銀魂

□幸せのイロVer.柳生四天王
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Ver.西野

「高い高いね〜!」

西野に肩車をしてもらっている陽一は嬉しそうな声を出す。
肩車をしている西野には陽一の顔は見えないけれど、きっと笑顔でいてくれているんだろうとそう思う。


若を…九兵衛をこんな風に笑顔にすることは自分にはできなかった。

九兵衛の幼い頃を自分は知らないけれど、東城や北大路に聞いてはいる。
九兵衛はいつも敏木斎や輿矩に
『男になれ!』
としごかれて泣いてばかりいたことも、左目を失ってからは泣かなくなった代わりに常に厳しい表情しかしなくなったことも。

自分が四天王として九兵衛に仕える様になってから高杉と一緒になるためにこの家を出るまで、九兵衛の笑顔なんて数えるほどしか見た事がない。

だけど、高杉と一緒になるために家を出た九兵衛が戻ってきた時、夫の高杉晋助と共に柳生家に連れてきた、九兵衛によく似たこの子は、常にニコニコと笑っている。

九兵衛はきっと、幸せなのだと思う。
だからこの子はいつもニコニコと笑っているのだろう。

九兵衛は過ごすことができなかった、思わず笑みがこぼれてしまうほど楽しくて幸せな幼少期を、この子は過ごすことができているのだと思う。


「にっくん、父上と母上はまだ?」

頭上から降ってくる声に西野は我に返る。

「今日は、新しく開く道場のことで打ち合わせに行ってますから、もう少し時間がかかります。
西野がお相手するのではいやですか、陽一様?」

「ううん。
にっくん好き!
だって大きいし、やさしいし!」

西野の言葉に陽一はそう答えてくれた。


高杉と九兵衛は京都の道場はたたまなかった。
京都の道場の保護者からの要望で、京都の道場はそのまま柳生流の道場として残し、輿矩はそこに門下の中でも教養が高くて、剣の腕もいい数人の人を送ったのだ。

高杉は九兵衛と陽一と共に初めて柳生家に顔を出してからきっかり一年後に、道場の全ての業務を引き継いでから、こちらに戻ってきた。

高杉は柳生流の次期当主・九兵衛の夫なので京都に残ってもらうわけにいかなかった。

それに輿矩は左大臣で、いずれ九兵衛の夫である高杉も新政府になんらかの形で関わっていくことになると思う。
輿矩も九兵衛や孫は可愛いだろうが、柳生家の今後のことも考えなければいけないのは四天王も分かっている。
だから、仕方のないことでもあるのだ。

仕方のないことだけど、これからこの子も少しづつ、政治的なものに関わっていかなければいけないのだと思うと、それを残念に思う自分もいる。

今日だって、陽一には新しい道場の打ち合わせと言ったけど、実際には高杉と九兵衛は新政府の関係者の所に、挨拶回りに行っているという意味合いの方が強い。

こちらに戻ってきた以上は、そういうことは避けては通れないことなのだろうけど…。


「にっくん、きっくんが来た!」

陽一の言葉に顔を上げると、北大路が自分たちに向って歩いてきていた。

「きっく〜ん!」
陽一が北大路の名前を呼ぶと、北大路の顔に笑みが浮かぶ。
それはめったに見れない表情だ。

「陽一様、そろそろ稽古の時間です。」

「はい!」

北大路の言葉に陽一は嫌がることもなく返事をした。

九兵衛は稽古がいやでよく脱走して、そのたびに北大路は東城と共に九兵衛を探し回った。

だけど陽一は稽古を楽しんでいる。

京都にいた間に、高杉や九兵衛から教えてもらっていたのだろう。
陽一の剣は確実に柳生の剣だ。
二人とも陽一には柳生流の剣を教えていたのだ。

「では、道場までこのまま西野がお連れしましょう!」

「ありがと!
にっくんすき!」

陽一の言葉に西野は笑った。
「拙者も陽一様が好きですぞ!
大切に、大切に思っております!」

「あっ!
父上と母上!」

西野の言葉を聞いていたのかいないのか…それよりも陽一の気はすでに戻ってきたらしい高杉と九兵衛の方にいってしまったようだ。

「お家のお外にいた!
お迎えする〜!」

陽一の声に西野と北大路は思わず笑っていた。

「それでは、お迎えに行きましょう。」
北大路の言葉に陽一は
「はい!」
と返事をした。

西野と北大路は柳生家の門に向って歩き出す。

「父上♪
母上♪」
適当なメロディーでそれでも両親のことを歌う陽一は、本当に父と母を愛し、愛されているのだと西野は思う。


一目あったその日から、女であるにも関わらず、柳生家を背負うために一人で立とうとしてる九兵衛を支えたいと思った。

この人を愛し、守り、支えようと思った。
笑顔でいて欲しい、幸せになって欲しいと、そう願った。

今もその気持ちは変わっていない。

自分の世界の全ては九兵衛のためにあるし、九兵衛は自分の最愛の人だ。

だからその九兵衛を笑顔にしてくれる高杉には、本当に感謝している。
それが元・過激派の攘夷浪士でもだ。

柳生家の門をくぐった高杉と九兵衛の姿が見えてきた。
二人はしっかりと手を繋いでいる。

「父上!
母上!」

高杉と九兵衛の姿を見た陽一の上げた声に、高杉と九兵衛も気がついて笑みを浮かべた。

西野が陽一を肩から下ろすと陽一は高杉と九兵衛に向って走っていく。
二人は笑みを浮かべて陽一を見ていて、高杉が手を広げると陽一はそこに飛び込んでいった。
自分の腕の中に飛び込んできた陽一を抱き上げると高杉と、高杉に抱き上げられている陽一の頭を撫でる九兵衛。


九兵衛の顔は、柳生家に居た頃、西野や北大路が見たことのない、綺麗で幸せそうなものだった。

「若はお幸せなんだな。
俺は幼少の頃よりずっと若のおそばにいたが、若があのように笑うところは見たことがなかった。
若が幸せなら、あのように笑えるのなら、俺は幸せだ。」

北大路の言葉に西野は

「そうだな。」
と言う。

九兵衛が笑えるのなら、幸せなのなら、その幸せを全力で守ろう。

一生仕えると決めたこの人を幸せにしてくれた、元は過激派の攘夷浪士の男のことも含めて。

西野は笑みを浮かべながら、幸せそうな三人を見ていた。


END
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