黒子のバスケ

紳士と淑女と暴君
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青峰の機嫌の悪い原因は三日前に遡る。

その日はGWの中日。
たまにはと練習は午前で終わった。

それは大体の学校も同じだったらしく、そしてGWを利用して赤司と紫原もこちらに帰ってきていたので、久しぶりにキセキの世代で集まろうということになったのだ。

紫原だけは陽泉の先輩である氷室辰也と一緒に帰ってきていて、氷室は紫原の家に泊まっていたので、氷室も一緒に来た。

青峰はさつきと一緒に待ち合わせ場所の帝光中に行った。
いつものように寝坊した青峰をさつきがたたき起こし、引っ張っていく形で帝光中についたらもうみんな揃っていた。
「みんな、遅れてごめんなさい!」
謝るさつきに赤司が
「どうせ大輝が寝坊したんだろう?
さつきも大変だな。」
と笑いかけた。

色々あったけれど、こうして笑顔が戻ってきた。
さつきがそれを本当に喜んでいるのは知っていたから、青峰はなにも言う気はなかった。

「当日参加OKのストバスの大会があるんっスよ!
それにみんなで出ましょうっス!」
全員が揃ったところで黒子と話していた黄瀬が言って、全員が賛成した。

それで、帝光中の最寄り駅から二駅ほどさきにあるその大会の会場に行くことになった。

氷室が来るのを知ったせいか、火神も来ていて、だけど青峰と火神はすぐに言い合いになって、紫原は久しぶりにあった赤司の横で赤司と話していて、緑間と黄瀬と黒子はチーム分けの仕方を夢中になって話していた。

それを後ろからニコニコ見てたさつきの横に氷室が並んだのに気がついたのは黄瀬だけだった。
黄瀬はそっちに意識を集中させる。

さつきは隣に氷室が並んだことに気がついて、氷室を見上げた。
「初めまして、こんにちは氷室辰也さん。」
「初めまして、と言っても敦からよく話は聞いてたから始めて会った気がしないね、桃井さつきさん。」
氷室もさつきに笑いかけた。

(なんなんすか、あのイケメン!
オレよりイケメンって始めて見たっスよ!)
黄瀬はその笑顔をみて愕然とする。

氷室辰也…キラキラ系なイケメンの自分と違い、男の儚い感じの色気が溢れるイケメンだった。

「そうですね。
私も試合のDVDを何度も見たので、実は氷室さんには始めて会った気がしないんです。
それにしても氷室さんってすごいですね。
あのムッくんが赤司くん以外の人になついてるなんて。」
さつきも氷室を見上げたままだった。

(っつか、桃っち、やっぱり帝光一の美少女なんていわれてただけあるっス。)
その笑顔を見て、黄瀬は再びそう思う。

青峰を叱ったり、紫原を諭したり、赤司や緑間とバスケの作戦について話したり、自分を姉の様に励ましてくれてるさつきを見ていたから失念していたが、彼女は同年代の子の中にはなかなかいないようなプロポーションの持ち主で、美人で頭もよく、同じバスケだから気軽に話していただけで周りからは高嶺の花と思われるような女の子だったのだ。

氷室を笑って見上げているさつきを見て、それを思い出した。

中学時代から何度、さつきとの仲を取り持って欲しいとクラスメートに頼まれただろう?
その高嶺の花の美少女をさりげなく車道側から離して、自分が車道側を歩く氷室はジェントルマンだ。

よく考えたら、今までさつきにそういうことをしてあげたメンバーは自分たちの中にいなかったかもしれない。
黒子は多少は気にかけてはいたが…。

そういや誰かが人は女に生まれるのじゃなく、女になるのだと言ってたらしい。
青峰と一緒の時とは全然違う、さつきの表情に黄瀬が見とれていたら、
「ねぇ、あれ見て!」
と前方で女の子の声が聞こえ、黄瀬は前に向き直る。
自分のファンの子に見つかったのだろう、そう思った。
それは他のメンバーも一緒だった。

だから気にも留めていなかった全員が、次に続く女の子の言葉に唖然とする。
「すっごい美男美女!」
「ホント、すっごい綺麗ねぇ!
芸能人かなんかかな?
男の人、めちゃくちゃ素敵!」
「女の子も!
スタイルいいなぁ…それにあのキラキラした美女オーラ…。」
「あそこまで綺麗だと純粋に憧れるね。」

そんな美男美女カップルがいるか?!
全員があたりを見回し、固まる。


いた、美男美女。
自分たちの最後尾を歩いていた氷室辰也と桃井さつきだ。


自分たちの横を素通りした女子二人が
「あの、写真とっていいですか?」
と話しかけている。
さつきは驚いた顔をしているが、氷室は穏やかに
「君達、誰かと勘違いしてるんじゃないかな?
オレたちはただの一般人だよ。」
と笑っている。
「すみませんでした。」
芸能人じゃないと分かった二人組は頭を下げて去っていった。

「びっくりした…。」
「さつきはとても綺麗だからね、芸能人と勘違いされてもおかしくはないよ。」
顔色一つ変えないで褒め言葉を口にする氷室と違い、
「え、辰也さんを芸能人と勘違いしたんだと思いますよ?
辰也さん、雰囲気があるって言うか…すごく素敵だと思います。」
一方のさつきは顔を真っ赤にして顔の前で手を振っている。

「Satsuki is very beautiful。
Really beautiful。」
にっこりと微笑む氷室に真っ赤になっているさつき。

「緑間っち、あれ何て言ってるんっすか?」
全員呆然と二人を見ていたけど、黄瀬が一番に自分を取り戻し、傍らの緑間に意味を聞く。

「さつきは本当に綺麗だね、そんな感じかな。
そばにいすぎて気がつかなかったが、確かにさつきは綺麗な女の子なんだよな。
僕も何度、クラスメートからさつきとの仲を取り持って欲しいといわれたか分からない。」
「え?
赤司君にそんなこと頼むとか、勇気がある人もいるんですね。」
「テツヤ、なにか言ったかい?」
「すみませんでした。」
「分かればいいよ。
とりあえず真太郎、そのマヌケ面はやめた方がいい。
涼太もだ。
大輝はその凶悪な顔をどうにかしろ。
僕たち全員が職務質問を受けそうだ。」
黄瀬に聞かれても呆然としていた緑間に変わって赤司が答え、歩き出す。

「しかし敦の友達はすごいな。
あんなことをさらっと言えるなんて。」
それでも赤司も少なからず、動揺してるようだった。

「室ちんすごいね。
オレも驚いてる。」
紫原はまいう棒を食べることも忘れている。

「さつきって呼んでたっスね。」
「辰也さんとも言ってましたよ。」
「いつの間にあんなに親しくなったのだよ、あの二人。」
黄瀬と黒子と緑間の言葉ですらむかつくのに、
「辰也はレディファーストが徹底してるからな。
辰也の本気はあんなもんじゃねー。」
という火神の一言が青峰の機嫌を地の底まで下げたことに気がついたのは誰もいなかった。

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