銀魂

□愛を君に
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5時限目が始まる前に教室に戻ってきた高杉にクラス中の注目が集まる。
久々に登校してきたと思ったら、きちんと授業を受けた高杉が昼休みに隣の席の柳生九兵衛にポッキーゲームを仕掛けたんだかなんだか分からないうちにキスをした。
そして
『俺の勝ちだな。』
とか言いながら教室をでていき、誰もが高杉の行動の意味が分からずに呆然としていた。

高杉が戻ってくるまで…というか、戻ってきてもクラス中の人が呆然としていて、昼休みの教室とは思えない静けさ。

そんな中、高杉は仏頂面で自分の席に着く。
妙が怖い顔で高杉に文句を言おうとしたが、それを九兵衛が止めた。

「妙ちゃん、おじい様からポッキーゲームというものがあると聞いた事がある。
それをやると盛り上がるんだそうだ。
高杉君はきっと早くクラスになじみたくて、周りを盛り上げようとそんな事をしたんだろう。」

『君の知識、基本的なところで色々まちがってるよ?!』
クラスの誰もが思い、高杉自身も唖然としてしまった。

そんな空気に気が付かずに、九兵衛は
「次は倫理社会だよ。」
と教科書を出して高杉に微笑みかける。
高杉は
「ああ。」
と言う事しかできなかった。


放課後、教室に高杉と九兵衛の二人しかいない。
妙は心配していたが、弟の新八が熱があるとかで早く帰らなければならず
「何かあったらすぐに防犯ベルを鳴らすのよ。」
と言って帰っていった。

他のクラスメートは高杉が怖くて、さっさと帰ってしまった。

それで教室には高杉と九兵衛の二人きり。
高杉は黒板を消し、九兵衛は日誌を書いている。

高杉は黒板を消しつつ、ちらちらと九兵衛を盗み見る。
九兵衛は日誌に視線を落とし、シャープペンを走らせている。
あんなことをしたというのに、九兵衛はまったく動揺していない。
高杉のことを意識してもいない。
俺はこんなに柳生が気になって仕方ないのに、そう思うと頭に来る。
自分ばかりが動揺して、意識してるなんてムカつく、そう思う。

「ちっ」
高杉が舌打ちした時、ふふふ…と笑い声が聞こえて、高杉は九兵衛を睨みつけた。
九兵衛は笑って高杉を見ている。

「なんだよ?!」
とすごんだら、
「さっきからずっと同じ所を消してるよ。」
と九兵衛が黒板を指さした。

あわててみると、確かに高杉は黒板消しをひたすら同じところで往復させていた。
カッと頭に血が上る。
「うるせーよ!」
と怒鳴ってみたけど、九兵衛は笑って日誌に視線を落とした。

むかつく、この俺が女に優位に立たれてる。
しかもその女に俺は惚れてて、女は俺を意識もしてない。
ムカつく、本当にムカつく。

高杉は黒板消しを終えると、それを置いて九兵衛の机に近寄っていく。

「おい。」
声をかけたら九兵衛は顔を上げた。

「なぁに?」
顔を上げた九兵衛の唇に自分の唇を重ねる。
さっきみたいにチョコの味はしない。
だけど、九兵衛の唇の柔らかさだけは分かる。

もっと。
これじゃ足りない。
何が足りないのか分からないまま、高杉は驚いてる九兵衛の真ん丸い右目を見つめ、口の中に舌を入れて九兵衛の口の中を嘗め回した。

まったく経験がないのか九兵衛は唾液を飲み込む事もできず、口の端からそれがこぼれたのが高杉にも分かった。
それでも高杉はキスを止めない。

ゆっくりと目を閉じて、さらに九兵衛を深くむさぼる。
目を閉じた事で他の感覚がさえたのか、九兵衛の息遣い、シャンプーなのか微かに香る花の香り、唇の柔らかさがさらに感じられて、高杉は九兵衛の頬に自分の手を添えていた。

キスに夢中になっていた高杉は、腕を叩かれて我に返り、ようやく九兵衛から離れる。

九兵衛は顔を真っ赤にしていたが、それが羞恥のためではなく、呼吸が上手くいかなかったためだというのは肩で息をしている事で分かる。
はぁはぁと苦しそうにしている九兵衛の口の周りが唾液で光っている。
それが自分と彼女の唾液が混ざったものだと思うと、それだけなのに彼女が自分のものになったような、そんな気持ちになる。

苦しそうにしてる九兵衛に高杉は言っていた。
「俺だけがてめェを意識してるのはムカつくからなァ。
てめェも俺を意識すればいいんだ。」

高杉の言葉の意味が分からなくて高杉を見上げてる九兵衛の顔が可愛い。
愛しい。
そんな暖かい気持ちがこみ上げてきて、高杉は戸惑う。
今まで自分に無縁だと思っていたその気持ち。
だけどそれがなにか、分からないわけじゃない。

「好きだって言ってんだろ。
明日から覚悟しとけ、俺ァ欲しいもんは必ず手に入れる男だからなァ。」

きょとんとしてる九兵衛の唇にもう一度、触れるだけのキスを落として、高杉はにやりと笑うと
「また明日、九兵衛。」
と告げて通学かばんを手に教室を出て歩き出す。

そして階段の踊り場の所でしゃがみこんだ。

「何言ってんだ、俺…ただの痛い男じゃねェか…!」

だけど、言ってしまった以上、もう後には戻れない。
痛い男だけど、本気で落としにかかる。
本気で好きだと、そう思うから。


教室に一人取り残された九兵衛は呆然としていたが、やがて制服のポケットからティッシュを出して口元を拭く。
そして、自分の唇に触れた。

「あんな事を言われて…意識しないわけがないじゃないか…!」

とんでもない男だけど…ぶん殴ってもいいと思うけど…それができないのは…しようとも思わないのは…多分、君を意識してしまったから。

「だけど、悔しいから、簡単には好きだ何て言わない。」

呟いた九兵衛の顔は、とても嬉しそうだった。

END

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