銀魂

□おめでとうを君に
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九兵衛とつき合いだしてからきちんと学校に来るようになった高杉は無事に進級し、高校二年生になった。
クラス替えでも九兵衛と一緒になれたし、高杉は顔にはださないけれどそれを嬉しいと思っていた。


だからこそ、新学期が始まって間もない4/20、九兵衛と付き合ってから初めての九兵衛の誕生日には気合いが入っていた。

春休み中は九兵衛とのデートの間も惜しんでバイトに励んだ。
自分らしくないプレゼントなことは分かってたけど、それでも高杉は九兵衛に『それ』を贈りたかった。

そのための資金も貯まり、プレゼントも購入し、あとは自分らしくもないけれどどのタイミングでそのプレゼントを渡すかを考えていた。
結局は当日…つまりは今日、普通に学校で九兵衛と過ごし、誕生日なんか知らないかのような顔をして放課後にはいつもの様にデートをしたあとそれぞれに家に帰り、夜になったら九兵衛の家の近くまで行って九兵衛を呼び出してプレゼントを渡すというサプライズを考えて付いて、ようやく眠る事ができた。

しかし、それを考え付くまでずっと寝つけなかったせいか今日は寝坊してしまい、慌てて登校したものの、学校に付いた時は二時限目が終わった直後だった。

三時限目は体育で九兵衛も含めたクラスの人間はグラウンドに行ったらしく、教室には誰もいなかった。

慌てて自身も着替えてグラウンドに向かっていた高杉は
「柳生さんが好きです!」
という声に足を止めた。

柳生と言えば、柳生九兵衛しかいないんじゃないだろうか?
高杉は声のした方…ピロティにある自販機の裏の方へと足をすすめた。
そっと覗き込むと、そこには体操着姿の九兵衛と、体操着姿の男がいた。
男に見覚えがある。
隣のクラスのサッカー部に所属している男だ。

体育の授業は男女別で二クラス合同で行う。
その男は前の授業の時、種目はサッカーだった…やたらと高杉に絡んできたから覚えている。

高杉は体育に一生懸命になるタイプでもないけれど、運動神経が悪いわけでもないのでそこそこには活躍した。
それをいちいちなんだかんだと言ってきて頭にきたけれど、自分が言い返せばケンカになるだろうと思ったから黙っていた。
九兵衛がそれを知ったらまた悲しむと思ったからそうならないように無視したのだけれど、そうか、こいつ、九兵衛が好きだから俺に絡んできやがったのか…。

高杉は黙って二人を見ていた。

九兵衛はじっとその男を見ていたけれど
「気持ちは嬉しいけど、僕が好きなのは晋助…高杉くんだから申し訳ないけれど、君の気持ちを受け入れることはできないんだ。」
と答えた。

男はそんな九兵衛に
「でも高杉と柳生さんじゃ合わないと思う!」
と詰め寄る。
「高杉は柳生さんと付き合い始めて随分変わったみたいだけど、それでも一年の時はほとんど学校にも来なかったし、優等生の柳生さんと、決して真面目ではない高杉とは合わないと思うんだ。」

「よく、そう言われるんだ。
晋助…高杉くんには僕じゃもったいないとか、高杉くんはかっこいいのになんで彼女が僕みたいな女なんだとか、そんなことを。
僕と高杉くんが周りからそう思われてることなんて、分かってるよ。
だけど僕はそれでも高杉君が好きなんだ。
それに高杉くんも多分、同じ気持ちでいてくれていると思う。
だから僕たちは付き合ってるんだ。
それに人を好きになる時に、つりあってるとかつりあってないとか考えないだろう?
人を好きになる時に、そんな事は関係ないだろう?
僕も、そんな事は考えなかった。
ただ、高杉晋助という人を好きになって、その人も僕を好きになってくれた、それだけなんだ。
僕が好きなのは高杉晋助で、君じゃないんだ。
ごめんなさい。」
詰め寄ってきた男に九兵衛は頭を下げる。

男はしばらく九兵衛の顔を呆けたように見ていたけれど、やがてぼそりと呟いた。
「こっちこそ、ごめん。
なんかオレ、色々失礼な事を言って本当にごめんね。
……まだ、高杉と仲良くねとかそんなにかっこいい事は言えない。
けど、柳生さんが高杉を好きなんだってことはよく分かったよ。
あと、オレの気持ちを聞いてくれてありがとう。」

男はそう言うと走ってこっちにやってきた。
高杉が立っていたことに気がついてばつが悪そうな顔をするけれど、軽く高杉に向かって頭を下げてまた走って去っていく。
ムカつく野郎だと思ってたけど、結構いいやつだった。

少なくとも、バレンタインデーに九兵衛を泣かせた女達よりはいいやつだった。
そう思いながら高杉は九兵衛に向かって歩いていく。

深いため息をついた九兵衛は顔を上げて、そこで高杉が自分の所に歩いてきている事に気がついた。
「最近は真面目に学校に来ていたのに、今日は遅刻だな…」
高杉に向かって微笑む顔はどこかぎこちない。

「ああ。
考え事してたら中々眠れなくて、そのせいで朝起きれなかったんだよ。」
だけど高杉はそんな事を気にせずに九兵衛に近づくと九兵衛を抱きしめた。

「九兵衛、すまねェ、今の話、全部聞いちまった。
確かに俺ァお前とつりあわねェと思う。
けど、それでも俺もお前と同じで、お前が好きだ。
つりあうとかつりあわねェとかそんなの考えてねェ。
ただ、柳生九兵衛という女を好きになっただけだ。」

「ありがとう、晋助。
今まで生きてきて最高のプレゼントだよ、その言葉が。」
九兵衛の腕も高杉の背中に回る。
それにホッとした高杉は九兵衛を離すとポケットから小さな紙袋を取り出す。
一度家に帰ってから渡そうと思ってたとはいえ、心配で家になんか置いておけなかったプレゼント。
持って来ててよかったと思う。
持ってきてたから、今、渡せる。
高杉は紙袋を破って中から指輪を取り出した。
指のサイズは妙に聞いて把握してた。
4月の誕生石であるダイヤの付いた、プラチナリング。
ダイヤはとても小さいものだし、リングもとても細い。
それでも今の高杉にできる精一杯で購入したものだ。
気負うことなく九兵衛が受け取れるようにと、リングケースじゃなくて紙袋に入れてもらうという気まで使って贈りたかった、彼女への高杉の最大限の愛情。

「誕生日、おめでとう。
てめェがこの世に生まれてきてくれたこと、俺と出会ってくれたこと、俺を好きになってくれたこと、全てにこう見えて、俺ァ感謝してる。
だから、俺ァ将来はお前と結婚してェと思ってる。」
高杉は九兵衛の左手を取ると薬指にリングをはめる。

「え?」
驚いた顔をしてる九兵衛をもう一度抱き寄せて
「誕生日、おめでとう」
と伝えたら、九兵衛は涙声で
「ありがとう、僕も晋助が大好きだ。」
と答えてくれた。

俺ァ今、すげェ幸せだ。
そう思いながら、高杉はきつく抱いてた九兵衛を離し、その唇にそっと自分の唇を重ねた。


生まれてきてくれて、俺と出会ってくれて、俺と恋をしてくれて、本当にありがとう。

END

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