黒子のバスケ

ラッキーアイテムと愛を君に
1ページ/1ページ

「桃井。」
朝、登校した後、赤司と部活のことについて話をしてから、自分の教室に戻ろうと歩いていたさつきは声をかけられて振り返った。
そこに立ってたのは緑間だった。

「おはよ、ミドリン!」

「おい危ないのだよ、桃井!」
急に腕を引っ張られてさつきはよろけつつも緑間に抱き寄せられる形になった。
そのまま緑間が窓に背を向けるようにする。

と同時に、ガシャーンと音がして、砕けた廊下の窓ガラスと野球部のボールがころころと廊下に転がった。

緑間が抱き寄せてくれなかったら、多分あのボールにぶつかっていた…。
そう思うと、さつきの顔は青くなる。

「お前が無事でよかったのだよ。」
緑間は普段より数倍優しい声で背中をあやすようにさすってくれるが、現状を把握したさつきは今更ながら恐怖が襲ってきて、緑間に縋るように緑間のブレザーを握っていた。

「おい!
さつき、大丈夫か?!」
いつ現れたのか、青峰が慌てた様子で近寄って来た。

騒ぎを聞きつけて教室から出てきたらしい赤司や通りかかったらしい黒子や紫原、黄瀬も二人に近寄ってくる。
教師や他の生徒も集まって来ていた。

「こらー!!
野球部!
誰だボール飛ばしたヤツ!!
危ないだろう!!
人にぶつかるところだったぞ!
窓も割れたから全員上がってこい!」
教師がボールを拾い上げて外に向って怒鳴る。

「先生、そんなことより桃井に怪我がないかを確認するほうが先です。
桃井、大丈夫か?」
教師や生徒が集まってきても、さつきは緑間のブレザーを離すことができなかった。

「怪我はない、大丈夫なのだよ。」
さつきの代わりに緑間が答える。

「っつかさつきに聞いてんだよ!」

「さっちんはみどちんが守ったから大丈夫みたいだよー。」

「いや桃っちが無事なのは分かったっスけど、緑間っち、背中にガラスの破片がたくさんあるっスよ。」

「本当です。
怪我はないですか?」

「大丈夫なのだよ。」

「ごめんね、ミドリン。
それと庇ってくれてありがとう。」
緑間の背中にガラスの破片がたくさんあるという黄瀬と黒子の言葉を聞いて、やっとさつきは自分を取り戻し、緑間のブレザーを離すと謝る。

「別に…」

「バスケ部のレギュラーと一軍つきのマネージャーに怪我があったら野球部を潰す。」
赤司の物騒な物言いにさつきは慌てて言った。

「私は大丈夫!
それよりミドリン、一緒に保健室に行こう。」
「大丈夫…」
「真太郎、保健室に行って来るんだ。」
赤司に言われると断れない。
緑間は保健室に行くことにした。

「私も一緒に行って来るね!」

「さつきは怪我ねーのかよ?」
青峰がさつきの肩に手をかけて確認する。
「うん、大丈夫。
ミドリンが庇ってくれたから。」

「そっか、緑間、さつきを守ってくれてサンキューな。」
さつきに怪我がないのを確認した青峰は緑間の方を振り返った。

なぜ、お前が礼を言うのだよ?
緑間はそれを不快だと思った。
その感情の名前も知っている。

「桃井、真太郎を保健室に頼む。」
赤司の言葉にさつきは力強く頷いて、緑間の手を握った。

幼い頃から青峰と触れ合っていたさつきにとっては、スキンシップは自然と出てしまうものでこの時もさつきは特に意識をせずに、緑間の手を握った。
それに緑間がドキドキしてることも知らず、さつきは緑間を引きずるように歩き出した。

赤司は集まってきた生徒たちを教室に帰し、上がってきた野球部や教師に文句を言っている。

「みどちんいいなぁ。
さっちんに手、繋いでもらって。」
廊下でもさくさくとまいう棒を食べている紫原に
「ああ?
あんなの、手繋いだうちにはいんねーよ!」
青峰はさつきと緑間の後姿を見ている。
「それ言うなら黒子っちなんかいつも桃っちに抱き疲れてるっスよ。
そっちの方が羨ましいっス!
オレも抱きつかれてみたいっス!」
「あれは愛情とかじゃないです。
愛情を持ってやってもらえたら嬉しいんですけどね。
でも、愛情があってもなくても黄瀬君にはしてくれないでしょう。」
「ひでぇっスよ、黒子っち!」
「少し静かにできないのか?
桃井を助けたのは真太郎なんだから仕方ないだろう。」
赤司に怒られても、心の中では不満がくすぶってるメンバーたちだった。


「本当にありがとうね、ミドリン。」

一階の保健室に向うために緑間の手を握ったまま階段を下りようとしたさつきは、階段から足を踏み外した。

(えっ?!
うそ?!
落ちるっ!!)

と思った瞬間、腕を力強く引かれ、さつきはさっきと同じように緑間に抱き寄せられていた。

「本当にバカめ。」
呆れたように緑間に耳元で囁かれる。

「ごめん…本当にごめんね、ミドリン。」

さつきは素直に謝る。
今日、二回も緑間に助けられた。

そして、その時に抱き寄せられて気がついた。
がっしりした腕と胸に、ミドリンも男の子なんだなぁと。
気がついたらなんだか恥ずかしくて顔が熱くなった気がする。
どうしよう、ミドリンの顔を見れない。

そう思っていたら緑間がさつきを離した。

「今日のおうし座は運勢が最悪だったのだよ。
それで、心配になってラッキーアイテムを持って来てやったのだよ。」

緑間の言葉にさつきはきょとんとして緑間を見上げる。
緑間はブレザーのポケットに手をつっこみ、何かを取り出した。
そしてさつきの左手を取る。

「今日のおうし座のラッキーアイテムは指輪なのだよ。」

緑間はさつきの左手の薬指に指輪をはめた。
緑の石がついた細いシルバーの指輪。
サイズもさつきの指にぴったりだった。

「ミドリンこれ…?」

「家にあったのものを持って来てやっただけなのだよ!
あらかじめお前のために買っておいたわけじゃないのだよ!」

見上げた緑間の顔も真っ赤になってて、さつきは笑っていた。

「そうなんだ。
でも、これ、返したくないな。」

「これは返さなくていいのだよ。
お前のために…」

言いかけて緑間はさらに赤くなって口を噤む。

その様子にさつきも顔を赤くした。
テツくんへの気持ちと違って、心臓がどきどきしておさまらない。
どうしよう、これが恋なのかな…?
こんなにドキドキするの始めてで、ミドリンの顔見れない…。
それにミドリンがこんなに赤くなってる姿も始めて見た。
さつきは緑間の手をもう一度握る。

「保健室に行こう?」

見上げた緑間は赤い顔してさつきを見つめ返し、頷いた。
そしてさつきの手をぎゅっと握って歩き出す。

きっと、今、自分は恋をしてる、自分の手を握ってるこの男に。
私はラッキーアイテムと一緒に、ミドリンから恋をもらったのかもしれない。
さつきはそんなことを思いながら、緑間の手を握り返した。

ラッキーアイテムと一緒に贈った愛はどうやら受け取ってもらえたようなのだよ。
緑間は握り返されたさつきの手の力にそう思い、堪えきらなくなってさつきをギュッと強く抱き寄せた。

END


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ