黒子のバスケ

君がいないと生きられない
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ため息をついて青峰が帰った頃だろうと階段を下りようとしたさつきは、いきなり誰かに突き飛ばされた。

「きゃーっ!!」
「さっちん!」
階段から転げ落ちそうになったさつきの腕を誰かが引き上げた。

「大丈夫?さっちん…」
心配そうに自分を覗き込んでるのは紫原だった。
紫原に助けられたのだ、そう思うとさつきは心底ホッとした。

「さっちんを突き飛ばしたの、女の三人組だったよ。
今、黄瀬ちんが追っかけてった。」

ホッとしてボロボロ涙を流し始めたさつきを、紫原は普段の彼からは考えられないくらい優しく抱きしめた。

「さつきっ!」
「敦?桃井?」
「おい、何があったのだよ?!」
そうしているうちに、階段の下から悲鳴を聞いて駆けつけてきたらしい、青峰、赤司、緑間、黒子も現れた。

「んー?
なんか、さっちんを突き飛ばした女がいたー。
三人組みのー。
オレはさっちんを助けてー、女の方は黄瀬ちんが追っかけてった。」


紫原の言葉に青峰の顔がサッと変わる。
青峰はさつきとは幼馴染だ。
中学だけじゃなく、幼稚園や小学校も一緒で。
さつきは昔から可愛かった。
母親からも
「女の子には優しくしなさい、特にさつきちゃんにはね。」
と言われていた。
さつき自身は覚えてないが、さつきは幼い頃、誘拐されかかったことがあるらしい。
助けたのは近所の人で、それから近所の防犯意識は、さらに高まったらしい。
年上の子は年下の子を、男の子は女の子を守る、それが自然とできるようなそんなところで育った故に、青峰の中ではさつきは『庇護すべき対象』だった。
昔からずっと。

実際にさつきは可愛いから、小学校の5年の時には自分の好きな男の子がさつきを好きだったからという理由でいじめっ子から髪を切られるという目にもあっている。
あの時さつきを守ることができなくて、だからこれからはさつきを守る、そう思っていたのに…。
さつきを守ったのは自分じゃなく紫原で、さつきをこんな目に合わせたやつのことは黄瀬が追ってる。


程なくして、黄瀬が一人の女の子を連れて戻ってきた。

「他二人は逃げちゃったけど、一人だけは捕まえることができたっス。」

黄瀬も青峰も紫原も緑間もその女子の顔も名前も知らないが、赤司と黒子と桃井はその女子の名前を知っていた。
バスケ部の二軍のマネージャーだからだ。

「君、二軍のマネージャーだね。
なんで君が桃井を階段から突き落とそうとするんだい?
こんなところから突き落としたらどうなるか、分からないわけじゃないよね?」
赤司の言葉に女子はふてくされた顔をしながら言った。

「桃井さんが怪我をすれば、代わりのマネが二軍から一軍に昇格するんじゃないかと思って。」

全然悪びれた様子のない態度に青峰はカッとなって、その女子に殴りかかろうとした。
それを緑間が止める。

「やめるのだよ、マネージャーを殴ったりしたら部活動が停止になるし、そんな事、桃井が望んでるわけがないのだよ。」

緑間の言葉に青峰はさつきを見る。
だけどさつきは放心したような顔をして、声も立てないでただ涙を流していた。

さつきとしては二軍・三軍関係なく、マネージャー仲間と思ってた子から階段から突き落とされたかけたのだ。
ショックだろう。

「桃井さん?」
黒子がさつきを気遣うように手を差し出す。
さつきが泣きながらその手を握ろうとした時、脳裏に
『幻のシックスマンがいなくなったら困るのかなぁ?』
という手紙が浮かび、反射的にその手を振り払ってしまった。

黒子が驚いたような顔をしている。
それは赤司も緑間も青峰も黄瀬も紫原も同じだった。
いつもテツくん、テツくんと黒子への好意を隠そうとしないさつきが黒子の手を振り払ったのだ。

名前も知らない人からの手紙に、仲間だと思っていた子からの嫌がらせ。
さつきの心を傷つけるには充分だった。

さつきはそのまま何も言わずに走り出した。
誰もいないところに行きたかった。

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