黒子のバスケ

七色キセキの芸能活動
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「カット!」
の声がかかると同時にさつきは着ていたパーカーのファスナーを首元まできっちり引きあげた。

若松はすぐにバスタオルをさつきに渡しにいく。
「若松さん、ありがとうございます。」
さつきはそれを受け取って、腰に巻いた。

黒子のバスケの撮影は順調に進んでいた。

このドラマ、今吉の策略なのかなんなのか、七色キセキ個人個人についてるマネージャーがそれぞれのチームメイト役で出演することになった。
演技初心者の七色キセキにとって、いくらメンバー全員が一緒に出演できるといったって、役柄的には黒子と五人は敵対関係にあるし、さつきはマネージャ役で常に一緒に出演できるわけじゃないので、少しでも七人の精神的負担が減るようにとの、今吉の計らいらしかったが、演技どころか、芸能人ですらないマネージャー達にとってはたまったものじゃなかった。
だけどチーフマネージャーの今吉自身も出演しているから、文句も言えない。
それに自分の担当してるメンバーのことはやはり気になるものだ。


火神もカットの声がかかった瞬間、役者からマネージャーに戻って、黒子にバスタオルを渡していた。


さつきがパーカーのファスナーを引き上げ、バスタオルを巻いたことで、プールサイドにいた誠凛高校メンバー役の役者たちは、残念そうな顔になる。

今日はさつきの初登場のシーンの撮影があった。
グラビア撮影は慣れてるし、初の写真集の撮影も終え、後は発売日を待つばかりという状態のさつきだが、それはあくまで七色キセキの存在を多くの人に知ってもらうためにしてることであって、本来のさつきはグラビアだのなんだのが好きではない。
あくまで歌うことが好きなのだ。

だから撮影では水着を着ても、それが終わるとどんなに暑くても肌はさらさない。
それはドラマの撮影中も同じで、水着でプールサイドに現れるが、撮影が終わった瞬間に肌を覆い隠した。


「はい、今日の撮影は終わりです!
七色キセキの皆さんは、スチール撮影お願いします!」
監督の声に、プールサイドに待機していた赤司たち5人が立ち上がった。

ドラマの主題歌は七色キセキが担当している。
OPが二期に変わり、そのCDの発売も控えている。
それで今日はCD宣伝用ポスターの撮影がある。
さつき初登場の撮影がプールサイドだったので、そのままプールサイドで撮影をすることになっていて、撮影現場には本来なら撮影のない赤司や青峰、緑間に黄瀬に紫原もいた。
5人ともバスローブを羽織っているが、下は水着に着替えている。

「テツヤとさつきは更衣室で着替えて来てな。
ポスター用の衣装が用意してあるで。」
今吉の言葉にパーカーを首元まできっちりあげ、バスタオルを膝下まで巻いてるさつきとバスタオルを肩からかけてる黒子が頷いた。

「さつき、っつかそのかっこ暑苦しいわ。
見てるこっちがあちーよ!」
桜井から冷たい飲み物を受け取った青峰がストローでさつきをさすが
「お行儀が悪いわよ、大ちゃん。」
さつきはそれだけ言って今吉と若松に付き添われてプールサイドを出て行った。

「青峰さん、幼馴染なんだから、桃井さんが肌をさらすの好きじゃないのご存知でしょう…?」
青峰の個人マネージャーの桜井良が恐る恐る青峰に言う。
「まぁ…な。
だからあいつらなんとかなんねぇの、良。」
青峰はちらっと居残ってる誠凛メンバー役の役者たちを見た。

みんな役者として、知名度のある人ばかりだ。
そういう人でも、人気バンドの七色キセキには興味があるらしい。
撮影が終わったにも関わらず、帰ろうとしない。

「見学者このままでいいのかい、玲央。」
赤司が実渕に聞く。 
「まぁ…ねぇ…帰れとか言えないでしょ?」

「高尾、追い出せ。」
「真ちゃん、なにその無茶ぶり。
出て行けとか言えるわけないし!」

「室ちん、捻り潰してきていい?」
「敦はもう少し大人にならないとだめだよ。
何でもかんでも捻り潰すことで解決はしないんだから。」

「けど桃っち、昔っから下心のある男にしつこく付きまとわれてたから、人前で肌晒すのいやがるし。
先輩、なんとかなんないですか?
今回の撮影でも、オレたちやマネの目盗んで、何人かが桃っちにちょっかい出してるっしょ?」

「そうなんです。
それなのにさつきさん、バンドのためにグラビアとかしてくれてるし。
だから僕たちもさつきさんのためにできることはしてあげたいんです。」
着替えを終えて戻って来ていたらしい黒子に、黄瀬の話を聞いてた笠松が驚く。

「っつかテツヤ、お前いつ戻ってきたの?!」
「今ですよ。」

黄瀬と黒子の言葉にマネージャー達は集まって話し合いを始める。
確かに、そういう話は今吉から聞いている。
それから今吉からはこうも言われている。

『あの六人なァ、みんなさつきが好きなんや。
せやけど、さつきにまだ色気はいらん。
さつき、若松にちょっとだけ憧れてるやろ?
今はまだそれくらいでちょうどええんや。
不埒な輩はもちろん、あの六人からも徹底的にさつきを守るようにな。』

結局は今吉がいない時はマネージャーをまとめている笠松がスタッフに
「撮影は他の役者さんは遠慮してもらえませんか?
七色キセキのポスター、皆さんにどんなのかなって楽しみにしてもらいたいので。」
と言ったことで、役者の皆さんにはお帰りいただくことができ、さつきが戻ってきた時はスタッフとマネージャーと七色キセキのメンバーしかプールサイドにいなかった。


そのせいか、撮影が無事に終わった後は、七人はそのまま素に戻ってプールで遊んでいた。

「なんだかんだいいつつも、あの子たちまだ子供ねぇ…」
実淵は呆れたようでいて嬉しそうだ。

「そうだね。
でも仕方ないよね。
普段、仕事に学校に忙しいから。」
氷室の七人を見る目は優しかった。

「青峰さん、いつもあれだけ機嫌がよければいいのになぁ…」
桜井の切実な声に
「オレだって、普段から真ちゃんがあれだけ機嫌がよかったらいいと思うよ。」
高尾が同意する。

「しかし黄瀬…あれがモデルしてる黄瀬涼太と同一人物とはとてもじゃねぇけど思えねぇよ。」
プールサイドで休んでいたら青峰に足を引っ張られ、プールに引きずり込まれる黄瀬を笠松は微笑ましく見守っていた。

「テツヤ!
お前体力ないんだからあんまはしゃぐな!
明日の撮影に響くぞ!」
火神の声に、黒子は手を上げて頷いたけど、またすぐに赤司と紫原と水の掛け合いを始めた。

「さつき、お前もテツヤと同じであんまり体力ないんだから程ほどにするように。
クリームソーダ、そこの喫茶店からテイクアウトしてきたから上がってこい。
さくらんぼ、二つ入れてもらったから。」
そこに若松がさくらんぼの二つ入ったクリームソーダとチェリーパイの乗ったお盆を持ってやってきた。
緑間と青峰と黄瀬の水泳競争を見ていたさつきに若松が声をかける。

「ホント?!
若松さん、嬉しい!
ありがとう!」
さつきは若松の言葉にすぐにプールから上がって若松に駆け寄る。

「こら、プールサイドは危ないから走るな!」
「ごめんなさい!」
二人のやりとりは兄妹みたいで微笑ましい。

「若松さん、さすがですね。」
氷室が感心してる。

「まぁさつきは姫だもんね、みんなの姫。
本当に可愛いわ。」
実渕は二人というかさつきを見て身悶えている。

「そやね、まださつきはみんなの姫でええんや。
それにあいつらも子供でええ。」
さつきと若松のやりとりを羨ましそうに見ている六色キセキを見ながら、今吉は微かに笑った。
本当に可愛ええなぁ、あいつら。
だからこれからも大事に大事に育てなあかんな。

「ほら、明日も撮影あるんやで!
ほどほどにしぃや!」
今吉の声がプールサイドに響いた。
その顔は、普段よりずっと優しかった。

END

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