銀魂

□玉の緒よ
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九兵衛は万斉が部屋を出て行く間際に呟いた
『玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする』
という和歌に心臓を鷲掴みにされた気がした。

この恋を忍ぶ事にいつか耐えられなくなるくらいなら、いっそ今、消えてしまいたい…。
この歌は、そういう意味だ。

だけど、万斉に消えて欲しくない、絶対に。
そうなる前に、自分が消えたい。

滲んだ涙をそっと拭った時、部屋のドアがノックされた。
万斉が戻ってきたのかと思ったけれど、入ってきたのはまた子だった。
九兵衛はとっさに左手を背中に回した。

「晋助様が戻ってきたっスよ!
ちょっと万斉先輩と一緒に来客中でまだ部屋にこれないみたいっスけど、先に晋助様からのみやげ物の着物とか持ってきたっスよ!」
また子は明るい声で言って、九兵衛の座っていたベッドの上に大きな箱をいくつも置いた。

「ありがとう…」
九兵衛は箱の多さにそう言うしか出来ない。

「着替えてみたらどうっスか?
晋助様もきっと喜ぶっス!」
明るい笑顔に、九兵衛の顔を自然と緩む。
また子のこういう明るさは、九兵衛の気持ちを軽くしてくれる。

「それじゃ、あたしは行くっス!
お茶だししろって言われてるんで!」
その言葉に、九兵衛は顔を上げた。

「それって万斉殿にもか?!」
万斉の名前にまた子の顔が一気に強張った。
「そうっスけど…だからどうしたんスか?」

万斉と九兵衛の関係にまた子は気が付いている。
また子にとって、高杉晋助という存在は絶対的なもので、その高杉の大事なものはまた子にだって大事なもので。
だから、万斉に九兵衛を渡すわけにはいかないのだ。

だけど九兵衛はベッドサイドのテーブルのメモ用紙にペンで何かを書き込むとそれをまた子に渡した。
「頼む、お願いだ!
これを誰にも分からないように万斉殿に渡して欲しい!
また子殿しか頼れる人はいない!」

「困るっス!
っつかあんた、晋助様のことは…」
言いかけてまた子は息を飲む。
九兵衛は泣いてた。
そして左手の薬指には指輪が光っていた。

………晋助様の大事な人はあたしにも大事な人っス。
………だから、泣かせるわけにいかないっス。

………それに、彼女の意思は…?
無理やりここにつれてこられた彼女の意思はどうなるんスか?

あたしがいきなりどこかに連れ去られて、晋助様のことを忘れろといわれてもできないように、彼女にだって大事な人がいたかもしれない。

今だって、彼女の行方を真選組や見廻組が探している。
そうまでして、彼女を探したい人がいるのだと思う。
そして、彼女だってそういう人を大事に思っていただろう。

そういう人から引き離されてしまった彼女の支えが万斉だということは分かるから。
イヤだといえなかった。
渋々だったけど紙を受け取ると、九兵衛は何度もありがとうといってまた子に頭を下げた。

「いえ…」
また子はそれだけ言って高杉の部屋をでると、廊下を歩く。
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