黒子のバスケ

いつか君の特別に
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浴衣姿で立ってる黄瀬はモデルをしているだけあって容姿もいいし、目立っていた。
黄瀬をちらちらと見ている女子は何人もいる。
だけど黄瀬はそんなことには気が付いていなかった。

黄瀬の目は、祭り会場の入り口を見ている。

『桃っち、明後日ひまだったら一緒に祭りに行かないっスか?』
と入れたメールにさつきが返してくれた返事は
『うん、いいよ。』
だった。

さつきは中学時代からテツくん、テツくんと、黒子のことばかり言っていた。

だけど、強すぎる故に、いつからかバスケへの情熱を失ってしまった青峰を放っておけなかったのか、高校は黒子の言った誠凛じゃなくて、青峰と同じ桐皇を選んだ。

そんなさつきは帝光のマネージャーだった頃から選手だれにでも平等に接してくれた。
だけどその中でも特に、レギュラーだった自分たちのことには気を使ってくれていた。

それは『帝光バスケ部レギュラーの黄瀬涼太』に対する気遣いであって、『黄瀬涼太』という一人の男に対する気持ちじゃないことは、黄瀬も分かっている。

さつきが一人の男として見て、そして世話を焼くのは『黒子テツヤ』と、『青峰大輝』しかいないのだということも分かっている。
分かっているけど、それでも自分は中学のころはずっと、さつきを好きだった。

高校で離れれば諦めきれるかと思ったけど、やっぱり諦め切れなかった。
だから諦めきれないのに無理に諦めるのはやめようと思った。
バスケの試合と同じだ、諦めたらまけるけど、諦めなかったら勝てるかもしれない。
そう思った。

だからさつきを祭りに誘ったのだ。
ちょっと不安だったけどさつきが行くと返事をくれて本当によかった。


その時、周囲にざわめきが起こった気がして黄瀬は我に返る。

沈思していて気が付かなかったけど、祭り会場の入り口にさつきが現れていた。
さつきは浴衣姿だった。
淡いピンクの大柄の花柄があしらわれた浴衣に濃いブルーの帯。
長い髪を結いあげて歩く姿は華があって、周りの人の目を引いているが、本人は気が付いていないらしい。

モデルをしてる黄瀬からみても、本業のモデルなんかよりよっぽど綺麗だと思う。
なのに
「きーちゃん!」
と黄瀬の姿を見つけるなり笑顔で手を振ってくれる姿は、とても可愛らしい。

「桃っち、似合ってるっスね!」
黄瀬も笑顔でさつきに近寄るとそう言った。

「ありがと!
出かけに青峰くんに会ったんだけど、きーちゃんとお祭り行くって言ったらブスって言われたよ。
何が気に入らないんだうろね、まったく。」
さつきは笑う。

そんなの、俺が桃っちと祭りに行くのが面白くないから言ったにきまってるじゃないっスか。
いや、出かけに会ったって事はもしかしたら、青峰っちは桃っちを祭りに誘おうとしたのかも知れないっスね。
黄瀬はそう思うけど
「機嫌が悪かったんっスかね〜。」
と言いながらさりげなくさつきの手を握る。

「まずは射的をやるっスよ!
俺、百発百中する自信あるっス!」
黄瀬の言葉にさつきも笑う。
「きーちゃんならそうかもね。」

その笑顔がまぶしくて、黄瀬は目を細めた。


射的に始まって、ヨーヨーすくいとか、金魚すくいとか、くじ引きとか、二人は色々と回った。

射的は黄瀬も強かったけど、案外さつきも強くて黄瀬は驚いた。
人目をひく容姿のさつきが浴衣姿で射的に興じる姿は目立っていて、集中してたさつきには聞こえなかったかもしれないけど、
「可愛いな、あの子。」
「彼氏もかっこいい。」
「お似合いだよね。」
とか言ってる外野の声が聞こえて、黄瀬はそれが本当だったらどんなにいいだろうと内心で思いつつ、ニコニコとさつきを見ていた。

ヨーヨーは二人ともひとつづつすくえて、金魚もすくったけど、
「うちに金魚を飼うための水槽がないから。」
とさつきは金魚を縁日の水槽に返していて、優しいなと黄瀬は思った。

くじ引きではさつきは芸能人のブロマイドみたいのを当てていたけど、黄瀬はぬいぐるみを当てたのでさつきに上げた。
ぬいぐるみを抱えて
「ありがと!」
と言うさつきが可愛かった。

なんで、黒子っちはこんな可愛い子にアタックされててその気になんないんっスかねと思う。

それに青峰っちも、桃っちがそばに居るのが当たり前すぎて、居なくなったらなんて考えつかないからブスとか言えるんっスかねと思う。

俺だったら、桃っちが彼女になってくれたら、何よりも大事に大事にするんっスけどね〜。


「きーちゃん。」
そんなことを考えていたら、さつきに呼ばれて黄瀬はさつきに視線を移した。

「何っスか?」
さつきは黄瀬を見上げていた。

「今日、お祭りに誘ってくれて、本当にありがとう。
夏のいい思い出ができたよ。」

その顔はとても綺麗で、黒子や青峰に対するのとは違うけれど、でもさつきは今、自分だけを見ていてくれると黄瀬は思った。

「いいえ、どういたしましてっス。」
黄瀬はさつきのおでこを指先で軽く突く。

今は、まだ、自分はさつきの特別じゃないけど、こうやって自分との優しい思い出を積み重ねていって、いつか。
自分がさつきの特別になれたらいい。
黄瀬はそう思いながらさつきの手を再び取る。

「今度はなんか食べるっスよ!
桃っち、なにがいいっスか?」
「うーん、なんだろ?」
笑うさつきに黄瀬も笑みを返した。

END


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