銀魂

□溢れるほどの幸せをVer.銀魂
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「俺たち、結婚することになったんだ。
それで、お前にスピーチを頼みたい。
俺と九兵衛が出会うことが出来たのは、お前のお陰だからな。」
そう言った同僚の銀時の隣には、はにかんだように自分を見ている幼馴染の九兵衛がいた。

「そうか、おめでとう。
スピーチは喜んでやらせてもらう。」
桂の言葉に九兵衛が桂に微笑みかけた。

「ありがと、小太郎。」

「気にするな。
それより幸せになれよ、九兵衛。」

「俺が幸せにするよ、絶対にな。」
銀時がそう言って九兵衛の肩を強く抱く。

「俺の大事な幼馴染だ。
そうしてやってくれ。」
そう言いながら、桂は痛む左胸をそっと抑えた。


桂には、5才年下の幼馴染がいる。
柳生九兵衛…桂の家の隣に住んでいる。
九兵衛は両親が忙しいらしく、いつもひとりでぽつんと家にいた。
それを桂の母がみかねたらしく、よく面倒を見ていた。
それで自然と桂も九兵衛と一緒にいることが多かった。

桂は一人っ子で、九兵衛も一人っ子だった。
だから、桂にとって九兵衛は妹みたいなもので、九兵衛にとって桂は兄みたいなものだった。

でも、子供だった九兵衛がだんだんと成長していくうちに、桂の中に別の感情が芽生えていった。
それは愛情だった。
自分は九兵衛を異性としてみている、そう意識したのはいつ頃だっただろうか?

成長していく過程で、だんだんと美しくなっていく九兵衛が、それでも子供の時のままの気持ちで自分を
「小太郎!」
と呼んで、慕ってくれるのは、九兵衛を可愛いと思うと同時に、女として彼女を見ている桂にとって、自分はまだ彼女の兄のようなものでしかないのかと思い、切なくもなっていた。

だけど、九兵衛に自分の思いを伝えることはできなかった。
もう少し彼女が大人になったら…そんなことを思いながら、気持ちを伝えられないでいた。

それでも九兵衛は恋人を作ることもなく高校を卒業し、大学に進学した。

桂は大学卒業後、司法試験に受かって弁護士になり、弁護士事務所に勤め始めた。
そこで同僚として出会ったのが坂田銀時だった。
銀時とは妙に気があい、桂は銀時とよく話すようになった。


そんなある日、休日出勤をした時に大事な書類を家に忘れ、家に連絡して母親に持ってきてくれるように頼んだら、九兵衛がそれを持ってきてくれた。

「どうしたんだ、なんで九兵衛がここに?」
書類を持ってきたのが九兵衛だったから驚いていたら、
「おば様が急な用事でいけなくなったから、変わりに来た。
いつもおば様にはお世話になってるし。
はい、書類。」
と九兵衛は桂に言った。

「九兵衛、大学は?」
「小太郎、今日は土曜日だ。」
「あ、そうか。」
そう言って桂は九兵衛と笑いあう。

今はまだ恋人じゃなくても、こうして九兵衛と笑いあえるならそれで今は満足しよう。
そう思った桂は
「九兵衛、あと二時間くらいで仕事が終わるはずだから待っててくれないか。
そうしたら一緒に食事でもしよう。」
と九兵衛に言い、九兵衛も分かったと答えた。

事務所の入っているビルの一階の喫茶店で待っているようにいい、桂は二時間かかるはずだった仕事を一時間ちょっとで仕上げ、喫茶店に向った。

九兵衛はそこで待っていたけど、なぜか九兵衛の向かいには銀時が座っていて、二人は仲良さげに話をしていた。

「いや、さっき、ヅラが事務所で可愛い女の子と一緒にいるとこ見てさ。
そんで仕事終わって、帰る前に茶でも飲もうかと思ってここに入ったら、その子がいたから声かけた。
この子、ヅラの幼馴染なんだってな。」

「小太郎、この人面白い人だな。」

銀時と九兵衛はそう言って笑っていた。
そのままの流れで、銀時も一緒に食事に行くことになった。


「お前の幼馴染の九兵衛と、きちんと付き合うことになった。」
銀時から報告を受けたのはその二ヶ月後だった。

それから二年が経った今日、桂は銀時から
「話があんだよ。
一緒にメシでも食いにいかねぇか。」
と言われ、銀時に連れて行かれた店では九兵衛が待っていた。
九兵衛はまだ大学を卒業していないが、就職先も決まっているので、銀時はプロポーズをしたんだと照れたように笑っていた。
それを九兵衛が受けてくれたと。

「……そうか、おめでとう。
しかし、大学を卒業してからでもよかったんじゃないか?」
桂の言葉に銀時が頭をかく。

「だってよ、これで就職なんかして他の男を好きになったりされたらいやじゃん。
だから結婚しちまえばいいかなって。
結婚したら、付き合ってるだけと違って簡単に別れられないだろ?
俺は九兵衛と別れる気はないけど、九兵衛はどうなるかわかんねーし。
だから早いとこ結婚しようって思ってな。」
銀時の言葉に九兵衛は
「僕だって、結婚なんかしなくても銀時以外の人になんか興味はないのに…。」
と言う。

二人はみつめあって笑っている。
とても幸せそうだった。

その時、九兵衛の携帯がなり、
「ちょっとごめんね、妙ちゃんからだ。」
と言うと九兵衛が席を外した。
店の中は電波がよくないのか、九兵衛は店の外に出て行った。
その後姿を見送っていた銀時が桂に向き直った。

そして真剣な顔で言う。
「必ず幸せにする、九兵衛のこと。
だから安心してくれ。
それから悪かったな、お前好きだったんだろ、九兵衛のこと。」
銀時の言葉に桂は顔を上げた。

「なんでお前がそんなことを知っているんだ。」

「最初は気がついてなかった。
だから九兵衛を気に入って、連絡先聞いたんだ。
そんで付き合い始めて。
だけど、付き合うことにしたっていった時のお前の顔見てなんとなく、お前、九兵衛のこと好きだったんだなぁって。
悪かったな。」

銀時の言葉に桂はなんと答えていいか分からなかった。
悪かったななんて言われてもどうにもならない。
だって九兵衛が選んだのは銀時だったのだ。
自分じゃなく。

「俺が九兵衛を好きとか好きじゃないとかは関係ない。
九兵衛が銀時を好きだということの方が大事だろう。
だから九兵衛を幸せにしてやってくれ。」

「ああ。
必ず幸せにする。」

銀時の言葉に桂は頷くことしかできなかった。
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