黒子のバスケ

もう二度と
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それからのことは覚えていない。

気が付いたら家にいた。
自室で、白紙の洛山高校の願書を見つめていた。
さつきに渡そうと思っていた、願書。

だけど赤司がさつきは自分に付いてくるのが当然だと思っていたように、さつきにとっては青峰のそばにいることが当然だったのだろう。

「僕は、負けたことがない。
勝利は基礎代謝だ。
僕は負けたことがない。
すべてに勝つ僕はすべて正しい。
僕はさつきのことを好きだなんて思っていなかった。
さつきを愛してなんていなかった。
そばにいて欲しいなんて思ってなかった。
洛山高校に一緒に来て欲しいなんて思ってはいなかった。
だからこれは負けじゃない。
僕は負けてない。
だって僕は、さつきを愛してなんていなかったんだから。」

赤司は願書を見ながら呟く。
なのに願書にぽつぽつと水滴が落ちる。

だめだ、やっぱり、自分の気持ちにうそはつけない。
もう認める。
僕は負けた。
でも負けたままで引き下がるような男じゃない。
目をこすって赤司はもう一度呟いた。

「勝利は基礎代謝だ。
すべてに勝つ僕はすべてに正しい。
だから必ず、さつきを僕のものにする。
大輝になんか渡さない。
何年かかっても、僕はさつきを手に入れる。
だって僕はさつきを愛してるから。」



『勝ったことしかないような奴が知ったような口をきくなよ』

そう言ったのはかつての副主将・緑間真太郎。
赤司はその言葉に微かに笑みを浮かべた。

『僕だって敗北を知っている。
知っているからこそ、誰にも負けない。
僕のことを知りもしないくせに知ったような口をきくなよ。
僕はさつきを絶対に手に入れる。
だから負けることなど許されないんだ。』

だから相手が誰だろうと僕は負けない。
負けるのは一度きりで十分だ。

そしてもう二度と、負ける気はない。
相手が真太郎でも、敦でも、涼太でもテツヤでも…そして大輝だったらなおのこと。
絶対に負けない、もう二度と。

脳裏に浮かぶ愛しい笑顔を思い出し、赤司は笑みを深めた。

END

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