銀魂

□若奥様は高校生
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今頃、総悟が九兵衛にせまってたらどうしよう?
もし九兵衛が、10才も年上の俺より、自分と年の近い総悟と一緒にいる方が楽しいと思ったらどうしよう?

そんな事を考えてたら補習にも身が入らねぇ。
まぁもともと今日の補習は出席日数を補うための補習で、そんなにレベルの高いものじゃない。

身が入らなくても問題はなかったが、松平のとっつあんには
「なんだ、トシ。
元気ねぇな、新妻に浮気でもされたか?」
とか洒落にならねぇことを言われ、ますます気分が沈んだ。

あーあ、俺、今日誕生日なんだよな。
せっかく9才差に縮まった年の差も、今日また10才に戻る。
戻るっつーか、年の差なんて縮まることはねぇんだよな。

そんなことを考えながら職員室の自分の机で日報を書いてたら

「先生、誕生日、おめでとうございます。」

いきなり声を掛けられ、俺は顔を上げた。
さっきまで補習に出てた3年の女子が立ってた。

「ああ、そういやそうだったな。
ありがとな。
それより、補習がすんだなら早く帰れ。」

「あの、よかったらこれ…プレゼントなんですけど。」

俺の言葉はまるっと無視して、その生徒は俺にラッピングされた箱を差し出す。

「わりぃな、でもこういうのは受け取れねぇ。」

俺はそれを断った。
こんなもの、持って帰ったらきっと九兵衛は嫌な気分になるだろう。
総悟と九兵衛が出かけただけで、俺はこんなに気分が悪い。
形に見えるものをもらったらもっと気分を悪くするはずだ。

俺の言葉に生徒は驚いたような顔をする。
俺はため息をついた。
そんなに驚くようなことじゃねぇだろ、俺は既婚者だ。
結婚指輪もつけている。

「嫁が面白くねぇだろうが、他の女からプレゼントもらって旦那が帰ってきたら。」

「そんなに奥様が大切ですか…?」
生徒は目に涙をためて俺に聞く。

「当たり前だろ、じゃなかったら結婚なんかしねぇよ。」

「奥様は、そんなに先生に尽くしてくれるんですか?」

「はぁ?」
俺は生徒の質問の意図が分からなくて聞き返していた。

「だってプレゼントくらい受け取ってくれてもいいでしょう?
それもできないほどなんて、そんなに奥様は先生に尽くしてるんですか?
じゃなかったら奥様にそこまで気を使ったりしないでしょう?」

なんつー理論だ。
こいつは尽くされてないと、人を好きでいることができねぇんだろうか?

「あのなぁ、尽くしてくれるから愛するとか、人を好きになるっつーのはそんなもんじゃねぇだろ?
俺は尽くしてくれるから嫁を愛してるわけじゃねぇ。
俺があいつを愛してるから、あいつに不快な思いをさせたくねぇだけだ。
あいつが俺を愛してくれるから俺はあいつを愛してるんじゃねぇ、あいつが俺以外の男を愛していたとしても、俺はあいつを愛してる。
それだけだ。」

俺の言葉に生徒は目を丸くしてる。

「それがわかんねぇうちはまだまだ人を好きだなんだなんて言ってるのは早いんじゃねぇの?
分かったら早く帰れ。」

生徒の目から涙がこぼれた。
だけどそいつは
「すみませんでした…」
と言うと、頭を下げてから職員室を出て行った。

ああ、ここに俺以外の人間がいなくてよかった。
誰か他のヤツがいたら恥ずかしくてあんな事、ぜってぇ言えなかった。

日報に目を落としたら
「いけないんだ、生徒を泣かして。
悪いせんせ。」
と声を掛けられて俺は顔を上げる。

顔が熱くなるのが自分でも分かる。
そこに立ってたのは、制服を着て頬を染めた九兵衛だったからだ。

「お前…なんでここにいるんだ?!」

「備品買いに行くって言ったでしょ?
それを学校に置きに来たの。」

「総悟は?」

「一緒に行くってしつこかったけど、帰ってもらったよ。
だって、部活のことだから仕方ないとはいえ、トシくんだって僕が他の人と二人で買い物に行くのは、いやだろう?」

九兵衛の言葉に俺は頭をかく。
わかってたのか、ちゃんと。
鈍感だからそんなことすら分かってないかと思ってた。
そんな俺に九兵衛は微笑みかける。

「でも、僕が愛してるのはトシくんだけだから。
それから、誕生日、おめでとう。
これからも、よろしくお願いします。」
九兵衛はそういうと俺に箱を差し出してきた。

「もらっていいのか?」

「うん。
何がいいか分からなくて…こんなものしか思い浮かばなかった。」

俺はラッピングを丁寧にはがし、箱をあけた。
中にはネクタイピンが入っている。

「レッドコーラルっていって、5月5日の誕生石なんだって。
お店の人が言ってた。」

「ありがとな。」

俺は立ち上がると九兵衛を抱きしめた。
俺、世界で一番幸せだ。
こんなに可愛い嫁が、俺の生まれた日を祝ってくれる。

「俺も愛してる。
お前が思ってる以上に、俺はお前を愛してるんだぞ。」
そう言ったら九兵衛の腕が俺の背中に回った。

「トシくんの誕生日なのに、僕の方が誕生日プレゼントをもらったみたいだ。
ありがとう。
これからもずっとずっと一緒にいてくれ。」

九兵衛の言葉に俺は頷いて、九兵衛の唇にそっと口付けた。

END
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