銀魂
□花魁道中・陸
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「こないに長い間放っておいてたのに、久しぶりに会いにきてくれたと思ったらそんな怖い顔して…けちな人。」
九兵衛は着物の袂で顔を覆って見せるが、目の前の土方は何も言わない。
当たり前といえば当たり前かもしれない。
土方には最悪の形で高杉からの身請けの話が知られてしまったから。
それでも、いつか言わなければいけないことだ。
九兵衛は立ち上がると、座敷に入ってきてからずっと座ろうともしない土方の前に立って
「十四郎。
身請けが決まった。
鬼兵屋の高杉晋助が、僕を身請けしてくれるそうだ。」
と告げる。
土方の頬がわずかに引きつった。
それでも何も言わない土方に九兵衛はため息をついた。
「おめでとうとか、よかったなとかそういう言葉はないのか?」
その言葉に土方は九兵衛を睨みつけた。
「言える訳がねぇだろうが。」
「やっとしゃべってくれたな…。」
土方の声を聞いて、九兵衛の顔に笑みが浮かぶ。
「久しぶりに会えたんだから、そんな風に仏頂面するな。
座れ。」
九兵衛の笑みにつられて土方は言われた通りに膳の前に座る。
その隣に九兵衛も座り、土方に猪口を渡す。
黙って猪口を差し出す土方に九兵衛は酌をする。
だけど土方は猪口をそのまま膳の上に置いた。
「お前、総悟と寝たのか?」
身請けの事を知ったから不機嫌なのかと思っていた十四郎の言葉に九兵衛は驚いたが、土方はじっと九兵衛を見ている。
「今日の昼間、沖田の旦那さんが登楼したでありんす。
今日が二回目の登楼でありんす。」
「お前なんで総悟となんか寝たんだ?!
お前、花魁だろ?!
池田屋のお職だろ?!
客を選ぶこともできんだろうが!!」
土方は九兵衛の言葉にカッとなって、怒鳴っていた。
「柳姐さん……」
座敷の外から自分の禿が心配そうに声をかけてきたのに気が付いて九兵衛は
「なんでもないよ。」
と声をかける。
「姐さん…」
「大丈夫だよ。
キャサリンの手伝いでもしといで。」
「はい。」
禿の気配が部屋の前から消えてから九兵衛は土方を見る。
「最初は十四郎を困らせないでほしいと言うつもりで彼と会ったんだ。
いつも十四郎が手を焼いてる問題児だって言ってたから。
だけど彼は僕が思っていた以上に脆くて、なんだか放っておけなかった。
肩肘張って必死で頑張ってる姿が、ここに来たばかりの時の自分に重なったんだ。
僕も十四郎に再会するまでは、こで必死で生きていたから。」
「てめえはそんな理由で簡単に男と寝るのか!」
土方はそう叫んだ後、たたみを拳で叩いていた。
土方は総悟を好きではない。
自分に嫌がらせばかりする部下を好きかと言ったら、好きになるのは難しい。
それは人間だから仕方のないことだと思う。
だけどその総悟に九兵衛が抱かれていたなんて…そう思うと腹が立って腹が立って仕方ない。