黒子のバスケ

□一番近くにいたいから
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「うるせーな!
余計な世話なんだよ、てめえはテツの世話だけ焼いてろ!」

体育館内に響いた声に、帝光中学バスケ部のメンバーは思わずそっちの方を見た。

青峰がさつきと向かい合っていた。
幼馴染だという二人。
さつきの方は青峰を放って置けないと思っているんだろう。
なにこれとなく世話を焼く。

いくら黒子のことを
『テツ君が好き』
なんて言っていても、それは本心ではなく、さつきが本当に好きなのは青峰で、それに気がついてないのは青峰とさつき本人だけであることは、二人以外の全員が知っている。

そして青峰がさつきを好きなことも。

でも自分の気持ちに気が付いていないさつきと、自覚はしてても今更幼馴染だったさつきに素直に自分のことを言えないだろう青峰では、なかなか今以上の関係に進展しないだろうとも分かっていた。

分かってはいたけど、こういうことは他人がとやかく言うことじゃないだろう、全員そう思っていたから、何も言わなかった。

そうやって何も言わなかったのが悪かったのだろうか、何がきっかけで青峰が爆発したのかは分からないが、青峰は爆発した。

だけどさすが幼馴染というべきか、さつきは最初は驚いていたものの、すぐに自分を取り戻したらしい。
「テツ君のこととは別でしょ。
私は帝光のマネージャーなんだから、青峰くんの心配もするのは当たり前のことでしょ。」
と怒っている青峰に言い返している。

それがより青峰の怒りを煽ったらしい。
「うるせー、ブス!!」
そう言いながら、青峰はさつきを突き飛ばしていた。

そんなに力は入っていなかった。
それは誰の目にも明らかだった。
だけど、さつきはまさか青峰がそんなことをするとは思ってなかったのだろう。
それに身長差もかなりある。
青峰にとっては軽い力でも、さつきにとってはそうではなかったんだと思う。
さつきは後ろに倒れこんだ。

「桃っち!」
「さっちん!」
黄瀬と紫原が驚いたように声を上げる。

そして黄瀬と黒子が慌ててさつきに駆け寄ろうとしたが、それより先にさつきは自力で立ち上がった。
そしてそのまま、きびすを返すと体育館を走って出て行った。

「おい、さつき!」

青峰はしばらくは呆然としてたけど、黒子と黄瀬がそのままさつきを追いかけたのを見て、自分も慌ててさつきを追った。

キセキの六人のうちの三人が追いかけても追いつかないほど、こういう時のさつきの足は早い。
青峰はもちろん、黒子も黄瀬もさつきを見失ってしまった。

「どうするんっスか、青峰っち。
っつか、あんな風なことしなくてもいいじゃないっスか。」
黄瀬は青峰を睨むと
「とにかく桃っち探してくるっス!」
と言って走っていく。

そこに赤司と緑間と紫原も駆けつけた。
「桃井はどうしたのだよ?」
「さっちんは?」

「すみません、見失っちゃいました。」
黒子の言葉に赤司はため息をつく。
「とにかく探そう。」
赤司はさつきがいそうだと考えられる場所をピックアップし、全員に割り振った。
赤司、緑間、紫原は走っていくが、青峰と黒子はその場にとどまったままだ。

「青峰くん、桃井さんを僕に下さい。」

ふいに発した黒子の言葉に青峰は黒子を見た。
黒子は怒ったような顔で青峰を見ている。

「下さいって…バカか、さつきが好きなのはお前だろうが!」
そんな黒子を見ていたら頭に来て、青峰は黒子に向って怒鳴っていた。

「桃井さんの好きな人が本当に僕だと思ってるんですか?」

言い返された黒子の言葉に青峰の方が驚いた。
「何言って…」

「青峰くんは桃井さんが好きですよね?
でも、桃井さんが僕にするみたいに好きだ好きだって言えますか?」
黒子の質問に青峰は
「言える訳がねぇだろうか!」
と怒鳴っていた。

「そうですよね、普通はそういうことはなかなか言えません。
それをあっさりと言えてしまう桃井さんは、本当の意味で僕のことを好きじゃないんですよ。
じゃあ彼女が本当に好きな人は誰か?
青峰くんは誰だと思いますか?
それが分からないんだったら、僕が桃井さんを幸せにします。
だから桃井さんを僕に下さいと言ったんです。」

「やるわけねーだろ!
第一、やるとかやらねーとか、さつきは物じゃねーんだよ!」

「そんなに桃井さんが好きですか?」

「当たり前だろ!!」

青峰の言葉に黒子は微笑んだ。
「それならそう桃井さんに言ってあげればいいんですよ。」


青峰はその言葉に走り出していた。

黒子が自分にさつきをくれと言ったってことは、多分、さつきが本当に好きでいてくれるのは自分だと思っていいだろう。

どんなときも、さつきは自分のそばにいた。
さつきだけは自分を裏切ったりしないと青峰は分かってる。
さつきだけはずっと自分のそばにいてくれるだろうと青峰は分かってる。

だって自分はさつきを裏切ったりしないし、何があってもずっとさつきのそばにいるつもりなんだから。
さつきも同じ気持ちに違いない。

だから、きちんとさつきに謝ろう。
テツに嫉妬してさつきについ当たってしまったこと。
そして自分はさつきを好きだということ。

そしたらきっとさつきは笑ってくれるはずだ。

その笑顔を、一番近くで見たいから。
さつきの一番近くにいたいから。
きちんと自分の気持ちを伝えよう。
さつきが好きだと。
きっとさつきは笑ってくれる。

青峰は見えてきたピンクの髪に向って走るスピードを上げた。

END

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