黒子のバスケ

落蝶
1ページ/1ページ

突然、青峰の才能が開花した。
それに続いてみんなの才能も開花して、赤司、青峰、黄瀬、緑間、紫原はキセキの世代なんて呼ばれるようになった。
そして、パス回しに特化した黒子はシックスマンと呼ばれ、帝光中は今まで以上に強くなった。

だけど、みんなの心はバラバラだ。
あんなに楽しかったバスケ部も、今じゃ殺伐としている。

そして黒子はバスケ部をやめた。

青峰はもう、バスケの練習をしない。
バスケを楽しんでいた青峰はどこにもいない。

才能がないやつがバスケをしてるのはイライラする、紫原はそんなことを言うようになった。

緑間も黄瀬も、同じだ。

目には見えない、けれども確かに自分たちは何かで繋がっていたはずだった。
だけど今、もうそれは自分たちにはない。
静かに、だけど確実にそれは崩壊してしまった。
それが悲しくて、でもどうにもできない自分の無力さにも頭に来る。


部活が終わった後、部室の掃除をするからと選手たちを先に帰させ、掃除なんてしないでさつきが泣いていたら、いきなり部室のドアが開いた。

もしかしたらテツくんかも、そんな期待は見事に裏切られた。

黒子がここに来るわけがない。
そんなことは分かってたのに、それでも期待してしまった。
だけど、入ってきたのは黒子じゃなくて、赤司だった。

「やっぱり。
泣いてると思った。」
赤司は部室の中に入ってくるとドアを閉める。

「赤司くん…なんでここに…?」

「桃井が泣いてると思ったから。」
赤司は無表情だ。

「なんで…」

「だって、もう、あの頃には戻れないから。
だから桃井は泣いてるだろうと思った。
でもどんなに泣いても、もうあの頃には戻れないんだよ、桃井。」

赤司の言葉に、さつきはいやでも現実を突きつけられて、しゃがみこんで声を上げて泣き出した。

そんなさつきに赤司は言う。

「もう、誰も桃井にはいないね。」

赤司の言葉にさつきは泣き濡れてた顔を上げた。
赤司はさつきをじっと見下ろしている。

「テツヤは部をやめた。
大輝も涼太も真太郎も敦も、もうあの頃と違う。
もう、桃井には誰もいないね。
どんなに泣いても、もう誰もいない。
だけど、オレだけは桃井のそばにいてあげる。
そばにいるよ、どんなにオレ自身が変わっても、オレの気持ちだけは変わらない。
オレの桃井に対する気持ちだけは。
だから桃井、オレの手を取ってよ。」

赤司はさつきに向って手を伸ばす。

「赤司くん…」
さつきは赤司の手に自分の手を重ねた。


それは綺麗な桃色の蝶々が赤い蜘蛛の手に落ちた瞬間だった。


自分たちを繋ぐものは確かに崩壊し、あの頃にはもう戻れない。

だけど、彼女に対する全員の想い、それだけは絶対に変わらないと言うのに、彼女はあの頃に戻れないことがショックでそのことに気がつけなかった。

聡明で冷静な彼女にしては珍しいけど、それだけ自分たちを繋ぐなにかの崩壊がショックだったのだろう。

それにつけこんで彼女を手に入れたこと、他のやつらが知ったら汚いというかもしれないけど。

それだけの事をしても、自分は彼女を手に入れたかった。
ただ、それだけだ。

そしてその思惑通りに、彼女は自分のものになった。

「どんなにオレが変わっても、桃井に対するオレの想いだけは絶対に変わらない。
だから桃井はオレのそばにいてくれればいい。」

柔らかいさつきの手をとって、優しく引っ張り、立たせると抱きしめる。

「赤司くん…赤司くん…赤司くん…」

自分の名前を呼びながら泣くさつきをさらに強く抱きしめながら、赤司の顔に笑みが浮かんだ。

END


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ