銀魂

□幸せのイロVer.銀時
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「で。
獣の呻きがやむまで全てをぶっ壊す病は完治したの?」

目の前でやる気のなさそうな顔してる銀時に高杉の頬がヒクッと引き攣った。


ヅラから銀時も九兵衛の父に自分達の事で色々口添えをしてくれたと聞いて、九兵衛と陽一と三人で万事屋にお礼に来ていたのだが、座ってお茶を出され、一通り世間話をした後、ふと会話が途切れた時に銀時が言ってきた言葉がこれだ。

同じようなことを聞かれたのに、ヅラの時はこんなに頭にこなかった。
こいつには人の神経を逆なでする何かがある、そう思った高杉だけど、九兵衛が自分の手にそっと触れて

「晋助はちょっと道に迷ってただけだ。
恩師を失ったその悲しみで。
でも、銀時や桂殿、恩師との思い出のお陰でまた道を見つけて、戻ってきた。
もう、大丈夫だ。」

と銀時に言ったので、高杉は自分に触れている九兵衛の手をギュッと握った。

お前の存在が一番大きいんだ、そう言いたかったけど、銀時の前で言うとからかわれそうだから黙ったままだった。

だけど、銀時は握り合った二人の手を見て、ふっと笑った。

「何が思い出だよ。
九兵衛の存在が、こいつの中二病を治したんだろうが。」

てめェ中二病ってなんなんだ、そう言ってやろうとしたけど九兵衛が高杉を見つめて笑ったから高杉の顔も緩む。

「ははぅえー!
ちゃちゃ!」
その時、神楽と新八と遊んでいたはずの陽一が九兵衛に向って走ってきて手を出す。
「喉が渇いたのか?」
九兵衛は大きなバッグの中から子供用の紙パックの麦茶を取り出してストローをさすと陽一に渡した。

「ぎゅってしちゃだめだぞ。
そう、そっと持って。」
九兵衛は紙パックを陽一に渡して、陽一は言われた通りに紙パックをそっと持って麦茶を飲む。

「ふーん、二才くらいでもう、ストローとかでお茶飲めるのか?」
銀時の質問に
「もうすぐ三才になるからな。」
高杉は答えると陽一の頭を撫でる。
「うまいか?」
陽一はストローをくわえたまま頷く。

「九兵衛そっくりだな。
高杉の成分が何一つ入ってない感じでよかったよな。
高杉の遺伝子が入ってたらなんか色々大変そうだからな。」
その顔を見て、銀時が笑う。
高杉と九兵衛の息子は九兵衛にそっくりに銀時には見えた。

「てめェ…」
何か言いかけた高杉に九兵衛が
「父上が鼻と唇の形が晋助にそっくりだと言っていた。
おじい様と北大路も。」
と微笑みかける。
「ああ、そうだな、俺もそう思う。」
だから高杉の顔も自然と緩む。

「ちょっとぉ!
いちゃつくんなら他んとこ行ってやってくんない?!」

その様子に思わずそう言ってしまった銀時だけど
「ああ、銀時、渡すのをすっかり忘れていた。
晋助セレクトのチョコレートの詰め合わせだ。
銀時がこれが好きだって晋助が言ってたから。」
と九兵衛が綺麗にラッピングされた箱を差し出したので
「お、ありがとさん。」
とそれ以上は何も言わずに箱を受け取った。

「こんなにでかいのもらっていいの?」
銀時は嬉しそうだ。

「ああ、晋助から聞いている。
銀時と桂殿が父上に僕達の事で色々口添えをしてくれたと。
その感謝の気持ちだ。
ありがとう。」

微笑む九兵衛があまりに綺麗だったので、銀時は一瞬だけあっけに取られた。
九兵衛は確かにもともと綺麗な顔立ちをしていたけど、今はそれだけじゃない他の綺麗さがある。

そしてそんな九兵衛を見ている高杉も、優しい目をしていた。
子供の頃からの付き合いの自分たちですら見たことがない、穏やかで慈愛に満ちた顔。
人から愛され、心が満たされると自分も人を愛することができるようになるのか。
九兵衛に愛されて、こいつは変わった。
銀時は高杉の顔を見ながらそんなことを思う。


「ちちぅえ、だっこ!」
麦茶を飲み終わった陽一は高杉に向って手を差し出す。
「ほら、来い。
前、わりぃな。」
高杉は九兵衛にそう言うと手を伸ばして陽一を抱き上げた。

高杉の膝の上で陽一は笑っている。
それは銀時も思わず笑みを浮かべてしまうほどの可愛らしさだった。

「子供は可愛いアル。
銀ちゃん、万事屋にも子供を入れるアル!」
「神楽ちゃん、どこで子供を見つけてくるの?!
でも、本当に可愛いですね、子供って。」
神楽と新八もその様子を見て笑ってる。

グレてた旧友の落ち着いた姿を見て、嬉しいと思うと共に少し羨ましいと思う自分もいた。



銀時にたくさんのチョコが入った大きな箱と優しい気持ちを置いて、三人は帰っていった。

その後姿を銀時は万事屋の窓から見送っている。

松陽先生から一文字もらって陽一と名づけられた子供を真ん中にして、三人は手を繋いで帰っていく。
その姿は夕日で赤く染まっていた。

赤といったら思い浮かぶのは攘夷戦争時代の血の色だけだった。
先生を、友を、国を、自分にかかる全てのものを守りたくて、必死で戦った。
斬って斬って、自らが血で赤く染まっていってもこの手に取り戻したいものがあった。

それは結局取り戻すことはできなかったけど。
今、血の赤じゃなく、幸せそうな家族を染め上げる夕日の赤が自分の記憶に上書きされて、なんだかすごく幸せな気持ちになる。

取り戻すことはできなかったけど、これから手に入れることができるものもあるんだと、高杉と九兵衛が教えてくれた。

「だから、口添えしてやったんだよ。
お前らは俺達の希望なんだよ。
全て失っても、またやり直せる、そういう希望なんだよ。」

ふいに三人が立ち止まった。
そして高杉が子供を抱き上げた。
高杉は片手で子供を抱き上げたのか、もう一方の手を九兵衛の手としっかりと握りあってまた歩き出す。

幸せそうなあの家族の背中を染める夕日の色は、赤。
幸せそうな色じゃねーかよ。

銀時の顔に自然と笑みが浮かぶ。

「これからもずっと、いつまでもお幸せに。」

遠ざかっていく三人の背中に銀時は呟いた。

END

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