黒子のバスケ

□オレだけのもの
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「桃井、ちょっといいか?」
赤司に声をかけられ、さつきは赤司の元に行く。

赤司がさつきになにか言い、さつきはそのたびに手元のボードを見たり、あごに指を当てて考えながら赤司に何か告げていく。

しばらくそうしていた二人だったが、やがて赤司が
「わかった。
助かったよ、桃井。
ありがとう。
僕はちょっと監督たちの所に行ってくる。
真太郎、あとは頼む。」
と告げて体育館を出て行った。

出て行く前に、さつきの頭を撫でることは忘れない。
あいつ、自分が主将だってことにかこつけて、なんだかんださつきを独占してるよな、ムカつく。


その様子を一部始終見ていた青峰が不快感に顔を顰めた時、さつきがいきなり
「ミドリン!」
と声を上げた。

「なんなのだよ、いきなり?!」
いきなり大声で名前を呼ばれて驚く緑間に近寄ってさつきは制服のポケットから爪やすりを取り出した。

「爪が気になるなら、気にしながら練習するよりももう練習中断した方がいいと思うよ。
フォームにへんな癖がついたら困るのミドリンでしょ?
練習は私が見てて、何かあったら報告に行くから部室に戻ってても大丈夫だよ。」
さつきの言葉に緑間は目を見開いた後、
「よく分かったな。」
と呟いた。

「うん?
たまたまよ、たまたま。
行ってらっしゃい。」
さつきは爪やすりをわたして緑間に笑いかける。

「この借りはいつか返すのだよ。」
「いいよ、借りなんてそんなものじゃないし。」
緑間は笑うさつきの頭にポンと手をおいて
「いつも桃井には感謝しているのだよ。」
と言うと体育館を出て行った。

あの野郎、陰険メガネのくせになんでさつきにはあんな優しい顔をしやがるんだ、一連の出来事を見てた青峰は再び不機嫌になる。


その時、体育館の隅で怒声が上がり、全員がそちらを見る。

また、黒子と紫原が言い合いをしていた。

二人の言い合いはいつものことだが、今日の二人はみるみるうちに激昂していって、珍しいことに今にも互いに掴みかからんばかりになっている。

「青峰っち、どうするっスか?
赤司っちも緑間っちもいないし…やばくないっスか?」
最初は二人の間に入って止めようとしてた黄瀬だけど、自分の存在を無視して言い合いをエスカレートさせた二人に早々にギブアップして、泣きそうな顔で青峰に近寄って来た。

「あん?
しかたねーな、緑間が部室にいるから呼んで来いよ。」

青峰の言葉に黄瀬が走り出そうとした時だった。

バシン!
バシン!
といい音が二回響き、全員がそちらを見る。

そして全員が唖然としてる。
紫原と黒子が頭を抱えていた。
そして二人の間に立っていたのはボードを抱えたさつきだった。

「さっちんいたいー。」
「桃井さん、何をするんですか?」
紫原と黒子は頭を抱えながら不満げにしてる。

「意見が違うのは当たり前だよ?
だってムッくんとテツくんじゃ、ポジションも得意なことも、バスケに対する気持ちも違うし、性格も違うもん。
だからお互いの意見を言い合うのはいいと思う。
でも、意見を言い合うのと、ケンカするのは違うよ?
そんな風に掴みあいに発展して、怪我でもしたらどうするの?
それより大事なことがあるでしょ?」
さつきの言葉に、二人はハッとしたような顔をする。

「ごめん…」
「すみません…」
二人の声は小さかったけど、さつきは満足そうに笑った。

「私こそ、叩いちゃってごめんね。
いたかったよね?
お詫びにこれどうぞ。」
さつきがパーカーのポケットから出したのは飴だった。
「はい。
練習終わった後、二人で仲良く食べてね。」

「さっちんありがと。」
「どうもありがとうございます。」
「練習の邪魔してごめんなさい。」
さつきは二人に笑いかける。

そんなさつきに表情に乏しい紫原と黒子が笑みを返したのを見た青峰はさらに不機嫌になる。


そして、黄瀬はといえばいつの間にか青峰の元を離れ、さつきに向って走っていった。

「桃ーっち!」
「きーちゃん、頑張って二人を止めようとしてくれてありがとう。
きーちゃんが頑張って止めてくれたから、二人ともケンカにならなくてすんだよ。」

さつきは自分に駆け寄ってきた黄瀬に笑いかけていた。

いや、明らかに黄瀬のお陰じゃねぇだろ、その場にいた誰もがそう思っていたのに、さつきは黄瀬にもポケットから出した飴を渡す。

「これどうぞ。
あ、きーちゃん、最近、筋トレの量増やしたんだね。
筋肉が全身にバランスよく、綺麗について来てるよー。
早く青峰くんに1ON1で勝てるといいね。」
さつきの言葉に黄瀬は
「桃っち!!
オレ頑張っていつかあのガングロクロスケを倒すっス!」
とさつきに抱きつく。


本当にさつきはすごい。
キセキの世代は自分も含め、我が強い。
黄瀬なんかだって人当たりは良いけど、我の強さは相当のものだ。
それをこうも簡単にあしらってしまう。

だけど…
「誰がガングロクロスケだ、このバカ!
さつきから離れろ!」
青峰はさつきから黄瀬を引っぺがす。


ちょうどそこに緑間と赤司も体育館に戻ってきたのを見た青峰はニヤリと笑った。

「おい、赤司、緑間、黄瀬、紫原、テツ。
よく見とけ。」
青峰はさつきを抱き寄せてその唇にキスをする。

さつきは驚きで目を見開く。

体育館にはキセキのメンバーの声にならない声が充満する。

そんなキセキのメンバーにさつきを抱きしめたまま、青峰は言った。

「お前ら勘違いすんなよな、さつきの隣もさつきの愛情も、さつきをさつきって呼んでいいのも、さつきを抱きしめていいのも、さつきにキスしていいのも、全部オレだけの特権なんだよ。
さつきはオレだけのものなんだよ!」

青峰はもう一度さつきの唇にキスをする。
さつきの手が青峰の背中に回って、青峰のTシャツをギュッと握るのが分かって、青峰はさつきも同じ気持ちだったのかと嬉しくなる。

やっぱりさつきは。
オレだけのものでいればいいんだ。

END

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