黒子のバスケ

□おかしな二人
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高校生活が始まった。

うちのクラスには、休み時間になると他のクラスの男も集まる。
お目当ては彼女…オレの前の席に座る桃井さつきだ。

オレは知らなかったが、彼女はバスケのものすごい強豪、帝光中学でマネージャーをしていたらしい。
キセキの世代とか言ったか…なんかバスケをやってるやつらの間ではすごく有名なやつらで雲の上の存在らしーが、そいつらを影で支えたマネージャーで、その頃から帝光の美人マネとして有名だとオレの友達が言っていた。
高校でも当然、バスケ部のマネージャーをやってるそうだ。

そんなんで、中学でバスケをやっていたやつにとっては雲の上の存在のマネージャーを一目見ようというのと、まぁ単純にこれだけの美少女でスタイルもよくて胸もでかいので、見学に来るやつが後を絶えないのだ。

そんな美少女がくるっと振り返ってオレに話しかけてきた。
「考え事してたら今の授業のノート取るの、忘れちゃった。
ごめんね、桃内くん、悪いんだけどノート貸してくれないかな?」

彼女は自分の顔の前で手を合わせて頭を下げた。

OH…地上に女神が降臨した…。

教室中の男たちの羨ましそうな視線を受けながらオレは
「もちろん!
いくらでも写して!」
と言って彼女にノートを渡す。

「ありがと!」
彼女はオレに100万$の微笑みを見せてノートを受け取ると机に向き直る。
やべぇ…何あの笑顔!
オレがひそかに心の中で悶絶してる時だった。

「さつきー」
教室中に響き渡る声に、クラス中の男子の敵意ある視線が一斉にそっちに向いた。
もちろんオレもだ。

入ってきたのは青峰大輝…こいつがそのキセキの世代とやらのエースだった男らしい。
とんでもないバスケセンスの持ち主で、練習に出ないというわがまますら許されている男…。
こいつがすげぇむかつくことに、桃井さんとは幼馴染らしく、クラスは違うのによく桃井さんのところにくる。
体もでかいから、物理的にも心情的も目障りな男だ。

「大ちゃん!
今日はどうしたの?」
桃井さんはノートから青峰に視線を移す。

「前の授業、体育だったんだけどよー、ネクタイ外したら結べなくなったわ。
結んで。」
青峰は桃井さんにネクタイを渡す。
「は?
桜井くんにやり方教えてもらえばいいでしょ。
もしくはネクタイ全部ほどかないでって言ってるでしょ!」
桃井さんはぶつぶつ言いつつ立ち上がると青峰からネクタイを受け取る。
青峰は当たり前みたいに軽くしゃがむ。
桃井さんは青峰のワイシャツの襟を立て、ネクタイを通すと襟を元に戻してキレイにネクタイを結んでやった。

羨ましい…!
青峰死ね、今すぐに!
そう思っているのはオレだけじゃないはずだ。

それなのに、ネクタイだけならまだしも、青峰は再び
「さつきー」
と、桃井さんの名前を呼ぶ。
桃井さんは諦めたようにため息をつくと、かばんから自分の弁当箱を取り出して青峰に渡した。
「授業中に早弁しちゃだめだからね。」
「なら、ここで食ってくわ。」
青峰は桃井さんの前の席…今日はそいつは欠席だ…の椅子にまたがるように座って、桃井さんの机で弁当を広げて食い始めた。


……ちょっと待て!
なんで今の『さつきー』だけで桃井さんは青峰が弁当を求めていることが分かるんだ?!

オレと同じことを、この教室中のやつが思ってるはずだが、当の本人達はケロッとしている。
桃井さんはノートを書き写し、青峰は桃井さんの弁当を食っている。

「おい、さつきー。」
「うん、分かってる。
後でノート貸すから。」
「おう。」

……なんで今の『おい、さつきー』でそんなの分かんの?!

教室内の誰もが二人に注目し、休み時間だというのに誰一人としておしゃべりもしないというこの状況で、二人だけがそれぞれにノートと弁当を食っている。

「さつきー」

おい、またでたよ、『さつきー』!

今度はなんだよ、っつかもの食いながらしゃべんな!
オレが内心でつっこむと桃井さんもオレと同じことを思ったのか、
「大ちゃん、ご飯食べながらしゃべるの行儀悪いよ。」
と注意をしたが、次の瞬間
「日曜日は八時に正門前に集合ね。
練習試合の相手は正邦だよ。」
と答える。
「オレ行かなくてもいいだろ?」
「ダメ。」

っつか桃井さん、なんで分かんの?!
さつきーで何で青峰の言いたいことが分かってそれに答えられんの?!
なんなの、なんなのこの二人。
オレが…いやこの場にいる誰もが呆然としてるうちに、予鈴が鳴った。
青峰が弁当箱のふたを閉めると包みなおして桃井さんに渡す。

「さつき。」
「はい。」
今度は桃井さんは自分の机からボディペーパーとシーブリーズを取り出して青峰に渡した。
ボディペーパーはパッケージからして明らかにメンズ用で、自分のものじゃなく、青峰のために用意していたものだと分かる。

「サンキュ。」
「授業、サボっちゃダメだよ?!
ちゃんと出てね!」
「うるせーなー、分かったよ。」
青峰はめんどくさそうに返事をして教室を出て行った。

クラスには青峰死ねというクラスの男どもの思いと、あの二人付き合ってるんだよね?という女子の疑問が渦巻いているというのに、桃井さんは普通の顔でノートを写し続けていた。
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