黒子のバスケ

□ミスター&ミス帝光
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「桃井、これほつれたから縫っといて。」
「分かりました。」
三年生の先輩から渡されたTシャツを受け取ったさつきは綻び箇所を確認すると裁縫道具を取り出して、針に糸を通し始めた。

「今年も桃井がミス帝光になるんだろうな。」
「そうだろ、中学二年生とは思えねぇもんなぁ、顔も可愛いし、スタイルいいし、しっかりしてるし。」

そんなさつきをこっそりと見ながら先輩たちがそう話してるのを聞いていた青峰は内心穏やかじゃなかった。

もうすぐ近づいてる帝光祭。
そこで、毎年ミスター帝光&ミス帝光というのを決める。
全校生徒の投票で一番になった男女が選ばれ、そのペアには遊園地のペアチケットが贈られると共に、一年間の学校行事の象徴になる。
後夜祭ではフォークダンスを壇上で踊ったり、学校行事でペアになることが増えるのだ。

そのミス帝光、去年は一年生ながらさつきがなった。
そして4月に卒業した当時は三年のイケメンで、ファンクラブもあるほど人気の高いサッカー部の主将がミスター帝光になった。

去年一年間、サッカー部主将とさつきは一緒に校内行事をこなすことが多く、さらにその男が
「今年のうちに桃井を落としてみせる!」
と宣言していたのを聞いてしまったので、青峰は頭に来ていた。
だから、その男がさつきに告白して振られた時はざまぁみろと思ったものだった。

だけど、また今年も、帝光祭の時期が来てしまった。

誰がこんなくだらねー企画考え出したのだろう、青峰はそいつを見つけ出したら文句を言ってやりたいと思いながら、周りの視線やひそひそ話に気がついてないさつきを見ていてため息をつきたくなった。


「ミスター帝光は2年の黄瀬涼太くん、ミス帝光は同じく2年の桃井さつきさんです!」

帝光祭当日。
朝一番で校内放送が入った。

毎年、朝一番で校内放送が入り、後夜祭の始まりとともに二人が壇上にあがる、それがミスター&ミス帝光の発表の仕方だった。

クラスの出し物には参加しないため、さぼる場所を探そうとしていた青峰は、校内放送に唖然とする。

ミス帝光は大方の予想通り、桃井さつきが二年連続でなったが、ミスター帝光の黄瀬涼太は青峰にとっては意外だった。
は?!
なんで黄瀬?!
という感じだ。

唖然としてる青峰に
「邪魔なのだよ、青峰。
こんなところでアホ面をさらして何をしているのだよ?」
と話しかけてきた人物がいた。

「うるせーな、緑間。」
唖然としていた青峰は、緑間の言葉に振り返る。
そこにはめがねのつるを押さえた緑間がいた。

「うるせーなじゃないのだよ。
さっさと体育館に行くのだよ。」
緑間はやれやれといった風に首を振る。
「バスケ部も体育館で帝光祭の出し物をやっているのだよ。
赤司がきっと青峰は忘れているだろうから呼んで来てくれと言うからきたのだが、本気で忘れていたようだな。
赤司に怒られたくなかったら早く行くのだよ。」

緑間の言葉にめんどくせぇ、青峰は心からそう思ったが、赤司に怒られるのも嫌だったので、仕方なく体育館に向う。

っつか、バスケ部の出し物って一体何すんだ?
そう思いながら体育館に行くと、入り口に
『バスケ部員、五人抜いてゴールできたら豪華商品プレゼント!!』
と書いてある。

そういや、さつきが紫原を連れて部活で必要なものの買い物に行ったら、ムッ君、すぐにお菓子たべたいから休憩しようって言ってなかなか買い物が進まなかった、とぼやいていた。

あの買い物はこの景品のことか…そう思いながら体育館の中に入ると、先輩が三人と、今の青峰が一番見たくない男…黄瀬涼太がいた。

「あ、青峰っちー、忘れてなかったんスね、部活での当番!
来てくれて本当によかったっス!」

ニコニコと笑顔で言う黄瀬に青峰は冷たい目を向ける。
なぜなら、その黄瀬目当てらしき女生徒が何人も体育館にいるのに気がついたからだ。

ほんっと腹たつ!
その時バスケ部五人抜きに挑戦したいらしき、三人組の男が入ってきた。
高校生くらいの男達だったが、あまり強くはなかった。

いや違う。
ゴール前を任された青峰に挑戦者がたどり着く前に、黄瀬が挑戦者を抜かせなかった。
女生徒たちの黄瀬を称える声が非常に不愉快だ。

先輩部員に
「さすがミスター帝光。
すげえファンの女子の数だなー。」
と言われた黄瀬が
「そうっスか?」
と答える。

「なぁ、お前好きな子とかいないの?」
別の先輩の言葉に黄瀬は
「俺は今は、ファンの女の子たちみんなのものでいたいかなって。」
と言い切った。

「おい、黄瀬ぇ。
お前、自分のファンの女の子たちみんなのものでいてぇんだよな?」
それを聞きつけた青峰は思わず黄瀬ににじり寄っていた。

「え?
え?
青峰っち?
何怒ってるんっスか?」
黄瀬の顔が恐怖で青ざめるのと反比例して、青峰の顔は楽しげな笑みを浮かべていた。


後夜祭の始まりは、体育館でミスター&ミス帝光のお披露目から始まる。

帝光祭実行委員会に呼ばれて舞台の袖に控えていたさつきは、ミスター帝光の黄瀬がいないことを不思議に思って実行委員の一人に
「きーちゃん…じゃなくて黄瀬くんはどうしたんですか?」
と聞いた。

「あ?!
あいつはファンの女の子みんなのものでいてぇっつて、辞退したぜ、ミスター帝光。」

その質問に答えたのは実行委員じゃなくて、舞台袖にいつの間にか現れていた青峰だった。

「青峰くん?!」
さつきは驚いたように叫ぶ。

「そうなんです、それで黄瀬くんの推薦で青峰くんが今年のミスター帝光に…」
実行委員は疲れ果てたような声音で呟いた。

さっきのことを思い出すだけでも震えがくる。
半泣きの黄瀬を引きずるようにして鬼のような形相で帝光祭実行委員会本部にあわられた青峰は
「おい、黄瀬がミスター帝光を辞退して俺をミスター帝光に推薦するって言ってんぞ。」
と言った。

「え?
辞退?
それなら次点の赤司くんを今年のミスター帝光に…」
言いかけた実行委員長は恐怖のあまりに口を噤んだのだった。

「あぁん?!
ミスター帝光様が俺を推薦してんだぞ?!
なら俺で良いだろうが!
なんか文句があんのか、あんなら言ってみろ!」

青峰に鋭く睨まれて、だれも文句なんか言えるわけがなかった。
バスケのプレイスタイルと同様、青峰大輝という男が攻撃的な男であることは帝光中の生徒なら誰でも知っている。
実行委員会本部で暴れられたら、大損害だ。
それで、実行委員会は青峰に従うしかなかったのだ。

「きーちゃんが青峰くんを推薦するなんてなんか意外。
だけど、今年のミスター帝光が青峰くんでよかった!
だって、幼馴染の青峰くんとの方が、気がラクだもんね。」

笑ったさつきの額に青峰は自分の額を軽く合わせた。

「そうだな、俺もお前がミス帝光なら気楽で良いや。」

「はい、それじゃ、ミスター&ミス帝光の登場です!」

司会の言葉に今年のミスター帝光・青峰大輝がミス帝光・桃井さつきの手をぎゅっと握って舞台に向う階段を上り始める。


「はぁ、ほんとすいませんでしたっス。
でも青峰っちにあんな顔されちゃ、ミスター帝光を譲らざるを得なかった俺の気持ちも分かるっスよね?」

二人の姿を見送ってホッとした文化祭実行委員の前に、本来のミスター帝光・黄瀬涼太が現れた。

「ホント…あんな怖い顔されたら譲るよ。
ああ、怖かった。
寿命が10年は縮んだよ、絶対にね。」
実行委員長が青い顔して汗を拭う。
その言葉に実行委員一同は頷いた。
そして来年の委員に必ず申し送りをしようと思った。
『ミス帝光が桃井さつきになった場合、ミスター帝光は青峰大輝にするように』
と。

「っつか桃っちは大変っスね。
青峰っちにあんなに深く愛されちゃって。
青峰っち、めっちゃ束縛しそうっス、あんだけ深く桃っち愛しちゃって。
まぁでも、女の子は愛するよりも愛されるほうが幸せになれるっスよ、多分。」

黄瀬は少しだけ笑った。
あの青峰がさつきが絡むとあんなに必死になるんだなと思うと、自然と笑みが浮かぶ。
あの二人、うまくいくといいっスね。
それは黄瀬の心からの願いだった。

END

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