銀魂

□花魁道中・捌
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目の前の男は真選組の幹部というには育ちが良さそうな気がした。
総悟なんかは顔立ちが綺麗だが、近藤や土方と同じく無骨な感じがする。

だけど、自分の隣で酒を飲んでる男…真選組参謀の伊東鴨太郎は無骨な感じはしない。
でも北斗一刀流の免許皆伝だというのだから、戦闘能力は高いのだろう。

「しかし、局長に副長、一番隊隊長まで遊女の元に通いつめているというので、どんな人かと思って来てれば、確かにあなたは美しいですね。」
自分に向って微笑む顔は穏やかでやはり真選組の幹部にしては無骨さがない。

真選組はごろつきに近い男たちが集まり、実践で腕を磨いてきた隊士が多い。
土方も道場に通って剣を習っていたが、免許皆伝ではなく、実践で経験を積んだタイプだから無骨そうに見えるのかもしれない。

伊東にはそういう感じはなく、穏やかで頭も育ちも良さそうに見える。
だけどただの穏やかで頭がいいだけの男じゃないと九兵衛は感じていた。
土方も頭はきれるが、性格的に幕府の役人との折衝には向かない。
そういう不足を補うために、入隊して一年足らずの伊東がつい最近、参謀になったばかりなのだ。

その辺りは近藤から閨の合間に聞いている。
そういう話を部下も通ってる遊女に話せる辺りが近藤の考えが足りないところであり、だけどその駆け引きのできないまっすぐさが九兵衛が好感を持ってる部分でもある。

とにかく伊東は、異例の出世をした。
そして土方がなにより嫌っている男でもある。
その男が自分のもとにきたのは、土方に含むところがあるのだろうとも思う。

「伊藤様は最近参謀に就任した方やと聞いているでありんす。
伊藤様のために、参謀というポストが作られたとか…。
すごいお方でありんすなァ。」

「そんなことはない。
それより、花魁には客をふる権利もあると聞いたけど、あなたは何で僕をふらなかったんですか?
あなたは土方君とは個人的な知り合いだと聞いている。
だったら土方君があなたに僕のことをどんな風に言っているか、大体の見当は付く。」
伊東は九兵衛をじっと見て聞いてきた。

「伊藤様こそ、どうして土方様と個人的な知り合いであるわっちを指名したでありんすか?」
九兵衛は伊東の猪口に酒を注ぎながら聞く。

「真選組幹部を骨抜きにしてる傾城はどんな人なのか、興味があった。」
伊東の言葉に九兵衛は笑った。
「傾城なんて大げさでありんす。
わっちは城を傾けるような絶世の美女でもなんでもありんせん。
この街のどこにでもいるような、ただの遊女でありんす。」
「ただの遊女とは思えないから来てみたんじゃないか。
それにあなたは花魁でしょう?
この街で一番位の高い、昔で言うなら太夫クラスの花魁。」
「期待を裏切って申し訳おざんせん。
でもわっちはただの遊女でありんす。」

そう言って九兵衛は伊東の太ももに手を置いた。
「ところで、伊藤様は北斗一刀流の免許皆伝の腕前とか…。
わっちの相手をお願いいたすでありんす。」
九兵衛はそういうと、丸めた障子紙を二つ取り出してきた。

「は?」
伊東は九兵衛の言葉に目を見開いている。

「噂を聞いたことがおざんせんか?
池田屋の柳は丸めた障子紙で暴れる客を撃退したことがあると。
ここに売られる前、わっちも剣術を多少は習っていたので、よければご指導ご鞭撻のほど…」

「ご指導ご鞭撻のほどって…別に花魁が剣なんか振り回さなくても、何かあった時の為に若い衆がいるんじゃないのか、遊郭には。」
伊東はメガネを上げて九兵衛に聞き返す。

「いいでおざんしょ?」
だけど九兵衛がにっこりと微笑んでいるので、障子紙を手に渋々立ち上がった。

九兵衛は仕掛けと着物を脱いで襦袢姿になると伊東と向き合って構えた。
いきなり上段の構えをしてきた九兵衛に伊東はびっくりする。
初めて手合わせする自分に対して、小柄な女性が上段の構えをするとは…面白い女性だ。
伊東の顔に笑みが浮かんだ。
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