銀魂

□チョコを君に
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「学校、初めてサボっちゃった。」
ポツリと呟いて、九兵衛は空を見上げる。

いたたまれなくなってあの場から逃げ出した九兵衛は、学校の最寄の駅を通り越してもまだ走り、見えてきた公園に入りこみ、そこのベンチに腰掛けていた。

確かに高杉はかっこいいと惚れた欲目を抜いても思う。
近寄りがたさが和らいで、女子から話しかけられることも増えた。

だけど自分と高杉があんな風に回りから思われていたなんて、知らなかった。

「釣り合わないのかな、晋助と僕じゃ…」

涙がぽろっとこぼれて、それを手でぐいっと拭ったけど、一度溢れた涙は止まらず、九兵衛はもう手で拭う事は諦めて、涙が流れ落ちるままに放っておいた。

その時いきなりハンドタオルが差し出され、九兵衛は驚いて顔を上げる。

真新しいらしいハンドタオルは可愛らしい花柄で、だけどそれを差し出してるのが高杉晋助だというギャップに九兵衛はぽかんとする。

「晋助…?」
「何やってんだ、お前。
使え。」

高杉はハンドタオルを九兵衛に押し付けたけど、九兵衛が受け取らないので自分で九兵衛の顔を拭ってやった。
乱暴に拭いながら、ついでに頭を撫でてやる。

「なにしてんだ、こんなとこで。」
「晋助こそ…なんでここにいるんだ。」
涙声で質問に質問で返してきた九兵衛に高杉はふっと笑った。

「自分の好きな女のことを心配すんのは当然じゃねェか。」

見上げた高杉の顔は優しく九兵衛を見ていて、九兵衛は顔をゆがめてしまった。
そうまでして堪えたけれど、新しい涙が溢れるのを抑える事はできなかった。

「しょうがねェやつだなァ。」
頭上から降ってくる高杉の声はいつもよりもずっと優しくて、我慢できなくなって声まで上げて泣き始める九兵衛を高杉は隣に座ってギュッと抱きしめた。


泣くだけ泣いてようやく落ち着いた九兵衛は高杉に
「どうしてここに?」
と聞く。

「がっこ行くために歩いてたら、すげェスピードで学校とは逆方向に走っていくてめェが見えたから追いかけてきたんだが…てめェほんとに足が速いな。」

嘘だ。
本当は違う。
九兵衛は気が付いていなかったが、九兵衛の後ろに自分もいた。
スクールバッグを抱きしめてる九兵衛を見てて、思わずにやけてしまっていたのだ。
おそらく自分にくれるであろうチョコが入ったバッグを抱えてる九兵衛があまりに可愛らしかったから。

だから、あの女たちの会話も聞こえてしまった。
走り去っていく九兵衛を見ていたら九兵衛を傷つけた女達にムカついて、本気で胸倉を掴み上げ、
「黙れ!
てめェと九兵衛じゃ九兵衛の方がいい女に決まってんだろーがァ!
次に九兵衛を傷つけたら女といえども容赦しねェからなァ!」
と怒鳴りつけてしまったのだ。

そして九兵衛を追いかける際に、コンビニに入ってハンドタオルの入ってるチョコを買った。

本来、バレンタインは女から男への告白をする日じゃなくて、愛しい人に贈り物と愛をプレゼントする日なんだから。
自分から九兵衛にチョコと愛を贈ってもいいと思う。

「タオルは箱開けて出しちまったけどなァ…好きだ九兵衛。
だからチョコやるよ。」
高杉はタオルを出してチョコだけが残った箱を九兵衛に渡す。

「晋助…?」

「バレンタインは愛しい人に贈り物と愛をプレゼントする日なんだよ。
だから俺からもてめェにそれやるよ。」

照れることもなく、普通に言い切った高杉に九兵衛は再び涙を滲ませて、それでも高杉に抱きついた。

「ありがとう、晋助。
僕も晋助が大好きだ。」

「チョコは毎日ってわけにはいかねーが、気持ちだけなら毎日贈ってやるよ。」
普段の高杉からは想像もできないその言葉に、九兵衛は涙を浮かべながら
「僕も気持ちだけなら毎日贈るから。」
と伝えた。

END
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