黒子のバスケ

□お前がいる未来
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その日は部活も休みで惰眠をむさぼっていた青峰は自分の上にボスッと何かが乗ってきたことで驚いて飛び起きた。

「おはよう、青峰くん。
買い物いこ?」
自分のお腹の上に馬乗りになって微笑んでるのは幼馴染の桃井さつきだった。

「てめっ…さつき!
朝っぱらからなにしてんだ、てめーはっ!」

どうにもこの幼馴染は、自分に対して子供の時のままの気持ちでいるらしい。
自分たちはもう高校生で自分のさつきに対する気持ちは変化しているのだけど…。

「朝じゃないよ、もう昼だよ。
だから買い物行こ、買い物!
ほら早く起きて!」

「だぁーっ!
もう分かったから早く降りろ!
っつか下で待っとけ、用意すっから!」

青峰の言葉にさつきは青峰の上から降りる。

「じゃ、待ってるから早くしてね!」

自分の部屋を出て行くさつきの後姿を見送ってから青峰はため息をついて頭をかく。

俺はもうガキじゃなくて男で、あいつもガキじゃなくて女なんだけど分かってねーんだろうな、あいつ。
第一男の朝には生理現象とかあるんだけど、あの年にもなってそれすらガキすぎてしらねーんじゃねぇの、あいつ。
じゃなかったら男の部屋に簡単に入ってこねーよな、そう思いながら青峰は立ち上がる。
準備に時間がかかるとまたさつきがうるせーから早く準備をしよう。
青峰はクローゼットを開けて服を選び出した。


用意が終わった青峰を連れて、さつきは人通りの多い駅前に来ていた。

さつきは目を輝かせて、店のショーウィンドウを見たりしながら歩いている。

青峰はそれをああいう顔はガキん時から変わんねーなと思いながら見ていた。

が、自分から少し距離を取って自分の横を歩くさつきに、道行く男の視線が集まっているのに気がついた。

それをおもしろくねーと思った青峰はさつきに話しかけた。
「もう少しこっち寄れ。
こんだけ人が多いんだ、はぐれっと困んだろ?」

「そうね、確かに青峰くんが迷子になったら困るもんね。」
さつきは笑ってそう言って、青峰に寄り添った。

これなら実際はそうじゃなくても恋人同士にみえんだろ、そうすりゃ男どもも諦めんだろ、青峰が内心で満足した時、さつきがいきなり走り出してしまった。

それを唖然として見送ってた青峰は、さつきが止まってしゃがみこんだのを見て自分もさつきを追いかけた。

さつきは一人で泣いてる子供に気がついて走り出したらしかった。
「どうしたの、お父さんとかお母さんはいないのかな?」

青峰がさつきと子供の所に行くと、さつきが泣いてる子供に話しかけていた。
「なんだ、ガキ。
迷子か?」
青峰も子供に聞いたら、子供は青峰の顔を見てさらに激しく泣き出した。

「オイ、ガキ!
男ならめそめそ泣くんじゃねぇ!」

子供は5才くらいの男の子だったのでそう言って青峰なりに励ましたら、子供はますます泣きじゃくった。

「もう!
青峰くんはどうしてそういう言い方しか出来ないの?
大丈夫よ、一緒におまわりさんの所に行こう?
お父さんやお母さんもきっと君のこと心配してるよ?
自分のお名前、言えるかな?」
さつきは青峰を睨むと子供に優しく話しかける。

お前の変わり身の早さの方がこぇぇっつーの、青峰は心の中でだけそう思う。

「ダイキ。
タナカダイキ…。」
子供は泣きながらそう答えた。

「そっかー、ダイキくんか、いい名前だね。
お姉ちゃん、ダイキって名前大好きだよ。
ほら、泣かないで?
一緒に交番行こう。」

さつきは子供に向けて慈愛にみちた顔を向けて手を差し出した。
ダイキは
「ありがとう…」
と涙をふくとさつきの手を握った。

青峰はその言葉に顔に血が上ったような気がしていた。
ダイキって名前大好きって…それ俺のことか?
俺も大輝だぞ、名前。

「青峰くん、ぼーっとしていないで、行くよ?」

さつきに言われて我に返る。
さつきとダイキは自分のはるか先に居た。
青峰は慌てて二人に走りよる。
「おい、置いてくんじゃねーよ。」
「ごめんね、でもついて来てると思ったらついて来てなかった青峰くんも悪いと思うよ。
ダイキくん、このお兄ちゃんも大輝っていうんだよ。
バスケットボールが上手でね、かっこいいの。
バスケットボールって知ってる?」
さつきはしゃがみこんでダイキに視線を合わせて聞く。

「知ってる、パパが会社の人としてるよ。
お兄ちゃん、バスケットボール上手なの?」
ダイキが青峰に聞いてくる。

さっきダイキに泣かれたことを思い出し、青峰は自分的に最高に優しい顔で
「上手っつーか、バスケットが好きだ。
バスケを好きなやつに悪いやつはいねぇ。
お前のパパもいいやつなんだろうな。」
と言う。

「うん、バスケットボールしてるパパ、とてもかっこいいってママが言ってたよ。」
ダイキはそう言って青峰を見上げた。

そして、青峰に向って手を差し出した。
これは手を繋げということなんだろうか?
そう思ってさつきを見たら頷いてくれたので、青峰はダイキの手をそっと握った。
握って驚く。
ガキの手ってすんげぇちっちぇ…。

さつきはダイキの反対側の手を握る。
ダイキを中心にして、三人は仲良く手を繋いで歩いてる状態だ。

「見て、随分若い夫婦じゃない?」
「夫婦じゃないだろ、あれ。
あの若さであんなでかい子いたら、いくつの時に子供を出産したことになるんだよ。」
道行くカップルの話し声が耳に入ってくる。

「仲良し家族に見えるみたいだよ、私たち。」
さつきがダイキと青峰に笑顔で言ってくる。

いや、そんな事言ってねぇだろ、若い夫婦って言ってたぞ、青峰はそう思ったけど黙っていた。

いつか、自分とさつきにもそんな日が来るんだろうか?

それとも今は自分のそばにいるさつきだけど、いつか自分じゃない男を選び、その男と結婚して、その男の子供を生むんだろうか?

そんなのは、想像もつかない。
さつきはずっと自分のそばにいるはずだ。
俺はさつきのそばから離れる気はないんだから。

「パパとママも仲良しだよ。
それで、今日も一緒に買い物に来たの。
だけど、僕がおもちゃやさん見つけて、パパの手を離して走っちゃったんだ。
それで、気がついたらパパもママも見えなくなってて。」
ダイキがまた涙声になってさつきに訴えている。

「そうなの、これからは手を離しちゃだめだよ。
こうやって迷子になるから、パパは手を繋いでたんだよ?
それからダイキくん、男の子はいつまでも泣かないの。
パパとママだってダイキくんがいなくなって、心配で泣きそうになってそれでもきっとダイキくんを探してると思うよ?」
さつきがダイキの頭を撫でた。
ダイキは唇を噛み締めて頷く。

へぇ、こいつ、いい母親になりそうじゃねぇか。
青峰はそんなさつきを見て驚いてた。
幼馴染の意外な一面を見た感じだった。

「あっ、パパ、ママ!」

青峰が優しげな顔のさつきに見とれていると、ダイキが声を上げた。

青峰がさつきから視線を移すと、三人が向う先にある交番の中に、若い夫婦が居るのが見えた。
あれがダイキの両親なんだろう。

走り出すダイキにつられるようにさつきと青峰も交番に向って走ることになる。

自分たちに気がついたらしいダイキの両親が交番の中から出てきて、自分たちに向って走り寄ってきた。
「「ダイキ!」」
「ママ!パパ!」
さつきと青峰はダイキの手を離す。
ダイキは自分に走り寄ってくる母に向って抱きつくと、声を上げて泣き出した。

「よかったね、無事に両親に会えて。」

ダイキと両親を見ていた青峰はさつきの言葉にさつきを見た。
さつきも青峰を見上げて笑っている。
その顔は、とても綺麗だった。

「ああ、よかったな。」

青峰はさつきの手を握った。
さつきが青峰の指に自分の指を絡ませる。

「ねぇ大ちゃん。
私たちに子供ができたらあんな風な家族になるのかな?」

「さぁ?
でも、俺、さつきもガキもどっちもすっげぇ大事にする。
それだけは絶対だな。」
さつきの指に絡めた自分の指に力を込めて青峰は宣言する。
「ふふふ…嬉しい。」
「だから、ずっと俺のそばにいろよ。」
「うん。
大ちゃん、大好き。」
青峰とさつきの視線が絡む。

青峰は堪らなくなって、かがみこむとさつきの唇に触れるだけのキスを落とす。

公衆の面前でキスしてしまったけど、さつきは青峰を咎めるどころか、頬を染めてはいたけど、笑っていた。

青峰も笑みを浮かべる。

二人は微笑みあう。

ずっとガキのままじゃなかったんだな、こいつ。
俺が当たり前の様にこいつのそばにいるように、こいつの中には俺との将来が当たり前の様にあったんだろう。

青峰はさつきの顔を見てそう思った。
「俺もお前が好きだ。」

そう返事をした時にさつきが自分に向けてくれた笑顔を、青峰は一生忘れることはないだろうと思った。

END

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