銀魂

□恋人は人気タレント3
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「ずっと想いあってたのにそれを言えなかった二人が、やっと想いを伝え合えたシーンでしょう?
なのにこれで終わりじゃなんか現実感がないって言うか…沖田くんがいやじゃなかったら、別にキスシーンくらいなら構わないですけど。」
モニターで演技をチェックしてた九兵衛が監督に言う。

その言葉が聞こえていたのか、総悟の顔がパァッと輝いて、慌てて監督に近づくと
「監督、俺もそう思いまさァ。」
と言う。

「それはそうなんだけど…高杉先生の指示なんだよね。
そういうシーンを入れないで、どこまで純愛を貫けるかやってみたいって言うんだよ。」

「それじゃ、せめて顔が近づいていく前に固く抱き合うのはどうですか?
衣装が汚れるのがまずいなら、僕が自分でこの衣装買い取りします。
せっかく視聴率も順調に来てるんだから、手抜きはしたくないんです。」

九兵衛の言葉に総悟も
「そうしやしょう。」
と言う。

監督は
「そうだね、それじゃとりあえずそれでリハやってみよう。
衣装汚れると困るから九ちゃんにケープかなんか巻いてあげて。」
と言った。


俺の隣にいた近藤さんが
「九ちゃんは本当にプロ意識が高いって言うか…感心するなぁ。」
というのを、俺は
「キスシーン入れたがるのがプロ意識が高いって言うのか?」
と言いながら内心のむかむかを抑えるので精一杯だった。

君がためは今クールのドラマの中でもダントツで視聴率を稼いでいる。
回を重ねるごとに視聴率はあがり、高杉晋助が手がけた脚本のドラマの中でも、視聴率がトップだということらしい。

九兵衛が歌うつんぽプロデュースの主題歌も売れている。
ただ、この主題歌で始めて歌を歌った九兵衛はせいぜいが、素人に毛が生えた程度の歌唱力しかない。
ネットなんかでも、
『九たんかわいい♪
演技もギザうます。
でも歌へたす。』
とか書かれていて、本人もそれをひどく気にしている。

その分、演技に力が入るみてぇで、今までにないことだが、自分からキスシーンの提案なんかしやがった。
今までだって何度もドラマでキスシーンは演じたが、自分から提案なんかしたのは始めてだった。
そして脚本家からラブシーンは一切入れないという指示が出たドラマも始めてだ。

プロ根性からくる提案だと分かってはいても、自分の恋人が他の男とキスしてもいいと言ってるのを聞くのは面白くない。
ましてその相手は九兵衛を好き過ぎて芸能界入りを目指した総悟なんだから、俺の精神衛生上、大変よろしくない。
そういう女に惚れて、恋人にしたのだから仕方ないことなんだが。


「それじゃ、もう一度行きます!」
監督の言葉に全員が配置につく。

「今日はこの撮りが終わったら、終わりか。」
近藤さんの言葉に
「だな。
しかしクランクアップ近いのに、ここまで撮影がスムーズに進んだ現場、なかなかないよな。」
と俺は答えた。

普通、連続ドラマは最終回近いとタイトなスケジュールになることが多いが、この現場はスムーズに撮影が進み、余裕がある。
丸一日のオフはやれないが、今日の午後はオフをやれる。
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