銀魂

□花魁道中・漆
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「もっとちゃんと指先を揃えろ!
指先まで気を使え。
こうだ。」
踊っていた新造は九兵衛の言葉に
「すみません。」
と謝って後ろに控える。

代わりに九兵衛が自分で踊ってみせた。
九兵衛の新造と禿はその踊りに見とれていた。
江戸一番と言われる自分たちの姐さんは、舞でも歌でも三味線でもなんでも美しく完璧にこなす。
この芸を見れるだけでも金を払う価値はあるという客もいるくらいだ。

「指先はこう。
はい、もう一度。」
九兵衛はそういうと扇子を新造に渡す。
新造はそれを受け取って再び踊り始めた。


昼見世が始まるまでの時間。
九兵衛は来年に突き出しを控えている新造の菊乃に、踊りの稽古をしていた。
九兵衛の他の新造も禿も部屋に控えてその様子を見ている。

その時だった。
「花魁、沖田ノ旦那ガ登楼シタヨ。」
と部屋の外からキャサリンに声を掛けられた。
禿も新造も部屋にいるので九兵衛はため息をつくのをこらえ、
「まだ昼見世が始まるまで、30分あるから待っていてもらって下さい。」
とキャサリンに言った。

「分カリマシタ。」
返事をしてキャサリンが去っていったのを足音で感じたのか、
「江戸の娘達からかっこいいなんて騒がれ、真選組最強の一番隊長隊長なんて言っても所詮は武州の田舎侍。
昼見世が始まる前に登楼なんて野暮なお人。」
九兵衛の部屋にいた禿の一人が呟いた。

本音を言えば確かに昼見世の始まる前は遊女は入浴をしたり、化粧をしたり、色々と忙しい。
今日は九兵衛は踊りの稽古があったのでそのまま昼見世ができるように化粧も髪結いも済ませていたけど、普段ならまだ化粧をしているところだ。
実際にまだ髪を結っている最中の遊女もいる。
野暮と言われても仕方ないが、そういうことを許してもいけない。

「そないなこと言ったらありんせん。
わっちらはお客様のお陰で食事もできるでありんす。」
と厳しく注意する。

「はい、すみません、柳姐さん。」
禿は慌てて謝った。

確かに、九兵衛の下についている禿である自分たちは他の姐さんに付いてる禿よりもいい生活をしている。
それは九兵衛が売れっ妓で稼いでくれるからだ。
その稼ぎは九兵衛の客のお陰で、確かに注意された通りだ。

「今日の稽古はもうおしまい。
僕が集中できない。」
九兵衛はそう言うとその場にいた自分の禿と新造に小遣いを渡した。
「昼見世が始めるまで少し時間があるから、お菓子でも買ってきな。」
「ありがとう!
姐さん大好き!」
禿も新造も笑って九兵衛の部屋を出て行く。

九兵衛はその背中を見送ってため息をつくと、鏡台の前に座って紅を手に取った。
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