ。


部活終了後、リレーに出場する6人とさつきは体育館に残っていた。
走る順番などを決めるためだ。

「ありえない、男子の部になんで一人だけ女子がでるの?
私、さすがにそれはいやだよ。」
さつきは涙目になっているが
「どのマネージャーも桃井と同じことを思ってるに決まってる。
しかし学校からの指示じゃ仕方ない。
そして桃井はじゃんけんで負けたんだ、仕方ないだろう。」
赤司にあっさりと言われて、さつきは涙目で俯いた。

緑間と黄瀬と黒子はそんなさつきに内心では同情しているが、学校の決まりだから仕方ない。

「お前、足遅くねーから平気だろ?」
青峰は暢気にそんなことを言ってるが、女子と男子は根本的にちがうということを青峰は分かってないし、それを分からせようとするのも無意味だから、さつきは黙っていた。

「大丈夫だよー、さっちん。
まいう棒あげるから元気出してー。」
紫原の言葉にさつきは少し気分が上昇して、
「いいよ、それはムッくんが食べて。」
と笑顔で紫原を見ることが出来た。
さつきが笑ったので全員がホッとする。

さつきには可哀想だが、さつきが選ばれてよかったと全員が思っている。
だって、さつきにいいところを見せられるチャンス!なワケだ。
さつきをフォローしつつも、さつきにいいところを見せて、あわよくば好きになってもらおうという下心がないといえば嘘になる。

「それで、部活リレーに出る選手は、基本的に部活のユニフォームを着なければならないんだ。
けど…どうするか。
桃井と体格が近いのはテツヤだけど、テツヤもリレーにでるからユニフォームを貸すわけにもいかない。」
赤司の言葉にさつきは
「ジャージじゃだめなの?」
と聞く。

バスケ部のジャージは選手しか持ってないので、学校指定のジャージを着ることになるけれど、それでいいんじゃないかと思ったのだ。

「でも部活対抗リレーはユニフォームで出場ってのが基本だからな。
お前、タダでさえ女だってだけで目立つのに、一人だけ着てるもん違うんじゃもっと目立つんじゃねぇの?」
青峰に言われ、さつきは肩を落とす。
「そうだね…。」

「赤司くんがアンカーになってアウェイ用のユニホームを着て、桃井さんが赤司くんのホーム用のユニホームを着るのはどうですか?
アンカーと分かりやすいようにみんなとユニフォームの色が違うといえば問題ないとおもいます。
だけど僕は足が遅いのでアンカーは務まりませんし、僕の次に体格が桃井さんに近いの、赤司くんでしょう?」
黒子の提案に
「それがいいのだよ!」
「そうっスね!」
緑間と黄瀬も賛成する。

「そうだな、それじゃ僕のユニフォームを試しに着てみてくれ。」
さつきは赤司と共に部室に行き、赤司がロッカーから出した洗濯ずみのユニフォームを渡される。
「着替えが終わったら呼んでくれ。」
「分かった。」

さつきは一人部室に残って、赤司のユニフォームを着てみた。
ちょっと…というか、青峰や緑間、黄瀬や紫原と一緒にいるから小柄だと思いがちだが、黒子も赤司も同年代の男子の平均身長はある。
それにわりと細身だと思ってたが、赤司もやはり男だったのか、実際に着て見るとユニフォームは結構大きい。
とくにボトムはウエストがゆるすぎてこれで走るのは無理があるような気がする。
何もしなくてだんだんずり落ちてくるのだ。
さつきはウエストを押さえたまま、部室をでた。

部室の外では六人が待っていた。
「お、でてきた…」
言いかけた青峰がさつきを凝視する。
黒子と緑間と赤司はさつきを見た後で慌てて視線をそらした。
三人の顔は赤い。
黄瀬と紫原は呆然とさつきを見ている。

「あの…なんかちょっと大きいみたい。」
ウエストを押さえてるさつきは困ったような顔をしていて、それが余計に男をそそる。
本人は気がついていないのが、たちが悪い。

それにしても、これが本当に帝光中学bSのユニフォームだろうか?
来てる人間がちがうだけでこんなに違うのか?

だぼっとしているのに胸のところだけ盛り上がったユニフォームはさつきの女らしさをさらに強調しているように思う。
脇の部分の開きは大きすぎて、横から胸が見えそうできわどいし。

これは却下だ。
自分の前でだけこの格好をしてくれるならいいけど、こんなさつきを不特定多数の目にさらすわけに行かない。

赤司はさつきから目をそらしながらも瞬時にそう判断した。

「さつき、とりあえずユニフォームの下にTシャツを着たほうがいい。
今日着ていたTシャツがあるだろう?
その上からユニフォームは着よう。
ボトムは仕方ない、監督には僕が許可を取っておく、学校指定のハーフパンツで出場してくれて構わない。
すぐに着替えなおして来てくれ。」

「うん、分かった。」

部室に戻っていくさつきを見て全員がホッと胸をなでおろす。
自分にだけ見せてくれればいい。
だけど、他の人にはさつきのあんな姿は見せたくない。
各自がそう思った時、

「今度さつきがうちに来た時、オレのユニフォーム着せてみっか。」
青峰が呟いた。

瞬間、
「うぉっ!」
青峰は野生的なカンでとっさに避けた。
さっきまで青峰がいたところの後ろの壁にはさみが刺さってる。

「あぶねーな!
赤司テメ…うぉ!」
今度は青峰の顔面めがけてボールが飛んできた。
青峰はそれも避ける。

「テツ、テメ…うぁ!」
今度は頭上からボールが飛んできた。
青峰はそれも避ける。

「チッ!」
「チッじゃねーよ、緑間ァ!」

「そのままぶつかっちまえばよかったのに。
もしくは豆腐の角に頭ぶつけて欲しいっス、青峰っち。」
「黄瀬テメェ!」

「なにそれ、自分は幼馴染だからいつも一緒ですよっていう自慢?
峰ちん、捻り潰すよ?」
ゆらりと青峰の前に紫原が立ちふさがる。

「幼馴染などとはいっても、勘違いされるのがいやで青峰君などと呼ばれている男が何を言っているのだよ。」
緑間がメガネをあげて青峰を睨む。

「本当です。
昔は大ちゃんだったかもしれませんが、今は青峰君でしょう?」

「オレなんかムッくんだもんね。」

「オレはきーちゃんっスよ!」

「真太郎、テツヤ、敦、涼太。
それは桃井に赤司くんと呼ばれている僕への侮辱と思っていいのかな?」
赤司が目は笑ってない笑顔で四人を見てる。

「「「「ホントすいませんしたっ!!」」」」
四人が慌てて謝った時、部室のドアが開いた。

「これでどうかな?」
出てきたさつきは持参していたTシャツの上に赤司のユニフォームを着て、下は学校指定のハーフパンツだった。
これも破壊力は抜群なのだけど、さっきよりはましだろう。
「いいんじゃないか。」
赤司に言われてさつきは笑う。

「そう、よかった。
ありがとう赤司くん。
これ、借りるね。」

さつきの笑顔に全員が
(マジ天使降臨!)
と叫んでいた。

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