銀魂

□となりで眠らせてVer.銀魂
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せっかく九ちゃんへの気持ちが通じて、両想いになって、色んな面倒なことも俺にしては根気よくパスして、やっと結婚できたっていうのに…。

俺は屯所の自室の時計を見上げる。
時刻は午前0時を過ぎたところ。

いくら屯所から近いマンションに住んでるからって、明日は午前4時に御用改めに入る。
九ちゃんの待ってる自宅に帰るより、屯所で仮眠するほうが効率がいい。

俺はスマホに手を伸ばすと九ちゃんの電話番号を呼び出した。
コール5回で九ちゃんはすぐに電話に出た。

「総悟くん?
お疲れ様。」
「九ちゃん、起きて待ってんですかィ?」
「ううん、電話の音で起きたんだ。
ちゃんと寝てた。」
そうは言うけど、九ちゃんの声は今まで寝てたような声じゃなかった。

「ごめん、九ちゃん。
今日も家に帰れそうにねェんでさァ。」
俺はそんな九ちゃんに罪悪感を感じながらそう告げた。

「そうなんだ。
でも最近忙しそうだから仕方ない。
無理しないで体に気をつけてくれ。」
九ちゃんは精一杯の明るい声で言う。

「本当にごめん。」
「仕事なんだから仕方ない。
気にしないでゆっくり休んでくれ。」
「分かりやした。」
「おやすみ。」
「おやすみ。」

俺は切れた電話を見る。

付き合い始めて分かったけど、九ちゃんは本当はすっごく寂しがり屋だ。
今までずっと、育ちは複雑だったけど、あの爺さんやおやじさんはもちろん、柳生四天王や門下生からも愛情を注がれて、大切にされてきた九ちゃん。
多くの人に囲まれてにぎやかな中で暮らしてきた九ちゃん。

そんな彼女が、自分以外は誰もいない部屋でたった一人でいつ帰るか分かんねェ俺の帰りを待ってる。
寂しくねェはずがねェんだ。
今頃、寂しくて泣いんじゃねぇか、俺はそう思いながらも、疲れていたのかあっという間に眠りに落ちた。


結婚式はできなかった。

式の当日、そよ姫の誘拐未遂事件が起こって結婚式どころじゃなかった。

タキシードを脱ぎ捨てた俺に九ちゃんは
「来賓の方々には僕がきちんと謝っておくから総悟くんは仕事頑張ってくれ。」
と言った。

幕府に仕える柳生家次期当主の九ちゃんが、そよ姫様の誘拐未遂事件がおきているというのに、式なんかできるはずがなかった。

式はただの食事会になって、九ちゃんは簡素なスーツに着替えて来賓一人一人に頭を下げて回ったらしい。
『あんな男はやめた方がいい。
本家の跡取り娘が、なんで真選組のたかが隊長なんかと結婚するんだ。』
って九ちゃんを責めたやつもいたって旦那から聞いた。
それでも九ちゃんはただ謝ってたって。

そんな九ちゃんに俺がしたことと言えば、慶弔休暇の返上と、新婚旅行のキャンセルと、結婚一ヶ月で新居に帰ったのは二回だけという、いきなり離婚を切り出されても文句が言えないようなことだった。

そよ姫の誘拐は未遂に終わったけれど、犯人は確実に捕まえないといけない。
それで俺ァ今も忙しい。
近藤さんや土方のヤローはもっと忙しいんだろうが、俺ァ新婚一ヶ月なんだけどなァ。


3時半に叩き起こされ、御用改めに向う。

この一ヶ月、片っ端から攘夷浪士を逮捕してるけど、そよ姫の誘拐未遂事件の犯人はつかめないままだった。

だけど、今日、御用改めに入って逮捕した男達が事件の犯人だったと分かった。

やっと、事件解決だ。

「総悟、結婚式まで潰させて、一ヶ月も家に帰れない状態にして悪かったな。
明日・明後日と休んでいいからゆっくり過ごせ。
九ちゃんにも、よろしくな。」

近藤さんに言われ、俺は返事もそこそこに屯所を飛び出していた。

夜は明けかけている。
闇にすこしづつ光が混じり、もうあと一時間もすれば光が溢れるだろう道を、俺は家まで走った。

九ちゃんはまだ寝てるだろう。
それでも早く、早く会いたい、早く会いたい、会いたい、九ちゃんに。

俺はエレベーターを待てずに、階段を駆け上がって、家のドアを開けた。
本当はただいまって言いたいけど、きっと九ちゃんは寝てると思ったから静かに家の中に入る。

廊下に入ってすぐの寝室に入る。
一緒に寝るはずだったダブルベッド、結婚してから2回しか使ってねー、そう思いながら俺はベッドに近づいていく。

ベッドの端っこには九ちゃんが眠っていた。

俺は隊服の上着を脱いでスカーフ外してズボンも脱ぐとベッドに潜り込んで九ちゃんを抱きしめようと、掛け布団を捲って顔がにやけるのを押さえることができなかった。

九ちゃんは俺の枕を抱いて寝ていた。
そして俺の隊服のシャツを着ていた。

そういえば、前に言ってた。
「一人にしてばっかでごめん。」
と謝る俺に
「大丈夫。
総悟くんの事、ちゃんと身近に感じてるから。」
って。

それは気持ちで俺を思ってるって事だと思ってたけど、そうじゃなくて、俺の服着て、俺の枕だいて、俺を身近に感じてったことだったんだ。

俺は、顔にかかってる九ちゃんの綺麗な黒髪を払う。
九ちゃんの白くて綺麗な頬には涙の跡があって、きっと、泣きながら俺の服着て、俺の枕抱いて寝ていたんだなと思うと、申し訳ないと思うけど、可愛いなとも思う。

あー、やっぱ俺、九ちゃんが大好きだ。
愛してまさァ。

俺はベッドに潜り込むと九ちゃんをぎゅっと抱きしめた。
九ちゃんは少しだけ眉を顰めたけど、目を覚ますことはなかった。

腕の中のあったけェぬくもりをさらに強く抱きしめて、俺ァ目を閉じる。
あー、すげェ落ち着きまさァ。

だからこれからはずっとずっと、君のとなりで眠りたい。


END

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