黒子のバスケ

もう二度と
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「赤司くんが洛山、ムッくんが陽泉、ミドリンが秀徳、きーちゃんが海常でテツくんが誠凛。
それで最後まで進路の決まらなかった青峰くんが桐皇。
これでレギュラー全員の進路が決まったね。」

バスケ部の部室。
100人からいる部員をまとめる主将は色々大変で、引退後も赤司は新しい主将になった後輩に引継ぎが完全に終わっていなかった。
そのため、なにかとバスケ部に顔を出していた。

さつきもそれは一緒で、次のマネージャーに色々と教えておかないといけないことがある。
それで部室に顔を出すことが多かった。

お互いに自分の仕事をこなしながら雑談をする中で、ふいにさつきが言ったのは最後まで進路が決まらなかった青峰の進路が決まったという話だった。

「練習に出なくていいならいいとか無理難題を言ってばかりでどうなることかと思ったが、大輝もやっと決まったのか。」

赤司はホッとした。
レギュラーの進路が決まる中で、練習したらうまくなるからという理由で練習をしないと言っては推薦を持ってきた学校の監督を怒らせていたエースを心配していたのだ。
とはいえ、何を言っても無駄だと思っていたから静観していたが、目の前にいる彼女はさぞやきもきしただろうと思う。

「うん。」

「桐皇…ここ最近、力をつけてきたところだな。
今はスカウトに力を入れてて、新鋭の暴君なんて呼ばれている。
プレースタイルも個人技重視、大輝には合ってるかもしれないな。」
赤司の言葉にさつきは
「赤司くんは本当に何でもよく知ってるね。
すごいよ。」
と心の底から感心した。

「色々なところからスカウトがあったからね。」
「でも、赤司くんは最初から洛山に行くつもりだったんでしょう?」
赤司は微かに口角を上げた。

「開闢の帝王なんて言われてるし、赤司くんにぴったりだもの。
きっと、赤司くんなら帝王・洛山の新しい歴史を作るんだろうね。」

さつきはそんな赤司に微笑みかける。
「当然だ。
勝利は僕にとって基礎代謝と同じなんだから。」

…だからさつき。
一緒に洛山にきてくれないか?
いや、洛山に来るだろう?
赤司が口を開きかけた時だった。

「そうね。
赤司くんはそうじゃないと、赤司くんらしくないよ。
赤司くん、三年間、本当にありがとうございました。
赤司くんが主将だったから、みんなここまでやってこれたんだと思うの。
みんなを完璧に纏め上げた赤司くんはすごいと私は思ってるし、尊敬もしてるの。
これから先、どんな人がみんなの主将になったとしても、きっとみんな、赤司くんが最高の主将だったと思うと思うし、私たちの主将は赤司くんだけとも思ってるはず。
だから赤司くんが敵になるのは怖いけど…でも、勝てないと分かっても私は私の精一杯で赤司くんと戦うわ。」

さつきの言葉に赤司は驚く。

さつきはまとめていた引継書から目を離さないでいたから気がつかなかったが、赤司のを顔を見ていたらきっと赤司が驚愕に目を見開いているという、見たこともなかったものが見れただろう。
それくらい、赤司はさつきの言葉に驚いていた。

赤司くんが敵になるのは怖いけど…?
何を言ってるんだ?
お前は洛山に来るんだろう?
だから僕たちが敵になるわけがないだろう?

そうは思ったけど、声にならない。
いや、声が出ない。
そんな赤司の沈黙を肯定にとったのか、さつきは続ける。

「桐皇は東京、洛山は京都。
赤司くんと戦うには、IHかWCしかないものね。
まずは、青峰くんにちゃんと練習に出させるところから始めなくちゃ。
いくら桐皇が練習に出ないなんて条件を飲んでくれたからって、赤司くんたちは練習にもでないで勝てるほど甘い相手じゃないんだから。
だから、私、桐皇でもマネージャーやるよ。」

それで赤司はようやく理解した。
さつきはもうすでに桐皇学園高校に進学することを決めている。
青峰のそばにいることを決めている。

好きだと言っていた黒子ではなく、尊敬してる自分でもなく、強くなりすぎてしまってスレてしまった青峰のそばに。

赤司征十郎は、敗北を知らない。
経験をしたことがないから。

だけど今のこの、心に穴があいたような喪失感…これこそがきっと敗北なんだ、赤司はなんとはなくだけど、理解した。

さつきは自分じゃなく、青峰を選んだんだ。

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