銀魂

□この世界であなただけ
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廊下を歩いていたまた子は、高杉の部屋のドアがいきなり開いたことで驚いて立ちすくむ。

だけど高杉はそんなことには気がついていないようだった。

そのまま廊下を足早に歩く高杉の背中に
「晋助様、どこに行くんっスか?!」
とまた子は声をかける。

それでようやく、高杉は振り返った。
「ちょっと出てくる。」
「一人じゃ危険っスよ!
何かあったらどうするつもりっスか?!」
「何もねェ。」
「だめっスよ!」

そう言って無理やり高杉についてきたまた子は、高杉についてきたことを後悔した。


高杉は、人気のない神社に来た。

そこには、白い上着に長い黒髪をポニーテールにした柳生家次期当主・柳生九兵衛がいた。

柳生九兵衛…高杉の恋人だ。
なにがどうなってそういう関係になったかは、また子は知らない。
幕府を滅ぼすことを目標にしてる攘夷浪士と、その幕府に仕える名家の次期当主がどうしてそんな関係になったのか…けど高杉は九兵衛と出会い、恋をして、少しだけ変わった。
また子はそう思う。

「九兵衛。」
高杉は九兵衛にそう声をかけた。
振り返った九兵衛は、高杉の後ろにいるまた子には全然気がついていなかった。

「晋助!」
と高杉の名前を呼ぶと、高杉に向って走ってきてそのまま抱きついた。

高杉はそれをさも当然の様に抱きしめて受け入れる。

「どうした?」
また子が聞いたこともないような優しい声音で九兵衛の背中を撫でる高杉の顔は、過激派攘夷浪士とは思えないような慈愛に満ちた表情だった。
九兵衛はそんな高杉の背中に腕を回して強く抱きつきながら泣いている。

「泣いてるだけじゃわかんねェだろうが。
どうした?」
そうは言いつつも、高杉は九兵衛が落ち着くまでずっとその背中を撫で続けた。

そうしてやっと落ち着いた九兵衛は高杉に言ったのだった。

「僕の縁談が決まったとパパ上に言われた…。
上様の側用人の次男との縁談だって…。
一ヵ月後に結納して、一年後に結婚するって…相手は婿養子に入ってくれるからこれ以上ないいい縁談だって…。
僕、結婚なんかしたくない。
晋助のそばにいたい、ずっと晋助のそばにいたいんだ…!」

九兵衛は再び泣きだす。
その背中を高杉はそっと撫でる。

「俺もてめェを俺以外の男と結婚させるわけにいかねェなァ。
一緒に来い、てめェには俺以外の男なんかいらねェだろ?」

また子は高杉の言葉に目を見開く。
高杉晋助という男にまた子は心酔している。
だけど高杉は、また子に執着はしていない。
また子に…というか、自分の行く道を進むためなら、鬼兵隊の人間が何人その道に屍になって転がろうとその横を目もくれずに進む男だと、みんなが分かっている。
目的のためなら、犠牲を惜しまない、高杉はそういう男なのだ。
その高杉があんなことを言うなんて。

唖然としているまた子の耳に聞こえたのは
「行く。
僕には晋助以外の男なんかいらないから。」
涙声で弱々しいのに妙に力強い九兵衛の答えだった。
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